パティシエエスコヤマ研修旅行記2016

Vol.17 エスコヤマ・ダナン文化交流会 WRITER:冨田

こんにちは。
研修旅行の最後を締めくくる「エスコヤマ・ダナン文化交流会」のレポートを担当させていただきます、広報室の冨田です。よろしくお願い致します。
入社2年目の私は、エスコヤマの研修旅行へ参加するのは今回が初めてです。途中ベトナムの暑さにダウンすることもありましたが、充実した毎日で、あっという間に最終日を迎えることになりました。

午前中のフリータイムを忙しなく過ごした私達は、大急ぎで荷物をまとめ、ホテルをチェックアウト。交流会が開かれる、ダナン市内の「Da Nang City Administrative Centre」へバスで移動です。こちらの建物はなんと34階建て!デザインはとても斬新です。
市場や博物館といった観光スポットが集まるハン川を見下ろす立地で、ダナンを代表するスポットと言って間違いありません。

交流会の模様をお伝えする前に、今回ダナンの方々と私達の交流の場が設けられた経緯について、少し触れておきます。
ちょうど今年の研修先がベトナムに決定した頃でした。小山シェフのご友人である、北海道の斉藤さんという方から「ダナンに幼稚園を創設する」という知らせが届きました。
タイミングが良すぎる話なのですが、小山シェフの周りではよくある話。“話題”を引き寄せる何かが、シェフにはあるのだと思います。
その話をきっかけに、日本とベトナムの交流を深めるために何かできることはないか・・・という話になり、今回、交流会を開催させていただけることになったのです。
しかし日本とベトナムでは、物事を進めるにあたってペースが異なります。なかなかこちらの求める答えが返ってこず、色々と分からないことを抱えたまま、日本を発つことになりました。

さて、話は交流会当日に戻り・・・
諸々の準備のため、小山シェフや広報スタッフ、交流会でお配りする試食の担当であるバウムクーヘンとショコラのメンバーは、1時間前に会場入り。モニターの調子や試食の準備、進行の確認、照明の明るさなど、皆で入念にチェックします。
館内は無駄を省いて非常にスッキリとしていて、機能性を重視した造りです。外は30℃を優に超えますが、室内の空調はジャケットを羽織っていて心地良いくらい。日本でもショコラの試食をお出しする際はいつも、室温を低めに設定していただくのですが、なかなか思うように温度が下がらず苦労することが多々。しかし今回は安心して準備を進めることができました。
「ここ、すごいな~」と会場を見渡しながら感心していたところ突然、照明係を命じられた私。
少し他人事になって過ごしていた自分に反省です。気を引き締めて、会場の方に一から操作を教えていただきます。

試食用に日本から持参したのは、小山流バウムクーヘンの「プレーン」と季節限定アイテムの「まろやか緑茶」、マドレーヌ、そしてベトナム産カカオを使用したボンボンショコラです。
研修旅行期間中、ベトナムの暑さに何度も冷や冷やさせられた分、慎ましやかにお皿にのったボンボンショコラに愛おしさを感じます。

計100名様分の試食の準備に、バウムクーヘンとショコラのメンバーは大忙し。準備が整った後は、皆で出すタイミングの確認です。
そうこうしているうちに後発組も到着して、会場は一気に賑やかに。研修期間中は想い想いの服装を楽しんでいた私達ですが、交流会では全員、各々の正装に着替えます。製造スタッフはコックコート、販売スタッフはそれぞれの店舗の制服、事務所スタッフはジャケット着用。見慣れた格好に着替えた姿は、久々に、しかもベトナムでということもあってか、妙に新鮮に感じられました。

さぁ、いよいよ今回の研修旅行を締めくくる「エスコヤマ・ダナン交流会」の始まりです。


まずは司会進行を務められるダナン外務局文化協力部ヤンさんHa ThiThu Giangから、出席者の紹介をしていただきます。
ダナンからはダナン外務局局長、副局長、ダナン観光促進センターメディア副部長、新聞やテレビ等メディアの方、日本語学校に通われている学生の方、総勢100名程の方がお集まりくださいました。

