パティシエエスコヤマ研修旅行記2016

Vol.9 「サン・フレバー」社・アートタンゴ工場の見学 WRITER:森下 咲

こんにちは!ベトナム研修旅行4日目、「サン・フレバー」社のアートタンゴ工場の見学をレポートさせていただきます、お菓子教室担当の森下です!
よろしくお付き合いくださいませ。

5月14日、この日は朝から曇り空かと思いきや、私たちが出発する頃にはカンカンと日が照る、ベトナムらしいお天気です。
ホテルを出た途端、すごい熱気です!まだ朝の7時45分にもかかわらず、この暑さ。これからもっと暑くなるのかと思うと、気が遠くなりそうです。
昨日までの農園訪問とは違い、今日はみんな軽装です。

本来は2号車のバスに乗る私。しかし小山シェフの言動をしっかり書き留めてレポートに反映すべく、本日は1号車に乗せていただきました。
シェフは出発前から、ショコラのスタッフと今年の新作について打ち合わせ。バスに乗車後もそれは続きます。ちょっと盗み聞き・・・。
普段からそうですが、小山シェフは一時も時間を無駄にすることがありません。

昨日はバスが進むほどに道が荒れていき、辺りには川や、畑、田んぼが広がっていましたが、この日は舗装された大きな道をひたすら進みます。
交差点という交差点にはバイク・バイク・バイク!
バスやトラックをぐるりと取り囲むほどの数です。
昨日まではもう少し早い時間に出発していたからか、通学の子供を乗せた4、5人乗りをよく見かけました。しかし通勤時間なのでしょうか。今日は一人、二人乗りが多いような気がします。
そのエネルギッシュな光景に目を奪われていると、質問用紙が配られてきました。工場への入館に必要な質問票です。私は乗り物酔いしやすいので、信号のタイミングをみて急いで記入します。

ホテルを出発してから約1時間で、工場に到着。
想像していたよりも大きな建物で、外観のグリーンが異国情緒漂う、可愛い雰囲気です。
日本語を流暢に話す女性スタッフの方が出迎えてくださいました。
「工場に入るために着用してください」と、全員に白衣と帽子、マスクが配られました。60名が一斉に着替えると賑やか!みんなで同じ格好です。

誰が誰なのかわからなくなりました・・・。
工場内部は工場長の木屋さん自ら案内してくださいます。
まずはエアシャワーでしっかり埃をおとし、いよいよ工場内に潜入です!

今回お伺いしたのは、ケーキオーナメントやチョコレートオーナメントなどを製造・販売されている「サン・フレバー」社のベトナム現地法人「アートタンゴ工場」です。
14年前に設立された工場で、日本人の木屋さんが工場長を務めていらっしゃいます。
従業員はおよそ800名。ベトナムではパートやアルバイトという雇用形態がないそうで、全員が正社員です。労働時間は1日12時間以上、週休1日(日曜日)。ベトナム国内の生活水準は上がっているようで、14年前は月の最低賃金が日本円でおよそ4,500円だったのが、今では20,000円まで上がっているとのこと。途中一気に30%アップする年もあったのだそうです。

受注はイタリアからが1番多いらしく、次いで日本や韓国の製品を作っていらっしゃいます。
取り扱っているアイテムは、
1.シュガードール
2.ケーキピック
3,焼き菓子、アイシングクッキー
が主なものです。

木屋さんは「何事にも徹底してお客様目線で!」という姿勢で工場をまとめていらっしゃいますが、日本とは異なる文化を持ったベトナムという地で、最初はうまくいかない事ばかりだったそうです。
例えば、手作業により完成されるオーナメント。
最初の頃は一つ一つがバラバラの仕上がりでした。また、なかなか可愛いものができないことに日々どうしたものかと悩み、検品室に籠ってはダメ出しを繰り返していたそうです。
そんなある日、木屋さんは突然「今日はお休み!ここにあるもの全部、好きに持って帰っていいよ!」と言って、工場を全てストップしました。
大喜びで商品を選び始めたスタッフ。残ったのは、出来が悪くて可愛くないものばかりでした。
どうして持って帰らないのか理由を尋ねたところ、皆から返ってきた答えは「可愛くないから」というものでした。 この時、木屋さんは
「タダでももらいたくないものを、あなた達はお金を払ってくれるお客様に渡せるのですか?」と聞き返したそうです。
これを機にスタッフの皆さんの意識が変わり、また可愛さだけを追求するのでなく「手作りでも皆同じに見えるよう仕上げるには、どうすればいいか」ということまで考えるようになったそうです。
今では、自分達で商品アイデアを持ってきて、作り方を考えてしまうほどなのだとか。
木屋さんがスタッフの方とまっすぐ向き合い、辛抱強く様々なギャップを埋めていかれたことで、工場内の信頼関係が築かれていったのだと思いました。
また、一つの会社に長く勤めず、一旦帰省するとそのまま戻ってこない事もしばしばあるというベトナムで、工場の設立当初から務めているスタッフが、今やリーダーやサブリーダーとして新しいスタッフの教育をしたり、商品開発に携わってくれたりすることが、とても嬉しいと仰っていました。

