シェフと庭師Mの庭造り日記

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Vol. 32

親愛なるコヤマシェフへ

僕が初めてコヤマシェフとお会いしたのは、エスコヤマがオープン1年目の9月でした。今でもあの時の力強い印象と共にコヤマシェフが語った言葉は今でも心の中に鮮明に残っています。第一回庭師日記にも書きましたが、
「出来たらお庭にクワガタやカブトムシがきて欲しいねん。あと、カミキリムシやカナブンもいたらうれしいなあ。そんな庭を作ってくれたらうれしいなあ」 と真剣なまなざしで語られました。

コヤマシェフの発想にはいつも遊び心があります。そして、コヤマシェフの遊び心を形にしてゆくお手伝いこそ、僕の仕事だということに気がつきました。

しかし、残念ながらコヤマシェフのような遊び心を持てる余裕が私にはありません。だから、今まで沢山の失敗を重ねてきました。
しかし、失敗した時にこそ、コヤマシェフからいろんな事を教えて頂いたようにおもいます。

すぐに行動すること。
メモをとること。
報告をすること。
確認することの大事さ。

そんな基本的な事からコヤマシェフに教わったと思います。
そして、コヤマシェフとお仕事を続けていると私には一つのしなければならないことが出来ました。
それは、コヤマシェフから学んだ考え方やあまり見えていないコヤマシェフのクリエイションの側面を人に伝えること。

この日記もその一つ。
沢山の失敗の中から教えられたことを出来るだけ多くの人に伝えたい。そうすることで、未熟な自分がコヤマシェフの側にいる意味を見いだしたかったのだとおもいます。出来るだけ側にいて、出来るだけいろんな事を学びたい。でも、役に立たない人間が近くにいる事はできません。今の自分ではいつかコヤマシェフに愛想を尽かされてしまう。正直、毎日不安でした。だから、力のない自分がどうすればコヤマシェフの役に立つか?ということがいつしか私のテーマになりました。

結果として、この10年、未熟な私を粘り強くいろんなプロジェクトに参加させてくれました。時には自分自身の力のなさがはっきり思い知らされることもありました。しかし、沢山のプロジェクトを通じて、コヤマシェフから学んだことは、

全体の中の自分の実力、役割、立ち位置を意識すること。
未熟な人間でも全体を成功に導くために自分に何ができるかを考えること。
粘り強く取り組むこと。
ぶれない軸をもつこと
柔軟であること
失敗したらきちっと謝ること。
ありがとうという気持ちを伝えること。
人を許すこと
自分と向き合い、己を知るということ。
他人と勝負するのではなく自分自身と勝負すること。

時に兄のように、
こんな事も教えてくれました。

おしゃれすることの大事さ
料理やスイーツの美味しさ
遊びも本気
フェイクではなく本物(リアル)である事の大事さ

時に経営者として
物事に深く関心を持つ事。
人に興味を持つ事
人を育てることで自分が育つということ
人のために本気で悩むこと
人が大切にしている事を尊重し、大切にすること
丁寧が武器になること。
365日は1日、1日は1時間、1時間は1分の積み重ねであること。
小さい目標を達成することを積み重ねること
今日を大事にすること。
毎日新鮮な気持ちで取り組むために工夫すること。
常に足らずを探し、それを埋めてゆくこと。

クリエイターとして、
上質なインプットが上質なアウトプットを生むということ
人生には悔しさも必要であるということ。
何事も心で感じ心を持って取り組むこと。
もの作りの面白さ
日本文化の豊かさ
人の出会いの不思議さ
庭師の本当の仕事のあり方

時に、経営者として、
時に、人生の先輩として、
時に、お兄ちゃんのように、
時に、友達のように
時に、クリエイターとして、

言葉だったり
言葉を使わずに、背中で。

初めてエスコヤマにつくったチョコレートのお店「キャトリエンムショコラ進」の前で。 ここからエスコヤマのショコラが始まった。 小山シェフ「今日でこの扉とお別れやな」

独立したときは、
「早く人を雇って、本気で後輩を育てろ。そしたら、そこでお前自身が成長できるから。」

結婚したときは、
「夫婦二人で成長しろよ。お前が見て面白かったもの、食べて美味しかったものは嫁さんにも、見せて、食べてもらえ。同じ感動を出来るだけ共有しろよ。」

子供が出来たときは、
「子供はいいぞ。疲れて帰っても、子供の寝顔を見たら、また頑張れるからな。おめでとう。」

子供が少し大きくなると、
「子供の話を聞いてあげろよ。子供はみんな一流の表現者。その表現力は子供が感じたことを聞いてあげることで、いくらでものばすことができるから。」 と言って、コヤマシェフは未来製作所という子供しか入れないパティスリーの構想をお話してくれました。それは、若いスタッフの表現力の拙さを幼少時代の親子関係の問題として考えたのがきっかけでした。

未来製作所は子供しか入れない以上、大人は子供に教えてもらわなければ、中の様子を知る事ができません。親が子供に耳を傾ける機会を作りたい。このプロジェクトは地道な活動ですが、そこからはじめなければならない、という小山シェフらしいプロジェクトです。数年前、コヤマシェフが我々夫婦に教えてくれたとき、私の妻は涙を流していました。日々の忙しさのあまり、子供達に耳を傾けれていない自分への反省と未来製作所というすばらしい発想に感動して。

そして、この12月7日。未来製作所は未来を作るべく、オープンしました。
オープン当日、子供達の反応をみて、このプロジェクトに参加できた事を心から感謝しました。我が長男もオープン当日にお店に入りパンケーキを買ってきました。そして、その日家に帰ったら、紙粘土でパンケーキを作っていました。
翌朝、コヤマシェフが
「昨日、未来製作所の家具を作ってくれた職人さんのお子さんがきてくれてたんや。だから、『お嬢ちゃんのおとうさん、天才やな。こんなにすばらしいものを粘り強く作ってくれたんや。ありがとう。』って伝えたんや。そしたら、お店の外にでてそれをお父さんに伝えてくれたんや。」と話しておられました。 カフェのhanareの中で立ち話をしていましたが、いつの間にか、コヤマシェフも私も泣いていました。
「未来製作所は子供のためのものではなく、大人のためのものやったんやな。このお店を作って本当によかった。」と。

もしかしたら、コヤマシェフの一言で家具職人のお父さんに対する目が変わったかもしれません。これをきっかけに、あの家具職人のおじょうさんもいつか家具職人を目指すのかもしれません。今はわかりませんが、未来製作所が本当に未来を作る場所だと私は感じました。
未来製作所に携われたこと、これは、人生で初めて未来を作る仕事をしたような気がしました。そして、自分の子供に自慢できる仕事を出来た喜びがありました。しかし、実はどんな仕事でも仕事は本来未来を作るため、誰かに喜んでもらうためにするものだと、未来製作所をきっかけに気がつきました。
コヤマシェフはいつも、本当に当たり前で普通の事、でも日々忘れがちな何か大切なものを教えてくれる人です。
10周年にあたり、
一緒にお仕事が出来る事、本当に感謝しております。
役に立っている自信はありませんが、役に立ちたいと思う気持ちは誰にもまけません。これからも側にいれるよう、努力します。
この10年本当にありがとうございました。