パティシエ エスコヤマ研修旅行

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es koyama IN FRANCE 2015

Vol.17 6日目 シャンパンカーヴ「Larnaudie-Hirault」訪問 WRITER:坂本 燎介

 こんにちは、バウムクーヘン担当の坂本 燎介です。
 研修旅行6日目の5月17日、シャンパンカーヴ「Larnaudie-Hirault」訪問のレポートを担当させていただきます。

 皆様よくご存知のことと思いますが、“シャンパン” とは、フランスのシャンパーニュ地方で収穫された葡萄を使い、醸造から瓶内二次発酵までの全てが規定に従って厳密に行われ、最終的に数多くの基準に合格したワインのみに認められる総称です。それ以外のものは、所謂 “スパークリングワイン” として表記されます。フランスの “クレマン” やイタリアの “スプマンテ” 、ドイツの “ゼクト”、スペインの “カヴァ” などがこれに当たります。それらの中でもシャンパンはその選定基準の厳しさと熟成期間の長さにおいて突出していると言われています。
私は大のお酒好きなので(と言っても一杯で真っ赤になる程とても弱いのですが)、今回のカーヴ見学には胸を躍らせ、参加を申し込みました。

ランス周辺の地図

この日は、朝から絶好のお天気となりました!
ホテルからマイクロバスに乗り込み、目的地まで約二時間の旅へ出発です。高速道路を走る車の窓からは、日本とは違った鮮やかな緑の景色が覗き、ヨーロッパらしい美しさにこれから向かう先への期待が高まります。
目的地である「Larnaudie-Hirault」はシャンパーニュ地方のラ・モンターニュ・ド・ランス地区のトワ-ピュイにあります。家族で経営されているカーヴで、なんと5世代にわたって作り続けられているそうです!小さな規模で収穫から出荷まで行うことの利点は、その土地や畑の特徴や、造り手の思いをしっかりと感じることができることです。

 到着したのはランス(Reims)の街。ここはかつて歴代フランス国王の聖別戴冠式が行われていたシャンパーニュ=アルデンヌ地域圏最大の都市です。
まずは観光。戴冠式が行われていたという世界遺産のノートルダム大聖堂に足を踏み入れました。正面の一部は丁度修繕中で全てが見られず少し残念でしたが、青空に映える大聖堂はとても素晴らしくきれいで、ところどころ破損したりくすんでいたりする様子に歴史が感じられます。内部には美しく光り輝くステンドグラスが多くあり、ずっと眺めていたいような気持になりました。
 ちょうど、何かの式が行われていたようです。荘厳な雰囲気に息をのみました。

 カーヴ見学の前に皆で昼食タイム。ランスの街の中にある「Le Petite Basque」というお店で、フランスバスク地方のお料理を出すレストランです。“バスク” と聞いてお気づきの方もいることでしょう。そう、スペイン・フランスにまたがるバスク地方は昨年の研修旅行で訪れた場所です(詳しくは昨年の研修旅行記をご覧ください!)。バスクカラーである赤・白・緑を基調とした店内に懐かしさを感じながら、フランスのワインと共にお料理をいただきました。

タパスの盛り合わせから始まり、シェーブルチーズ(ヤギの乳から作ったチーズ)と生ハムのサラダ、パエリア、オムレツ、そして、ソテーしたお肉 (鴨・牛・豚) とお魚 (サーモン・鱈) と量もなかなか多い!お腹いっぱいいただきました。昨年も感じたことですが、バスク地方の料理はとても家庭的な温かみがあり、ついついたくさん食べてしまいます。パエリアはなんとお米を4kgも使用して作ったそう。上に乗ったオマールエビが豪快です。テーブルに出された時は皆、すごい量だ!と口々に話しておりましたが、いつのまにかぺろりとたいらげてしまいました。