紹介の後、正面のスクリーンに小山シェフのプロフィールが映し出されれば、それはエスコヤマのプレゼンテーションが始まるサイン。
私は教えていただいた通りに照明のスイッチを一つ一つ消していき、会場はちょうどいい暗さへ。
そして小山シェフの登場です。

今回のプレゼンテーションの内容は大きく分けて3つ。
■三田市の紹介
■エスコヤマの紹介
■ベトナムのカカオとエスコヤマ

今年から「さんだ夢大使」を務める小山シェフは日頃、「三田には美味しいものが沢山ある。エスコヤマに来てくださったお客様にもっと三田のいいところを知っていただきたい」と仰います。今回のように海外の方に直接三田をアピールさせていただけることは、とても貴重でありがたいことです。

プレゼンテーションを始めるにあたって、小山シェフからベトナムの皆さんに一言。
「今回皆さんにエスコヤマの味を知っていただきたく、試食を用意しました。後で配りますが、僕が『どうぞ』というまで食べないでくださいね!」
少し緊張感が漂っていた会場の雰囲気が、一気に和みました。

まず、準備したパワーポイントに合わせて、三田市は日本のどこに位置するのか、街並みにどのような特長があるのかを説明。「三田」と聞くと遠いと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、交通の便がよく、大阪から車・電車とも40分ほどでお越しいただけます。
その後、特産品である三田牛や三田米、三田匠のいちごなどの紹介を通して、自然豊かで“美味しい食材”に恵まれた三田市をアピールしました。
次にその三田市にあるエスコヤマを、ブランドごとに分けて紹介です。

ここで最初の試食「バウムクーヘン」の登場です。
カットされたバウムクーヘンからはバターとアーモンドの良い香りがします。お昼を食べそびれた私のお腹は躊躇なく“ぐ~っ”と鳴ります。
プレーンと緑茶が交互になるようにお配りし(一部の方にはマドレーヌ)、行き渡ったところで小山シェフが試食を勧めます。
が、皆さんなかなか口にしようとしません。そこで冒頭の一言を思い出した小山シェフ。
「そうか。僕が『どうぞ』と言うのを合図に、といっていたなぁ!では、どうぞ!!」と。

この合図でようやく、皆さんバウムクーヘンを口に運ばれました。
隣同士で半分ずつ分け合い2つの味を試される方も。なんだか微笑ましい光景です。初めてバウムクーヘンを口にされる方がほとんどのようでした。日本で人気のお菓子ですが、もともとはドイツの伝統菓子であるバウムクーヘン。エスコヤマではよりふんわり、しっとりした味わいにアレンジしています。

小山シェフのプレゼンテーションには、私達へのメッセージも込められています。
hanareでフードメニューをご用意しているのは「いつまでも料理人の感覚を持ったパティシエ、ショコラティエであってほしい」という想いがあるから、と。
確かにエスコヤマには、お菓子やパンの枠を超えた一皿の料理のようなアイテムが沢山あります。小山シェフご自身も、よくレストランなどでお食事の際に新たなアイデアが生まれると仰います。

さて、プレゼンテーションも終盤。
エスコヤマの紹介の後は「ベトナムのカカオとエスコヤマ」についてのお話です。

過去に数回ベトナムを訪れたことのある小山シェフ。4年前に初めて、ベトナム南部にあるカカオの産地を訪問された際に試食したチョコレートに、フランボワーズのような酸味とオリエンタルな味わいを感じたと仰います。
今回ご用意したボンボンショコラは、もちろんベトナム産のクーベルチュールを使用。その酸味を活かしフランボワーズと合わせ、もう一つ、なんと4年熟成の「酒粕」を合わせました。
小山シェフがお鮨を食べている時に思いついたというこのマリアージュ。酢飯に酒粕からつくられる赤酢を使っていたのだそうで、その酒粕を口にした瞬間、フランボワーズとのマリアージュを思いついたのだとか。小山シェフのアイデアが生まれる瞬間の話には、いつも驚かされるばかり。まさに“料理人の感覚をもったショコラティエ”です。

