パティシエエスコヤマ研修旅行記2016

Vol.2 Song Nguでのディナー WRITER:千葉 祥子

未来製作所担当の千葉 祥子です。
研修初日となる5月11日の夜はシェフのご厚意で、販売を担当する原さん、ブーランジェリーのダミアンさん、そして未来製作所担当の私・千葉のメンバーでお食事をさせていただきました。
普段はそれぞれ働く場所も仕事内容も違うメンバーで一緒に食事をする機会ですので、皆さんの仕事のお話をうかがえることをとても楽しみにしておりました。

さて、今夜シェフに招待いただいたレストランはベトナム料理の「song Ngu(ソング―)」。
私は普段は未来製作所を担当しながらもhanareやブーランジェリーのサンドイッチも担当していることもあり、(こうしてベトナム料理、タイ料理等の東南アジア料理を食べるのは日本でも今まで数えるほどです)今回の料理は自身にとって新たな味覚を刺激すると共にどんな味の構成で作られているのか、シェフと食のお話をさせてもらうことも新たな発想にも繋がる、ベトナム料理の旅のスタートです。
今宵のお料理はお店の方のオススメに加え、シェフが以前に来店された時に印象に残っていたというメニュー、そしてチームトラベル蔵本さんが下見に来られた際に美味しいと思われたものを注文していただきました。

綺麗にセッティングされた席に着いて、お通しに置かれていた小魚のフリット
衣がカリッとしておりチリソースとケチャップが合わせてあるソースで次々に食べ進められる食べやすさです。
シェフがシャンパンを注文し、乾杯をしたところで一品目の「生春巻き」
海老、パクチー、レモングラスがぎっしり巻かれており、ソースは甘味噌のような濃度のあるソースでいただきました。思ったよりもパクチーの香りがやわらかく、レモングラスのスッとしたハーブとソースの相性が良いのが印象的でした。

二品目は「魚介の玉子とじスープ」
少しとろみのあるスープには蟹や海老が入っていて、臭みのない魚介の旨みと、とろふわの玉子が合わさり美味しい!下に入っていた春雨も絡め、すぐに全員完食です。
次の料理を待っていると私たちのテーブル横でスタッフの方が炎を出しながらなにやら炒め始めました。「おぉ!!」
突然のパフォーマンスにギリギリでしたが、なんとか写真を撮ることができました!こちらは四品目で出てくる「海老の酒蒸し」を調理している場面でした。

三品目「蟹のフリット」
ぷくっと丸いフォルムで現れた蟹は一口頬張れば柔らかい衣に包まれた中に日本料理の蟹しんじょにしたような滑らかな食感で、ジュワっとした汁が旨みとなっています。二口目は添えてある塩とライムを搾って、さわやかな酸味がアクセントになり、食欲は最高潮に。

四品目「海老の酒蒸し」
先ほど、パフォーマンスされていた正体は海老だったとここで判明!!
海老の殻を剥いて、添えてあるライムを絞り、粒子の粗い塩をかけて食べるのですが、熱々でなかなか口まで運べません。
手間取っている内に、綺麗な女性2人が現れるとパッと照明が暗くなり、ステージでショータイムが始まりました。
ベトナムの民謡曲に合わせて10分ほどのステージで3曲ほど、体をしなやかに動かし素敵なパフォーマンスでした。

ここでダミアンさんがシェフに見せたい写真があるとデジカメを渡しました。
写真はダミアンさんが描いた絶滅危惧種のツキノワグマ、アジルテナガサル、ゴリラ、アジアゾウ、シマウマ、ホッキョクグマ動物の絵を川の近くにある瓦礫を削ってペイントしてあるものが写っていました。
ダミアンさんは故郷のフランスで起きた去年のテロ事件を受け、自身が今伝えたい、発信したいこと、世の中の戦争で失った命の尊さを表現していると話していました。
その話を聞いたシェフは今年のCCCで出すショコラと関連性があるとお話を始めました。
今考えている四種類のボンボンの表面のデザインのテーマは人の力ではどうすることもできない、自然の力(風、重力、四季)を使った表現をすると話し、それはダミアンさんが伝えたいことと共通しており、シェフ自身も今世界で起こっていることを自分が表現者として伝え続け、発信していくことで少しでも世界を変えることが出来るのだとおっしゃっておりました。
その話を聞いていた私はシェフの深い愛や想いが作品として発信され、それが食べる人の心に伝わるところまで先を考えて表現しているのだと感じました。
ダミアンさんもシェフの話を聞いて深く頷き、その後今考えているショコラの組み合わせの話へと展開していきました。

五品目「手長海老の塩辛い卵のソース」
一人一人に大きな手長海老が運ばれてきました。
「すごいっ!!」 海老好きの私が興奮してしまうほど、海老の存在感に驚きの一品です。
お皿に敷いてあるトマトと卵を煮詰めたソースを絡めながらいただきます。
シェフはソースの味が足りないと言って塩とライムを搾って食べていたので、私たちも真似をして食べてみると海老の旨みが塩で引き立ち変化に感動しました。
ほんの少しのアクセントで同じものが一変する、シェフは日々の試作をした中で常に何の素材と合うのかジャンルに関係なく料理の素材からもショコラやケーキも考えているとおっしゃっていました。
こういったところでも何のソースがベースかみんなで言い当てるのも新鮮で勉強になりました。
みんなそれぞれ手長海老のソースは何がベースか何度も食べて考えていましたが、どの答えもしっくりこなかったので店員さんに聞いたところ卵とパプリカをソースのベースにしているとのことでした。
先ほどの海老もそうですが、とても食感がぷりっとしており、手の中にも身がぎっしりで美味しくいただきました。

