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Vol.7

誰もがファンタジー・ディレクター


2017年11月13日、パティシエ エス コヤマをオープンして14周年に当たる日、新しい一つのブランドが敷地内に生まれた。お店の名前は「夢先案内会社FANTASY DIRECTOR(ゆめさきあんないがいしゃ・ファンタジー・ディレクター)」と名づけた。ここは「デコレーションケーキの専門店」だ。恐らく、実店舗としてデコレーションケーキのみを取り扱うお店は世界的にも類を見ないだろう。


 冒頭の映像は、「ファンタジー・ディレクター」のコンセプトムービーである。このムービーは、オリジナルストーリー『1000本の鍵物語(原案/小山 進、文/中山阿津子)』と、オリジナル楽曲『魔法の鍵(作詞・作曲/平山 照継)』の2つが融合し、生まれたものだ。映像の中に登場する「壺(のようなもの)」は、ヴェネツィアンガラス作家・土田康彦氏の作品である。パッと見て、このファンタジー・ディレクターにピッタリだと一目ぼれした。これは映像の通りの場所に飾られている。そしてコンセプトの中でも文字通りキーとなるのが、店内の至るところにも飾られている「鍵」である。

「 1000本の鍵物語( 原案/小山 進、文/中山阿津子 )」

このお店のコンセプトは、何となくイメージしていただけただろうか?
 では、なぜ世界的にも前例の無いお店を建てる必要があったのか?その話をしたい。
 まず、オープンして10年以上が経った今、これまで三田市外からのお客様が多くを占めていたところが、近年地域の方々に向けたお菓子教室が開催できるなど、少しずつではあるが外部から来られるお客様だけでなく、三田に住まわれている方へ向けた取り組みができるようになってきたこともあり、「もっともっと表現できるはずのデコレーションケーキの世界観を、エスコヤマのある三田市内とその近郊のお客様を中心に、もっと紹介していってもいい時期だ」と判断したのがひとつの大きな理由だ。
 飾りの生クリームの搾り方やフルーツの置き方だけでも様々な表現ができるし、ケーキ自体の形も、飾りのチョコレートの形やマカロンの色合いなど、表現は無限だ。そうして無限に広がるデザインと味の表現を通して、お客様の想像を超えるケーキを創り、たくさんの感動を届けたい。そして、子どもたちにはケーキを見たとき、食べたときに感じたことをしっかりと記憶に刻んで大人になってほしい、将来の日本を支えるクリエイターに育ってほしい、そんな願いも込めた。
 その願いを形にしたケーキが、毎日このファンタジー・ディレクターのショーケースには並んでいる。子どもの頃、誰もが一度は憧れたのは、きっと童話『ヘンゼルとグレーテル』に出てくる「お菓子の家」だろう。だが、そこはデコレーションケーキ専門店らしく、お店に並んでいるのは2段ケーキ「Fantasy Dream~2段生クリームデコレーション~」である。そんな、夢に見たデコレーションケーキが毎日店頭に並んでいるお店を創りたかった。これも理由の一つである。
 また、ここ数年間でありがたいことに特別注文のデコレーションケーキのご予約が増え、そのご注文を伺う時間が、通常商品をご予約された方へのお受け渡しや発送のご注文を伺うタイミングがバッティングしてしまうことが多くなっていた。そのため、本来ギフトサロンはお客様のご要望をゆっくり聞くためにつくった空間であったが、その目的が十分には果たせなくなってしまった。そうなると自然な流れとして、ギフトサロンの業務の中に含まれていた「デコレーションケーキのご予約受付」「お受け渡し」を分離させなければならない、という考えに至ったからである。


オープン以来、デコレーションケーキは、小山ロールをはじめとする生菓子を主に販売している本店パティスリーのセンターのショーケースに並べて販売してきたが、正直このプレゼンテーションには僕自身当初から満足をしていなかった。しかし、今日の改善に至るまで14年の歳月が必要だったのは「そのときに何が一番お客様にご迷惑をお掛けしていることなのか」「何を分家すると、その迷惑が緩和されるのか」という視点で優先順位を決め、カフェやショコラトリー、パン、コンフィチュールとマカロンなどを分家させてきたからであり、それがやっと今のタイミングでデコレーションケーキの番が回ってきた、というわけだ。
 14年間改善を繰り返す中で、その瞬間は「これが今できるベストだ」と思って実行してきた。しかし、日が経つにつれ、そして運営していくにつれ、周りの空間も変化・進化させていくにつれて、改善すべき点は常に浮かび上がってくる。ベストはあくまでも“今の”ベスト。常にベストは更新していくべき目標であるから、またステージが上がれば思ってもみないような改善点が発見される。その改善の繰り返しが自分の進むべき道であり、より良く人生を生きるためには、それしかないと思う。人は、自分の身体や生活習慣の中で改善すべきことを放置すると病気になったりもする。やっぱり僕は「放置させない生き方」をしていきたい。その思いが、店づくりにも反映されている。

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