Human ~coexist with nature~
人、それは自然とともに。
Theme03 知られざるミルクのポテンシャル
今年のコレクションのカカオは、先にも述べたようにすべてミルクチョコレートを基本としている。一般的にチョコレートで個性的なマリアージュを創り出そうと思えば、カカオ分の高いシングルオリジンのビターチョコレートという選択肢が最もわかりやすい表現ではある。しかし、今年はあえて自分自身で「ミルクが主役」という制約を設けることで、ミルクチョコレートが持つ新しい可能性に挑んでみたい…そんな気持ちで創作に臨んだ。もっとも、「ミルクチョコレート」という選択肢自体は、シングルオリジンのビターチョコレートが主流のこの業界で、ある種の冒険とも言えるかもしれない。しかし、これまでの私の仕事の流れの中ではごく自然な着地点だと思う。カカオティエの小方真弓さんが伝えてくれたコロンビアのシエラネバダ。フランス人カカオティエのモランさんによる、エスコヤマのためのオートクチュールのショコラオレをはじめ、世界中のすばらしいミルクチョコレートを紹介したい。そして、その力強いポテンシャルを体感してほしい。”いきすぎないマニアック”という範囲の中で、ミルクチョコレートへの強いこだわりを見せていきたいというのが私の真意だ。
未来のレガシーへの一歩を
1年間に出会った数々のモチーフとカカオをマリアージュさせ、組み立てながら模索し、編み出された今年のコレクションの一粒一粒には、私が体験したこと、見たこと、感じたことのすべてが凝縮されている。
自然が育んだカカオというフルーツや発酵食品、先人の伝統を、ミルクチョコレートという素材を用いてどうマリアージュさせるかにご注目いただきたい。そして、うれしいことに今回もまた、このコレクションをイメージした楽曲をミュージシャンの佐藤竹善さんが昨年に続き書き下ろしてくださったこともぜひお伝えしておきたい。
これまでは、海外で作品を発表するにあたり、“日本人らしさ”を切り取って強調し、表現しなければいけないと思っていた。それが今は日本で暮らし、体感することをそのまま表現すること〜それがすなわち日本人ショコラティエとしての自分の表現だと思うようになった。Rozillaというショコラトリーを設けてから、そこをステージとしてより自由に、遊ぶ感覚でチョコレートに取り組める時間と環境ができたこともその大きな理由の一つなのだと思う。
そんな今、自分自身に問うのは“次世代に何が残せるのか”ということだ。自分が感じたこと、伝えたいメッセージを、チョコレートという作品を通じてどう伝えていくかというミッションに想いを馳せることが多くなった。遠い未来に、チョコレートを作る若者が私のクリエイションに興味を持ち、そこから何らかのインスピレーションを得ることができたのなら。モノづくりをする人間として、それほどうれしいことはない。自分はその時、そこにはいないかもしれないが…。そんな自分の気持ちを今、ミルクチョコレートの偉大な先人であるダニエル・ペーターに伝えたいと思う。