さて皆さん、お気付きでしょうか…?
海老、蟹、海老、海老と今回のメニューのメインが重なっていることが・・(笑)

このまま次も蟹か海老がと予想していると、
六品目「ハタの醤油蒸し」
一同、ホッとしたところで、この大きなハタをどう食べるか、作戦を立てながら、野菜に火が入るのを待ちます。
店員の方がシェアしてくれたものを一口食べるとだしが美味しい。
甘辛醤油ベースですが、花の形にカットされた唐辛子も一緒に煮込んであり、辛さも絶妙。
お野菜もたくさん入っているので、飲んでいた辛口の白ワインに良く合っていました。

七品目「アワビと青梗菜の中華炒め」
初めは椎茸?と皿を覗き込み思っていた料理の中にはメインでなんと贅沢に厚みのあるアワビが入っていました!メインのポイントとなる味にはオイスターソースが使われており、しっかりとした味付けの中にも噛むたびにそれぞれの素材の椎茸、青梗菜の食感を感じられる一品でした。

八品目は「魚介のチャーハン卵包み」
これで最後の料理となりました。海老・蟹がメインのチャーハンです(笑)。
この時すでにお腹いっぱいだったのですが、いざ食べてみるとあっさりしていて食べやすく、小皿にオイスターソースが用意されており、こちらをかけて食べると初めはコクがあり最後の後味はスッとコクが引いてさっぱりしているのでまた一口と進みました。

食べ終わる頃に蔵本さんがテーブルにやって来られました。シェフは蔵本さんに、笑いながら、「今日の海老・蟹のオンパレードのチョイスは凄かったぞ!」とおっしゃっていました。蔵本さんは自身のチョイスはどうだったか、シェフからの話を聞いて笑っていましたが、その後満足してもらえたか細かく聞いてメモを取られていました。
シェフは最後に「ベトナムに来たらこれを食べなあかん!!」と蔵本さんと思い出しながら注文して下さったのが「揚げ春巻き」です。

たくさんの生野菜とパイナップルを挟みチリソースと魚醤が合わさったソースでいただく揚げ春巻きは衣がパリパリで中にはお肉や海老のジューシーな汁が零れ落ちそうなほどです。
生野菜はミントも入った清涼感が感じられ、パイナップルは甘みがあり程よい酸味も揚げ春巻きの旨みを引き立てバランスの良い後味がまたもう一口、と食べ進めたくなります。
「めっちゃ美味しいですねっ!!」初めて出合ったベトナム料理に感動し、食べ合わせの変化にも刺激を受けて最後まで魅了されました食事となりました。
一息ついたところで、ベトナムコーヒーをいただきました。
エスプレッソのような濃度で、小さなカップで運ばれてきたコーヒーは練乳を入れて飲むのがベトナム流。

そのままの味が気になり飲んでみると…激苦でした…
ティースプーン三杯ほど練乳を入れて飲むとなんとも驚きです。先ほどは苦いだけと感じていた味がコーヒーとして成立しているのです。酸味と練乳の甘みが調和してフルーティーな酸味として感じる味でした。

今回の料理を食べて全体の料理にソースや塩が別で付いており、味の変化を楽しめるものとなっていました。
それは味が色のグラデーションで表されているかのようでした。
重ねていく味の大切さと、変化に気づいただけでなく、ベトナムの旬の野菜や気候ならではの考えられた料理の数々でした。
今回の料理を食べて今やらせてもらっている試作で季節に応じて農家さんに色んな野菜を使って形にしているのですが、毎年同じ味や時期に採れるものではありません。
それはシェフの話していた自然の力と繋がる部分があり、だからその時々の味をみてどう活かせるか、組み合わせて何をメインとして伝えたいのか、それを考えて作り出すことがこの仕事で一番の醍醐味で楽しいところだと改めて感じました。
そしてシェフとの会話であったように、作ったものがどんなシチュエーション、場所でどんな方が食べるのか、先のことを考えて作っていると話していましたが、今の私はまだお客様にお届けしてから、女性にとって食べやすいのか、シェアしやすいものかなど試作をしている段階でもシェフに指摘を受けることがあります。
特にカフェのhanareで提供するときは、その場で食べることが出来るというシュチュレーションだからこそ美味しく召し上がっていただけるメニューを考えなければなりません。
今の自分に足りないことを気づけたことを力に、お客様に自分が発信できる三田の食材をもっと追及して作りだしていくこと、そのときの提供するシチュエーションを考え、お客様へお届けしたいことを考えていきます。
これから形に変えてお客様にお返ししていけるよう、レベルを上げて全力で仕事に励みます。
ベトナムの旅も始まったばかりですので、まだまだ勉強させていただきます!!