 バスク料理に満足したところで、再びバスに乗り込み、ランスの街を後に目的地であるシャンパンカーヴ「Larnaudie-Hirault」に向かいます。

 街から30分程で到着した先は、工場があるとは思えない、きれいな住宅の中でした。バスを降りたら造り手であるミカエルさんご夫婦がお出迎えしてくださいました。その場所は普通の家にしか見えず、工場が本当にあるのだろうか、別の場所にあるのかな、と思いましたが、建物の看板にはLarnaudie-Hiraultの文字。日本の工場のイメージとはずいぶんと異なり、これが文化の違いなのかな、と感じました。

最初に葡萄畑に案内して頂きました。工場から歩いてすぐの場所にあります。ずっと向こうまで畑がのび、とても広い!全体では7haの畑を所有し、土壌に合わせて三種類の葡萄を育てているそうです。その三種類とはシャンパンの規定で定められている品種の内、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネです。案内して頂いたのはランスの丘と呼ばれる所で、ここでは約1,5haの畑でピノ・ノワールという葡萄を主に作られていました。丘というだけあって畑は緩やかな斜面に広がっておりました。こういった丘で栽培することは重要なことで、テロワールと呼ばれる土壌は葡萄にとても大きな影響を与えます。これは、土壌によって温度・湿度の調節や水分の吸収率が変わってくるからです。この丘の2m下には石灰石でできた層があり、ピノ・ノワールを育てるには適した土壌だと言えるそうです。

葡萄畑に一緒に植えられたバラ

農薬などの化学物質を一切使わず、除草にもトラクターではなく手作業で行うそうで、時間はかかりますが、全ては葡萄の健康への配慮のためです。シャンパーニュの古い習慣で、バラを同じ畑に植え、健康状態を把握することがあります。これはバラの方が病気に弱いので、葡萄が病気にかからないか先に教えてくれるしるしとなります。
甘みと酸味のバランスを考慮し、程良い間隔で植えられた葡萄からは一本当たり約1,5kg(およそワイン一本分)でき、手積みによって収穫され、いよいよワインになるべく工場に運ばれます。

収穫された葡萄は、まず圧搾機にかけられ、果汁を抽出されます。その果汁を貯蔵タンクに入れ、第一次発酵を行います。そのほとんどが、ステンレス製の新しいタンクで貯蔵・発酵されますが、一部は樫の木の樽でも発酵させることもあるそうです。そうして出来上がった、ほぼワインに近い状態のものをアッサンブラージュし第二次発酵を促すために砂糖と酵母を添加し瓶詰めします。アッサンブラージュとは、葡萄の品種や収穫した年代を混合することで味わいや香りをその時のベストなものに調節することです。そうして瓶詰めされたものはボトルの口を下にして斜めに貯蔵・熟成されます。オリをとるために一定の期間ごとにそれを1/4ずつ回転させ、少しずつオリを口の部分に集めます。ある程度集まった後、口の部分を-30度に冷やし、凍らせ、発酵時に作られるガスの力でその部分のオリを取り除きます。この時、甘みを補うために砂糖を添加することもあるそうです。この糖度によって甘口・辛口がきまります。最終的には3~4年もの長い期間をかけて熟成し、シャンパンとして出荷されるまでに至るのです。
熟成の話の際、小山シェフが、ご自身はもちろんご存知でしたが、私達スタッフの中には知らない人も多いだろうと配慮してくださり「小さいボトルよりマグナムボトルの方が美味しいのか」尋ねてくださいました。ミカエルさんは、「熟成スピードが緩やかで時間をかけるから美味しくなる」とおっしゃっていました。大きいボトルでワインを飲む機会はなかなかありませんが、もし、そんなチャンスに巡りあえたら、絶対飲んでみよう、そう思いました。

オリが集まる様子がわかる透明なボトルを使って説明して頂きました。

自動で回転し、オリを集めていく機械。とてもかっこいい!

