パティシエエスコヤマ研修旅行記2016

Vol.15 APSARAレストランでのディナー WRITER:辻岡 ななせ

皆さん、こんにちは。エス ブーランジュリー・製造担当の辻岡 ななせと申します。
海鮮料理で有名な「APSARAレストラン」でのディナーについてレポートさせていただきます。
よろしくお願いいたします。

古くから漁港として栄えたダナンは、新鮮なシーフードに恵まれていて、市内には美味しいレストランが数多くあるそうです。今回私が夕食をご一緒させていただいたのは、小山シェフ、広報の伊藤さん、お菓子教室担当の森下さん、この日がお誕生日ということで参加が急遽決まった「チームトラベルクラモト」の蔵本さん、そしてシェフのお知り合いの矢澤さんという方です。
矢澤さんはダナン市内で、日系企業へのシステム開発業務やコンサルティングサービスを提供する会社を設立。飲食事業として焼肉店やラーメン店など複数のレストランも経営されていらっしゃいます。その中の一つ「串焼 藩二郎」に「APSARAレストラン」での食事の後、皆で行かせていただきました。こちらについては後ほどレポートさせていただきます。

私達がお伺いした「APSARAレストラン」は、シーフードレストランが多いダナンの中でも人気のお店だそうです。今から約1000年前、チャンパー王国時代からの伝統ある民族舞踊の名前からその名を取っており、立派な門構えもその頃の建物を意識して作られています。ベトナム滞在中によく目にして印象的だった電飾が使われていました。

店内の雰囲気も落ち着いていて、チャンパー王国時代を思わせる置物やデザインが施されていました。生演奏用のスペースもありましたが、この日はバンドがお休みのため聴けなかったのが残念です。

海鮮料理が有名なだけあって、メニューには海老や蟹、さわら、雷魚、イカ、ハマグリ、金目鯛、車海老、サーモンなど予想をはるかに超える種類の魚介類を使ったお料理がありました。調理方法も幅広く、グリルや酒蒸し、フライ、ソテーされたものなど様々。今回はコースではなく、矢澤さんがお勧めされる料理をアラカルトで頂きました。

食事と合わせて頂いたのが、フランス・アルディッシュ地方の白ワイン(2014)。今回の研修旅行で小山シェフが出会った、すっきりとした酸味がベトナム料理と相性のいいワインです。よく冷えた状態では引き締まった酸味が、室温で落ち着くと華やかに広がります。温度の変化によって色々な味わいを楽しむことができるワインだ、とシェフは仰っていました。
そうこうしている間に一皿目の料理がやってきました!

「ハマグリのレモングラス土鍋蒸し」


蒸されたハマグリは身がプリッとしていて、その旨みがレモングラスの爽やかな香りとともに、口の中でじゅわっと広がります。味を“つける”のではなく“引き出す”感じが、和食の作り方に似ていると思いました。
食べる前は「どうしてレモン汁ではなくレモングラスを使うのだろう」と不思議でしたが、食べ進めていくうちに納得。レモン汁を加えてしまうと、酸味が強すぎてハマグリの旨みを損なってしまう気がします。お出汁だけでも旨みと香味が利いていて、すごく美味しかったです。

次の料理は、小山シェフお気に入りの「生春巻き」。


お馴染みの「生春巻き」は、ライスペーパーに海老や春雨、パクチーを包んだもの。ベトナム料理には欠かせない「ヌクマム」という魚醤に薬味を添えて頂きます。
魚醤と聞くと「ナンプラー」を思い浮かべる方が多いと思います。では「ヌクマム」と「ナンプラー」は何が違うのでしょうか?せっかくなので、ここで少しその違いについて触れておきましょう!
まずヌクマムもナンプラーも作り方は同じ。木樽に小魚と塩を漬け込み、4ヶ月~1年醗酵・熟成させます。このように魚を原料とした調味料「魚醤」はアジア各地で作られ、その地域によって名称や風味は様々。ベトナムでは「ヌクマム」、タイでは「ナンプラー」と呼ばれます。旨みの素であるグルタミン酸を豊富に含んでいるため、料理に使うと素材の味を引き出し、味わいにコクと深みをプラスしてくれます。
ちなみにヌクマムはナンプラーより魚に対する塩の割合が少なく、醗酵期間は短め。ナンプラーと比べて塩分は控えめですが、魚の風味はこちらの方が強めです。
私はこの研修旅行で初めて「魚醤」を口にし、つけると美味しいものの、この独特の香りに少し苦手意識を持っていました。しかし、ネギや唐辛子などの薬味を合わせることで風味が豊かになり、ベトナム滞在中に試したヌクマムの中で1番お気に入りの味でした!
他の方も「美味しい」と、生春巻きにたっぷりつけていらっしゃいました。

次の料理は「海老のすり身サトウキビ巻」

まるでつくねのような見た目です。このまま食べるのかと思いきや、ここから調理するため、ひとまず原形を見せてくださったようです。調理されて戻ってきた姿は、またまた生春巻きみたいです。

ライスペーパーの中には、先ほど見せていただいた海老のすり身や横に添えてあったお米でできた春雨のようなもの、野菜がたっぷり入っています。今度は先ほどとは違い、薬味がほとんど入っていないヌクマムにつけて食べます。中には他にもナッツやネギが隠れていて、カリッとした食感や風味がアクセントになり、生春巻きとは全く異なる味わいでした。
薬味入りのヌクマムを気に入っていた私は、試しにこの巻物にも付けてみたのですが、具材が喧嘩してしまい期待はずれ。この料理にはシンプルなヌクマムの方がよく合いました。ちょっとしたことですが、アクセントになる食材や調味料をわずかに足すだけで、こんなに味が変わるのだと実感しました。この時感じたことを、日頃携わっているパン作りに活かし、いつか素材の味を最大限に引き出した美味しいパンを作ろうと心に誓いました。