試食のショコラを配り終えるのを待っていた小山シェフ。ところが今度は「どうぞ」の合図を待つことなく、すぐ口にされる方が続出。シェフも笑いを堪えながら「酒粕って知っている?」と問いかけます。さっと見渡したところ、皆さんご存知ない様子です。
このような機会がない限り、なかなか海外の方が口にされない食材かもしれません。
チョコレートを通して、まだ世界に広く知られていない日本の食材をベトナムの方に味わっていただくことができました。
“食”が持つ影響力の大きさを改めて実感しました。

「今、世界でベトナムのチョコレートが大変注目されています。それは、MAROU社やベトカカオといった世界のクオリティを分かっている方が、ここ5年で急成長したからです。日本のメディアもここ数年、ベトナム産カカオについて取り上げることが増えてきました。こうしている間にも、優れたクーベルチュリエの方が、ベトナム南部でさらなる美味しいカカオを探しています。彼らの力を借りて、私はこれからもベトナムのカカオのことを世界に紹介していきたいです」
小山シェフからダナンの皆さんへのメッセージで、エスコヤマのプレゼンテーションは締めくくられました。

この後、ダナン外務局局長Lâm Quang Minh (ラン・クアン・ミン)さんから謝辞を頂き、記念品の交換をいたしました。

ダナン市からは額に入った絵を、エスコヤマからは牛乳菓「マッテル」です。

続いてダナン観光促進協会の方によるプレゼンテーションへ移ります。
まずはダナンの魅力満載の映像の鑑賞です。

ベトナム中部最大都市ダナンは、中部・北部に集中する世界遺産をまわる際の拠点。古くからアジアと南アジア、ヨーロッパを結ぶ貿易港として発展してきました。国際港であるダナン港には、昨年だけで47隻の豪華客船が入港。国際空港もあり、近年観光客も年々増え続けているそうです。
成田―ダナン直行便は2014年から毎日就航し、今年の8月からは関空-ダナンも直行便が就航します。

ダナンのビーチは、「世界でもっとも美しいビーチ」の一つに選ばれたこともある美しさ。珍しい動植物が多く生息するSonTra(ソンチャ)半島や、仏教の聖なる地・五行山も、観光スポットとして注目を浴びています。
宿泊施設も充実していて、市内には14もの5つ星ホテルがあるようです。そういえば私達が滞在したホテルの近くでも、某外資系大手ホテルチェーンが新たなリゾートホテルを建設中でした。
観光以外でも、世界一周ヨットレースやトライアスロンの世界大会、ダナン国際マラソンの開催など、国際規模のスポーツ大会の誘致に積極的です。他に国際花火大会や、2017年にはAPECが開催など・・・ダナンは目まぐるしい勢いで発展しています。

そして次は、ダナン外務局副局長Mai Dang Hieu(ヒュウ)さんによる「ダナンと日本の交流」についてのプレゼンテーションです。

こちらのヒュウさん、とっても積極的な方です。
なにを私達に伝えたいか、その目的が明確で「ダナンと日本の交流を一層深めたい」「もっとダナンに日本企業を誘致したい」という想いで溢れています。

ダナンと日本の友好は、今から遡ること400年前の江戸時代初期から始まります。そして現在、川崎市や堺市、横浜市と友好関係を結び、技術協力も盛んなようです。
日本企業の誘致に大変積極的なダナンは、日本からは技術を、ダナンからは人材を提供することで相互の発展につながると仰っていました。
ちなみに現在ダナンには160を超える日系企業やその事務所があり、4万人以上の雇用を創出しているのだそうです。
辻岡さんのレポートにも登場された矢澤さんのお仕事は、まさに今ダナンで必要とされている仕事なのですね。

ヒュウ副局長、最後にエスコヤマの誘致も忘れません。
なんでも今ダナンでは、栃木県のパン屋「パン・アキモト」さんが2015年にオープンされたお店「ゴチ パン ベーカリー」が話題で、そこで売られているカレーパンが大人気のようです。
「エスコヤマさんもぜひ、ダナンに支店をオープンしてください!!」と、熱いメッセージをいただきました。