ベトナムの方の多くは手先が器用で上達も早く、未経験のことに対しても前向きで根気強いとも仰っていました。
例えば、サンタさんの目を入れているスタッフは12時間ずっとこの作業を続けます。休憩は食事の時間も含めて僅か30分というから驚きです。

私達が近くから覗いても全然ブレません。
工場内では研修期間を設けているそうですが、点を打つだけでも3カ月位は練習が必要なのだそうです。

ここからは見学させていただいた写真をいくつか載せていきます。どれも、手作りとは思えない程の正確さ、細かさです。

皆さんもご覧になった事がありませんか?
エスコヤマオリジナルのクリスマスのシュガードールです!
本来ならば、私達が訪問した5月はまだクリスマスのオーナメント作りに取り掛かる時期ではありませんが、この日は特別に、エスコヤマの見学の為に生産ラインを組んでくださいました。今回出来上がったオーナメントは全て処分されてしまいますが、また秋以降に新しく作っていただいたものが私達の元に届けられます。
木屋さん、スタッフの皆さん、私達の為に大切な時間を割いてくださり、本当にありがとうございます!

これはes koyama のロゴが入った看板です。ただ手書きするのではバラツキがでてしまうので、そのためにまずスタンプを押して、文字のくぼみをつけます。そこをなぞってロゴを完成させます。

サンタさんの手は、手の形がずらりと印刷された紙を筒状に丸めて、その上にフィルムを巻きます。そこに一つずつ形をなぞるように絞っていくと、大きさも、看板を持った手のカーブも同じに仕上がります。

こちらでは雪だるまの鼻を絞っています。
こうなるともうガイドラインは存在せず、見本通りに絞るしかありません。

写真でしか見ていただけないのが残念ですが、恐ろしく繊細な仕事ばかり。全てが手作業です。
これだけ手作業でロスは10%程度だそうですから、皆さんの作業の正確性が伺えます。

ここまでは立体の人形を作っている様子を載せていましたが、次は平面に描かれた顔です。

もちろん下書きがあるのですが、立体とは違って重ねて絞るので、当然その下書きが見えなくなります。
そこで目や鼻の位置がずれてしまわないように、それぞれの位置を示すガイドラインが点線で引かれています。 それでも難しそうです。

クッキーの上に直に絞るのではなく、人やパーツ毎に作成。それを貼り付けていきます。
そして当然ですが、この人形や絞りに使われている砂糖の色も同じでなければいけません。
製菓の世界でもマジパンや飴細工で色粉はよく使われますが、色粉はとにかく同じ色を出すのがとても難しいのです。しかし製品を見ると、見事に同じ色です。
この工場では、0.01グラム単位までは計量器で測り、そこから先は目で見て調整しているそうです。

シュガードールの次は、ケーキピックの製造工程を見学です。

この大きなレーザーカッター。「これでありとあらゆる物の形を切る事ができる」と、木屋さん。
私達が見学している時も、何か白い布を切っていました。
それがこちら。

白いヒイラギのピックです。
こんなに細い形を、こんなに薄い布から。
そして最後はやはり人の手で作られています。とにかく作業が早い!誰も話していません。私達が60人で押しかけても動じることのない、凄い集中力です

こちらではもの凄い数のパーツを順に貼り付ける方が。

サンタさんが出来上がっていきます。
このサンタさんの顔、凄く工夫が凝らされています。
肌色に小さな黒い目が置かれるのではなく、黒色の紙の上に、目の形に穴の開いた肌色の紙が重ねられています。
おおっなるほど!確かにこれなら目の位置も同じ、糊で貼った跡もつきません!

