12UNDERGROUNDCHOCOLATE AWARD 2021-2022 このUNDERGROUNDの8種類の創作は、コロナ禍の影響を大いに受けたが、一方でこんな状況だからこそ、という出会いもあった。 素材としては「コヘンルーダ」や「クラフトコーラ」「梶谷農園さんのハーブ」がそれだ。 知り合いの料理人に紹介していただいたり、極端に少なかった外出の機会に「何か吸収しよう」という強いエネルギーが働き、そこからインスピレーションを得たものの、素材が入手困難になり、それでも諦めずに庭師にお願いして沖縄で育つ素材ではあるが三田で栽培してもらって量を補ったりと、なかなか体験できないようなこともあった。 しかし、ここで語らなければならないのは、CHOCOLOGYのテーマに大きな影響を与えた「一眞坊グアテマラコーヒー+アブサン」のことだ。 少し前置きが長くなるが、まず「一眞坊(いっしんぼう)」とは、僕が大好きな丹波篠山市の蕎麦処「丹波裁ち切り蕎麦 一眞坊」のこと。 そちらの蕎麦職人(大将)である小川俊和氏は、僕がモノづくりのフカボリストとして大尊敬する方である。 出会いのきっかけは以前連載していた『味の手帖』の取材だった。 取材の中で「温かい蕎麦がのびてしまうまでの時間を少しでも延命したい」という思いを、小川氏が独自に編み出した「裁ち切り」という技法によって実現されたことを教えていただいたが、僕は裁ち切りのことを一切知らない状態で「一眞坊さんの温かい蕎麦は食感が心地よく、他とは違うのはなぜか?」と蕎麦を食べたときに疑問に感じ(僕はのびた蕎麦が嫌いで基本はせいろ蕎麦しか食べないが、温かいのにのびにくい蕎麦に出会ったことが珍しかったから)、取材のやりとりの中でその秘密を小川氏に尋ねたことで感性を認めて下さったのか、それから親交が始まったのである。 そして小川氏に、初めてお茶に招待していただいた時、色々お話をさせていただいたが、その時に出していただいたコーヒーがとても美味しかった。 僕の癖でコーヒーのことを詳しく尋ねるとその豆は小川氏自身の目利きで選ばれた「グアテマラ ラ・グラヴィレア農園」のもので、自ら生豆を仕入れ、炭火で手網焙煎し、豆の状態を自分の目で見て、鼻で香りを感じて仕上げられていたものだった。 これをいただいたとき、味だけでなく、蕎麦への思いや裁ち切りの技法を編み出すに至った思い、手網による自家焙煎のコーヒーと、全部が繋がって、テーマも含めてこのショコラをCHOCOLOGYの1つにしようと考えた。 この時のテーマは「少し立ち止まって、アナログに自らの手で作業をすることの意味や、身の回りにある様々なことの本来の意味をもう一度考え直そう」というものだった。 その一方で、それはつまり「小川さんという人であり、人そのものだな」とも考えていた。 結果的に他の素材との出会いを通して後者の考えがテーマとなり、このショコラはUNDERGROUNDで力を発揮していただくことになったが、小川氏との出会いと交流が無ければ、CHOCOLOGYのテーマは生まれていなかっただろう。 素材のポテンシャルを最高に引き出すのはやはり「人」。 その人の五感が素材をつくり上げ、その人の思いが自然と受け取り手を選んでいる、そんな気がする。 これを読んで下さった皆さんには、僕の思いだけでなく、素材を提供してくださった皆さんの思いも一緒に受け取っていただきたいと思う。小山 進UNDERGROUND CHOCOLATE AWARD 2021-2022 こぼれ話
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