17.09.29 (2/3ページ)
Vol.5

宝物の発見。〜おいしいものは、裏にある〜

他にチョコレートを作る時も、私は自分自身で制約を作ることが多い。たとえば、あるBARで出会った2種類のカシスリキュール。一つは朝摘みのカシスだけで、もう一つは夜に摘まれたカシスのみで造られている。それらを一つのチョコレートにしようと考えた時にも、ピューレは使わず、カシスリキュールのみを使って、カカオとのマリアージュでその香りと味の奥行きを表現することに熱中した。もともと、熟した果実の香り漂うすばらしいカカオとの出会いがあり、その味わいを生かしたチョコレートを創りたいと考えていたため、そこにカシスの実のピューレを入れてしまうと、まるで“ルール違反”というか、カカオの魅力を生かしきれないように感じたからだ。結局、みずみずしい朝摘みのカシスのリキュールとペルー産カカオのショコラノワール、そして深夜に摘み取った濃厚なカシスのリキュールとペルー産カカオのショコラオレを2層仕立てにすることで、それは可能となった。カシスのピューレを足さずに、リキュールだけで芳醇な“カシス感”を実現できたことは、私にとっても新しい発見となった。

また、「小山流バウムクーヘン〜カフェ・オ・レ〜」は、かつて秋バージョンとして創った栗のバウムクーヘンがそのルーツとなった。栗のバウムクーヘンを創っていた時に、生地に栗を加えて焼くと、なぜかコーヒーと似た風味になるという発見があった。そこから、コーヒー牛乳味のバウムをいつか創ってみたい、それはきっとおいしいに違いない、という予感からスタートし、それを試行錯誤で形にしていったものだ。

また、「小山流バウムクーヘン〜スペシャルプレーン〜」も、発酵バターを使ってみたら、もっとおいしいバウムクーヘンができるかもしれない 、といった単純な発想から生まれた。そんなちょっとしたアイデアで、もしかしたらお客様が喜んでくださるかもしれない…そうシンプルに考えて創ったものだ。

しかし、こうしたバウムのアレンジが創れるのも、定番の長く愛されるプレーン味のバウムクーヘンがあるからこそできる、“遊びの部分”だ。

エスコヤマのオープン当初、マスプロダクトとしてのバウムクーヘンは、卵の風味を活かしたふんわりしっとりタイプの「クラブハリエ」さんや、マジパンを練りこみハードな食感に焼き上げ“噛む”ことで味わいが広がるタイプの「ユーハイム」さんといった大御所2社がそのほとんどのシェアを占めていた。ドイツ伝統のバウムクーヘンを手作りで焼いているドイツ菓子店などはあったが、バウム焼成機もまだ今ほどは普及しておらず、自家製バウムがあるというだけで珍しいことだった。そんな時代を背景に、エスコヤマだからこそできることを突き詰め、私はまず自家製のマジパンを創るところから始めた。そのマジパンを練り込んだしっとりとしてコクのある生地に加えて、僕が少年時代の夏のひとときを過ごした多可町加美という土地で大切に育てられた、思い出の詰まった卵「播州地卵」の風味豊かな有精卵のみを使い、他社にはない独自のストーリーを込めた。名前も「思い出の大きな木」と名づけ、今でこそ一般的だがその当時は無かった「ブック型」のパッケージにして思い出のページを開くようなイメージも含めた。

ところが時代が変わった今、市場にはバウムクーヘンが氾濫している。しかし、だからこそ差別化することでアドバンテージを主張することができるようになったとも言える。そうなると逆に大切にしなければいけないのは、“基本のプレーン”だ。カフェ・オ・レや発酵バターのバウムをいただいた後、もう一度プレーンを食べるとそのおいしさが実感できる…そんな実力あるプレーンの存在は不可欠だ。

とはいえ、バウムクーヘンにおいて、カフェ・オ・レがプレーンを超えることはない。また同様に、小山チーズが小山ロールを超えることはない。いずれも、No.1の地位に実際に昇格はしないのだ。そこが主力商品と脇役たちの違いではある。エスコヤマのスタッフの人員配置も同じで商品にも組織図が必要、ということだ。それぞれに役割があり、皆が自分に与えられた役割を果たそうと一生懸命頑張ってくれているからエスコヤマが存在できている。それをお菓子で例えるなら、小山ロールが生菓子部門の部長で、バウムクーヘンはギフト部門の部長、小山ぷりん、小山チーズは課長。シフォンは課長ですらなく、係長か主任といったところだろうか。世のお客様方に部長や課長は知られていても、係長・主任クラスをご存知ない方はたくさんいらっしゃるだろう。だからこそ、改めてご紹介したい、「これがうちの優秀な係長のシフォンです」と。

代表、部長だけでなく、係長や新入社員まで知っていただくことで、もっとエスコヤマというお菓子屋に興味を持っていただけるのではないだろうか?つまり、“裏側”まで深く知ることで、もっと楽しんでいただけるのではではないかと思うのだ。

もちろん、これら以外にもまだまだ眠っている宝物はたくさんある。

先日、とある “裏スイーツ”〜人気商品以外の、知る人ぞ知る一品〜のガイドブックにエスコヤマが紹介された際、掲載されたのは意外にもお菓子ではなく、クロワッサンだった。 コレは裏話だが、元々は各お店のスペシャリテを紹介する内容で依頼が私の元に来ており、そのときに「私は裏アイテムを出します」と伝えていた。 「または裏メニューを紹介するページをコラムみたいに設けたらどうか?」とまで言っていたのである。 それから、数ヶ月経って再び来た依頼は「クロワッサンを掲載させてほしい」だった。 結果、フタを開けてみれば『裏スイーツ~』のタイトルになって上がってきたのである。 さきほどのランキングの話ではないが、これまでマスコミがメイン商品を中心に紹介し続けた反動か、今、飲食店のまかない料理や、常連しか知らない裏メニューなど、「裏」というキーワードが盛り上がりを見せている。

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