こちらはバースデーバルーンのピック。

これ、アルミのフィルムと紙の台紙を貼り付けているのですが、このフワフワは何かお分かりになりますでしょうか?

スポンジのようなモノを挟んでいます。
これをマカロンのように2つ繋ぎあわせると、空気を入れただけではできない、ヘタらないバルーンになります。

飾りの紙のパーツも全てひとつずつ貼り付けています。
しかも単色ではなく多色使い。もの凄い作業量です。

その後は焼き菓子の部屋に移動です。
サン・フレバー社ではケーキオーナメントの他に、タルトやパイなど焼き菓子の製造・卸もされていらっしゃるのだそうです。

ひたすらタルト型にシュクレを敷き込むスタッフの皆さん。こちらもやはり早いです。どこかからエスコヤマのスタッフの声が聞こえます。
「1人うちに来てくれたらいいのに・・・」
思わずそんな言葉が漏れてしまうほどの作業スピードです。
そして、タルトストーンを敷き詰めて、オーブンに流れていきます。

常にロット番号で管理され、計量ミスを防ぐために材料もバーコードで管理されているのだそうです。
これで粉や砂糖の取り違えを防ぎ、生地の出来上がり総量を測ることで材料の入れ忘れを防止。各ロットで必ず残り生地を焼いて、検食もする徹底ぶりです。

雪の結晶型のクッキーです。
間の生地を抜いているところが、こちらの工場ならではの繊細さです。

そして、ここからが初公開!と木屋さん。
ベトナムのFamily Martから、大人気のドラえもんを“中華まん”にしたい!との声がかかり、製造することに。その工程を見せてくださいました。

生地は中華まん生地に色をつけたもので、こちらもパーツをひとつずつ貼り付けています。
蒸しあがりが完成となりますので、どのくらい生地が膨らむのか、その比率を取るまでが大変だったそうです。

ちなみに中はカスタードクリームが入っています。
Family Martさんからの「お小遣いを握りしめて来られるお子様が買える金額にしたい」というリクエストに応えて、原価ギリギリで製造されているのだとか。
ドラえもんまんの他に、スネ夫まん(チョコレート)やのび太のママまん(抹茶)もあるようです。実は後でホーチミン市内のFamilly Martを探してみましたが、残念ながら手に入りませんでした。
ベトナムへ行かれた際は皆さんもぜひ、探してみてください!

この中華まんシリーズ以外にも、アートタンゴ工場では新しい取り組みに挑戦されています。
その一つ、チョコレートのメッセージプレートを見せていただきました。

アクリル板に文字をくり抜いてホワイトチョコレートを流し、その上からスイートチョコレートを流すことで立体的に文字が浮かぶ、という方法です。
木屋さんもスタッフの方々も、作業効率や手間を考えるより先に、完成イメージを描いてしまうタイプのようです。だからこそ、大変ではあるけれどその分魅力的なアイテムが生まれるのだと思います。

およそ1時間半の見学の間、とても丁寧に説明してくださった木屋さんとスタッフの皆様にお礼をお伝えして、最後に工場の外で記念撮影を。

工場は道幅の広い道路に面しており、全員を写真に収めるためにその道路を渡った向こう側から撮っていただくことに。シャッターをきるまでの間に車やバイクを何度もやり過ごす必要がありました。その光景がなんとも可笑しく、私達も自然と笑顔に。

今回の工場見学により、私達のクリスマスのシュガードールを見る目は確実に変わったことでしょう。
私自身、今までの扱い方を振り返り深く反省しました。もちろん「壊れないように」とは思っていましたが、これからはもっと人形が可愛く見えるよう、よもやケーキから落ちてしまったり倒れてしまったり、そんな事が起こらないよう、箱を開けた瞬間のお客様が喜ばれる顔を想像しながら飾ります。
そして私のレポートを読んでくだった皆さまにも、今年のクリスマスにはケーキの上の人形の顔を、いつもよりちょっとだけよく見ていただけますと嬉しく思います。

研修旅行で自分の想像を遥かに超えた世界を垣間見る事ができ、そこで感じた様々な想いや課題を、自分の仕事に活かしていこうと強く思いました。