アッサンブラージュの配合が表示され、大量のシャンパンが静かに貯蔵されています。

一連のシャンパン工場見学を終えた後、試飲タイムです。今回のメインはシャンパンとエスコヤマのショコラとのマリアージュ!!4種類のシャンパンと共にショコラ、そして用意してくださったマカロン、プチシュー、ビスキュイをいただきました。

試飲したシャンパンは下記の四種類です。
・ドライ(8g/ll)
・ハーフドライ(20g/l)
・昔のレシピによる甘口(40g/l)
・ロゼ
( )内は一リットル当たりの砂糖の量を示しています。

まずは一口。どのシャンパンも口当たりがよく、繊細でかつ一言で表せないような複雑な味わいがしました。普段はあまり感じたことがないですが、余韻がとても長く、心地の良いものでした。ドライよりもハーフドライ、ロゼの方が少し甘みを感じ、飲みやすいなと思いました。また、販売はしていないのですが、100年前のレシピを基にしてつくられた糖度の高いものは、甘みが強く、シャンパンと言うよりは、シャンパンで作ったカクテルの様でした。シェフがおっしゃるには、甘みが強いせいで余韻が短く、繊細さに欠けるとのことでした。確かに言われてみればそうかもしれない。酸味・甘みのバランスによってそこまで変わってしまうのかと驚きました。

また、ショコラとの相性も良く、今までシャンパンと一緒に味わったことはありませんでしたが、マリアージュという点でとても勉強になりました。「ドライにはこれが合う」、「ロゼにはこれが合う」とシェフとミカエルさんとのやり取りを聞きながら頂くことができたので、なるほど!と思うことばかりでした。ほんの少しの違いで相性も変わることがはっきりと感じることができました。甘みや酸味などのバランスの良さやそれに合わせて口の中で感じる変化の点でも、お話されましたが、私にはまだ上手く感じ取ることができませんでした。まだまだ「味わう」、という点で分からないことが多くあり、こういった機会で全てを感じ取ることができないのはとても悔しいです。
「味わう」ことはもちろん、「感じる」ことも、何気ない日常の中でも行っていることですが、その全てを意識的にできているかと考えると、私はそうでないことが多くあります。しかしそれでは、パティシエとして、また一人の人間として伝えられることが乏しくなってしまうと思います。普段から何げなく食べるのではなくて、プロとして、何が使われているのだろうか、何を伝えようとしているのだろうか、としっかり考えながらそれを自分の中にインプットできるようにしていきます。

今回見学させていただいたワイン作りを通し、葡萄の品種・土壌・気候・味・香りなどを科学的考え、さらに人の手によって良い状態に調整し、それをその時の最高のものになるようにする作り手の強い思いが感じられました。私自身の担当している仕事に置き換えてみると、バウムクーヘンを始め、多くのお菓子にもっと向き合い、その理論・技術を学び、よりよい状態を知ることと同じだと思います。
ありがたいことに、エスコヤマは毎日多くのお客様に来ていただいております。私が担当しておりますバウムクーヘンの工房は、オープンキッチンで、たくさんのお客様が覗いていかれます。そのお客様に私は何を伝えることができるのか、今まで考えてもなかなか思いつくことができませんでした。焼きあがったバウムクーヘンをガラス越しに見られるお客様は皆、わくわくとした表情をされています。それを見たとき私は、今目の前にある仕事が、お客様の笑顔に繋がっていくことに気が付きました。こうした研修旅行だけでなく、普段からも感じ取れることはたくさんあり、そこから得た経験から美味しいお菓子を作り、それをお客様にまで届けるのが、私の役目ではないかと思います。そのためには日々の何げないものの中に意味を見つけ、それに対して一生懸命に取り組んでいこうと思います。

小山シェフ、海外研修旅行に行かせていただき、ありがとうございました。 今回学んだことから、日々の仕事に繋げ、必ずお客様に伝えられるように精進していきます!!!!