お皿に残ったサトウキビ。どうしたらいいのだろう・・・とスタッフの方に聞いてみたところ、お口直しで最後にかじるためのものなのだとか。サトウキビそのものを齧ったのは初めてでしたが、思った以上に甘くジューシーで、確かに口の中がさっぱりしました。2つあったお皿のもう一方は、サトウキビをそのようにして食べるとは知らず、下げられてしまうというハプニングも…。皆さんは、最後まで楽しんでくださいね!

そして次の料理は「空芯菜」。

中華料理やベトナム料理で有名なこのお料理は、ご一緒した森下さんのたってのリクエストです。空芯菜とはその名の通り、中心部分が空洞になっているお野菜。見た目はニラに似ていますが、癖がなく食べやすい味でした。シンプルな炒めものですがにんにくが効いていて、ここでもナッツがアクセントに。空芯菜のシャキシャキした食感と、香ばしいナッツの香りやカリッとした歯触りが絶妙でした。

次の料理は「海老と蟹の春雨炒め」。

海老や蟹はもちろん、キクラゲやニンジン、玉ねぎなど色々な具材が入っていました。やさしい味わいでとても食べやすかったです。

次は「海老のボイル」です。

見た目も大きく、歯ごたえもしっかりとしています。
あっさりしていたので何個も食べられそうなくらいで、つい皆さんもお箸をのばしていました。改めて「海鮮っておいしい!」と思った一皿です。

そして最後の料理は「揚げ春巻き」。

色々なお料理を頂きましたが、最後にテーブルに運ばれてきたのは「揚げ春巻き」。みんなが想像していたのとは、あれ?何か違います。
ここの揚げ春巻きはパン粉をつけて揚げていて、まるでフライのような仕上がりです。中は海老などのすり身が入っていて食感は柔らかく、シェフも「これはこれで美味しい」と仰っていました。春巻きひとつとっても本当に色んなスタイルがあります。
私は、皮で包まれてパリッとした食感の春巻きが好きなのですが、フライのようなこの揚げ春巻きも、また違う料理としてもう一度味わいたい一品でした。

こちらのレストランは地元の方の他、外国人観光客でも賑わっていました。全体的に醤油味で日本人に馴染みやすい味付けだったので、すごく食べやすかったです。
美味しいベトナム料理を囲みながら、矢澤さんとシェフは色々なお話をされていました。矢澤さんは、ご自身のお店を開くにあたって大切なことは「足りないことが何なのかを見つけ、そこを補っていくことだ」とおっしゃり、シェフもそこに強く共感されていらっしゃいました。

APSARAレストランを後にした私達は、その流れで矢澤さんのお店「串焼 藩二郎」へお伺いすることに。矢澤さん曰く、「日本食のようなもの」しか存在しなかったダナンで、「ないなら自分達で作ってしまえばいいんだ!」と思い立ち、このお店をオープンされたのだそうです。
中に入ると「いらっしゃいませ!」と大きな声でスタッフの方が迎えてくださいました。私は「ここは日本だっけ?」と錯覚してしまったほどです。
メニューには日本語が使われていて、“鶏モモ”や“つくね”、“トマトベーコン”など、日本の焼き鳥屋さんや居酒屋さんで見かける料理が沢山ありました。トマトベーコンは海外の方には珍しいようで、「美味しい!」と皆さん驚かれるようです。
矢澤さんが「とても新鮮で、日本に負けないくらいの美味しさです!」と仰るだけのことはあって、「シメサバ」や「イカ」のお寿司もとても美味しかったです。
2軒目にもかかわらず色々な料理をいただいた私達。中でも特に美味しかったのが「意外な組み合わせが美味しい」と矢澤さんも一押しの、麻婆カツカレー!

麻婆豆腐とカレーという異なるタイプの辛さが絶妙なバランスで合わさり、すごくおいしかったです!本格的な四川料理と日本人に馴染み深い料理が合わさったこのメニュー。なんと生み出したのはベトナムの方なのだそうです。 お店のスタッフもほとんどがベトナムの方で、日本語をとても流暢に話されます。皆さんの仕事に対する真面目な姿勢がとても素敵でした。

研修旅行中に様々な料理に出会い、「食」とはとても芸術的なもので、感性を磨くことが大切だと思いました。しかしそれと並行して習得しなければいけないことが多くあります。

私はパンの製造を担当していますが、一度教えていただいて理解したつもりでいても、上手く実践に移せないことがあります。先輩方がされている作業をもっとよく観察し、手順だけでなく生地の状態やタイミングなど理屈からきちんと理解して、それを吸収していかなければいけません。
私も4年目になり後輩が増えたことで、人に教える機会が増えました。その際も自分がまずきちんと理解していることが重要です。自分がどのレベルに立って周りに伝えるかで、現場のレベルも変わってきます。だからこそ、私自身がもっと学び成長していかなければいけません。
今回シェフとご一緒させていただき、私にはまだまだ出来ていないこと、足らないことがあると身に染みて感じました。ますは目の前にある課題を一つ一つクリアにしていくことから始めていきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。