ヒュウ副局長の熱烈プレゼンテーションの後は、質疑応答タイムです。
学生の方が数名、日本語で質問してくださいました。

まずあった質問がこちら。
「日本に留学予定です。コヤマさんのところでアルバイトできますか?」

この質問から、話は一気にビザの問題まで膨らみます。
ベトナムの方が日本へ渡航される際には、たとえ観光目的であってもVISAが必要になり、それを取得するための費用と手続きにかなりの労力を必要とするようです。
学生の方だけでなく外務局の方からも「なんとかしてほしい!」と訴えかけられ、皆さんのその眼差しから、切実な想いが伝わってきます。
小山シェフは「その分野で力のある方と出会った時には、皆さんの想いをきちんと伝えます」と、丁寧に答えられました。

今度は小山シェフから学生の皆さんに質問です。
ベトナムの方はどのような時にお菓子を食べるのか?ベトナムにはパティスリーはあるのか?
ベトナムのお菓子事情が気になります。

ベトナムではケーキなどの洋菓子はまだ流行していないようで、パティスリーはあるかもしれないが、行ったことはない、というのが答えでした。
また話の中で「日本のお菓子は少し甘みが強い」という声も。
それに対して小山シェフは、
「人が甘みを感じる背景には環境が大きく影響し、気候によって食べ方ひとつ変わってきます。甘く感じるからといって砂糖を単純に減らしては、そのものの美味しさのバランスが崩れてしまう。ダナンの気候に合わせたお菓子を開発するとなれば、この環境に身を投じて考えないと美味しいものはできない。」と答えられました。 なるほど、すべての材料に意味はあります。これはお菓子だけではなく、一般社会でも同じだな、と思った私。お菓子も人間関係もバランスが大切です。

続いての質問は、
「エスコヤマにもゴチパンで人気のカレーパンはあるのか?」

ここで再び「ゴチパン」の登場です。
「パン・アキモト」さんは、ダナン市民の胃袋をしっかり掴んでいるようです。
「もちろんエスコヤマにだってカレーパンはあります。しかも一種類だけではありません!日本にこられた際は、ぜひエスコヤマのカレーパンを食べていただいたいですね」
と、小山シェフは笑顔で答えられました。

小山シェフの講演会では、いつも質疑応答タイムが一番盛り上がります。
それはこの日も同じ。なかなか質問が止みません。
ここでチョコレートについての質問が出ました。
「家族みんなチョコレートが好きなので、チョコレートの作り方を教えてほしい」

小山シェフはまず、MAROU社やVETCACAOさんというベトナムのカカオを世界に広めるために尽力されている方がいらっしゃることを伝え、その上で
「ベトナムにはこうした素晴らしい方々がいらっしゃるのだから、彼らを訪ねればきっと色々なことを知ることができるはず」と、彼らの農園や工房を訪問することを勧められました。
研修中に小山シェフは、ベトナム国内におけるカカオの価値をもっと向上させることの大切さを、お話されていました。それにはベトナムの方が自国のカカオの素晴らしさを知る必要がある、と。
その言葉を思い出しながら、交流会を通して、自分達の国のカカオに関心を持ち、誇りに思う方が一人でも多く現れることを私は期待しました。

この後も質疑応答は続きます。通訳を介すこともありましたが、基本的にすべて日本語で行われ、学生の皆さんの語学力の高さと積極的な姿勢に私達も大いに刺激を受けました。
こうして交流会は終了。最後に全員で集合写真を撮影しました。

今回の研修旅行の大きな目的は、皆でカカオの産地を訪問し、五感でカカオを感じること。そして研修で学んだことを、お客様にお伝えすることです。また外国の生活や文化に触れることは、日本のこと、エスコヤマのことを俯瞰する機会にも繋がります。自分の置かれている立場や課題を客観的に見つめ直すことができ、これも研修において大きな意味を持っています。つまり体験したことで満足していてはいけないということです。
日本に期待し、日本の文化を学ぼうとされているベトナムの方々の期待を上回る振る舞いをして初めて、私達の価値が認められるのだと思います。

小山シェフ、このように貴重な機会を与えてくださり、ありがとうございました。そしてダナン外務局・観光促進協会の皆さまにも心よりお礼申し上げます。研修で得た知識や経験を糧に、日頃よりエスコヤマを応援してくださるお客様にしっかりお返しできるよう努めてまいります。