17.02.03 (3/3ページ)
Vol.3

「モノづくり」 に大切なコト ~MONSTER CACAO~

もう一つ、伝えておかなければいけないことがある。それは、「伝えること」の中身は、チョコレートの創作にまつわるストーリーやコンクールで受賞した、という結果だけでは決してないということだ。根っこは「こんなお菓子があったよ」ということ以外に、お菓子を取り巻く環境全ての要素として、「お庭に咲いたお花」にしても、「新しい店舗の工事が始まったこと」でも何でもニュースになりうるのである。しかし、それは全て本物でなければならない。本物とは、嘘ではないこと。人から聞いたレシピで何かを作っても、それが本当に自分の体験を通して感じたことから表現したいと思ったことでなければ、何も伝わらないし、伝えることそのものがないということだ。だから、人が感動するような商品コピーも浮かぶはずがない。メーキングが無いモノづくりは、真の意味でモノづくりではない。

幼い頃から本物に触れる機会が多いほど、その感覚は磨かれる。本物は「どうやってできているのだろう?」と興味が湧くつくりになっている。採算度外視の価格でお菓子を販売している未来製作所に、(エスコヤマにとっては)多大な費用を投資したこともその理由だ。未来製作所の中を詳しくお伝えすることはできないが、創ったメンバーの中に、アイアンアーティストという肩書きを持つ方がいる。その方は「こういうのを創るためにこの仕事を選んだんだ」とおっしゃっていた。その言葉を聞いて、僕はものすごくうれしくなった。そんな方が創ってくださったものは気持ちも含めて間違いなく「本物」だからだ。きっとその作品に気付いた子どもたちには何かが伝わっていると思う。

未来製作所だけでなく、本物の土で塗られた壁に、同じくアイアンアーティストによって造られた向く素材からの削り出しの歯車の数々によって構成されたチョコレート専門店のRozilla。「この空間、すごく好きやわぁ」と、お客様が言ってくださるような作品で溢れたお店でなければ、飽きずに何度も足を運んでくださらない。

皆さんも学生時代を思い返してほしい。クラスの人気者は、常に新しい、そしてみんなが知らないニュースを持っている子だったと思う。そういう人の周りには自然と人が集まってくるものである。

今も僕は、「明日お客様が来られなかったらどうしよう」と常に心配心が働いている。だから、常に新作のチョコレートをはじめ、お菓子を創り続ける。そして、お店づくりにしても、まだまだサービスの面でも足りていないと思ったことに対して手を打って、お客様に少しでもスムーズにお買い物をしていただけるように、改善の道を探る。それが自然とニュースになっているのである。自分が創り出した物がお客様にとっても「ついつい伝えたくなるモノ・コト」でなければ、それはただの自分勝手になってしまう。もちろん、誰もが感動してくれるようなモノを生み出すためには発想だけではなく、高い技術力も必要なのだが。

技術は二の次、というつもりは無いが、モノづくりにおいて大切なことは、①②の能力と、その二つが合わさって初めて花開く③の能力だ。これまで述べたことは、どんなモノづくりにも共通して大切なことだ。僕がケーキ屋だから、という話ではない。いろいろ挙げてきた例の中に、子どもの頃の経験がたくさんあった。その経験が53歳になる今も活きているのは紛れも無い事実だ。

この3体のモンスターを見て、そして中に詰め込まれたボンボンショコラを召し上がっていただいて、それぞれの能力の大切さを考える機会にしていただけたらと思う。そして、子どもたちの話に一生懸命耳を傾け、大切なことは何か、を自分の体験も交えながら一生懸命伝えていただきたい。その大人の一生懸命な姿こそ、未来の日本のモノづくりを支える子どもたちへ伝わる「何か」であり、そんな私の皆さんへ伝えたい思いが、このMONSTER CACAOには込められていることを皆さんにも知っておいていただきたいと心から思う。

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