vol.21
有機農業を営む農家さん達を訪れました


小春日和の気持ちのよい日差しの中、コヤマシェフと一緒に一路、丹波市の市島に向かいました。
目的は、パティシエ エス コヤマで使う有機栽培の野菜を探すため。カフェのサラダやキッシュなどに使う野菜を探すのです。また、丹波市では、ブルーベリーの栽培に力を入れ始めており、そのブルーベリー畑の視察もかねて農家さんたちを訪れることにしました。

 舞鶴若狭自動車道春日インターから15分くらいのところ。のどかな田園風景の中、
ブルーベリー畑はありました。もちろんこの時期のブルーベリーは丸裸で畑には自家製の腐葉土が山積みにしてありましたが、ちょうど土作りをしているところでした。
 ブルーベリー農家さんが代表で3人来ていただいていたので、まずブルーベリーを使ったメニュー、ジャムやブルーベリーパイ、生ケーキのデコレーションなどのお話がシェフの方からあり、さらに、なぜ地元のブルーベリーにこだわるのかという話に。そして味のこと、見た目のこと、出荷方法や保存のことのやり取りをしました。「ブルーベリーに関しては、ただ味に対するこだわりだけでなく、実についている白い粉のようなもの、(ブルームと呼ばれている部分)を大事にしたい。あれは鮮度の証しだし、あれが美味しそうに見えます。デコレーションで使うものにはあれは欠かせない。」と皆さんに説明されていました。

 ブルーベリーの話から、次は有機野菜の話になるはずが、
ブルーベリー畑の土手を歩いていると、つくし発見!!!

 「おおおお〜!  つくしや! お前どうやって食べるか知ってるか?
  こうやって、袴の部分をこうやってとって、食べるんや。ほら、食べてみ?」
 とさりげなくつくしを渡されましたが、さすがに庭師をしているので、つくしが生で食べれないことぐらい知っています。
 「シェフ、生つくしはちょっと。」と返すと 
 「あれ、知ってたんか。」とどうやら私につくしを生で食べさせたかったようです。
  危ない危ない。

つくし発見!!

 そんなやり取りを横で聞いていた農家さんは、
 「この植物も食べれるんですよ。」土手に生えた草をさしながら、
 土手の山菜話でひとしきりもりあがり、その後、有機農家さんの家に招かれました。
そこで待っていてくれたのが7人の有機農家さんです。
想像していた以上に多いし、しかも、皆さん若い。

7人のサムライ?

実は皆さんもともと農家ではありません。丹波市市島は昔から有機農業に取り組んでおり、かれらは新規就農でこの丹波市市島に引っ越してこられたのです。だから、彼らは農業を始めてまだ日が浅い。中には今年で2年目という方もいます。少し心配がよぎりましたが、
コヤマシェフは彼らに会うなり、
「彼らみたいな雰囲気の人と仕事すると面白いもんができるや」
といいながら、うれしそうに笑顔でみんなの顔を見ていました。
 田の字型の農家の家の襖をはずした広い部屋に緊張した面持ちで
農家さんたちが座っています。
小山シェフを知ってらっしゃる方もいらっしゃるだろうし、
知らない方もいらっしゃる。事前に農家さんにはコヤマシェフが有機農法で作った野菜を探していることをお伝えしているので、それなりの建設的なやり取りが出来ると想像していたのでしたが・・・・、
皆さん、固い。っというより、あんまり顔に希望の色が見えない。
「なぜだろう?私は今回のお話は双方にとてもいいお話だと思っていたのですが、どうもそんな雰囲気ではない。どちらかというと、距離を置いているように思える。何か引っかかることがあるのだろうか?」と内心とても不思議に思っていました。

 シェフからまず挨拶があり、そして、なぜ、ケーキ屋さんが有機野菜を探しているのか?というお話がありました。
「いろんな野菜を探しています。カフェでミートパイにつけているサラダに使いたいです。甘いトマトがあればそれでジャムを炊きたいし、美味しいにんじんでキャロットケーキも作ってみたい。これらかは料理のエッセンスを盛り込んだケーキやカフェのメニューを考えていきたいんです。野菜は鮮度が大事にしたいし、今朝畑から抜いてきたばかりで土がついたままのような野菜がほしいのです。その美味しさをお客様に伝えればきっとお客様は喜んでくれるはず。そのためにも絶対農家さんと直接取引がしたい。」
 相変わらず、シェフの話すトーンは人を引き込むのがうまい。つい
「この人と一緒に仕事したい」と思わせる力があります。
横で聞いている私も思わずうなずきながら
「俺もなんか野菜そだててみようかなぁ〜」なんてつい考えてしまいます。
しかし、農家さんの顔は
 ・・・・冴えない。
 「あれ?今のぐっと来るポイント結構あったと思うんだけど、
 反応薄すぎませんか?」と突っ込みたくなるくらい薄い。

「なんでだろう?」
それはその後の少しづつわかっていきました。
「何か質問はありませんか?」と今回コーディネーターをしてくれた氷上乳業の
細見部長が皆さんに尋ねると、
・ ・・・沈黙。
あれ?何だこの沈黙は・・・。
沈黙を破ったのは、新規就農のグループの副代表の古谷さん。
「われわれは有機農法で野菜を作っています。有機農法の特徴は少量多品目。
コヤマシェフが必要としている量が提供できるか・・・・・」とうつむき加減で不安そうにお話されました。
 「いやいや、私は今日取れたものでメニューを考えます。その日に取れた分だけの野菜で十分です。あと、朝取れた野菜で替わるサラダメニューって面白いでしょ。」とすかさず
コヤマシェフが答えると、
皆さん安心した様子・・・・にはなりません。
まだ、変な緊張感が浮遊した状態で
また沈黙。
続いて違う方が、恐る恐る
「有機だと、どうしても野菜の見た目が悪いものも出てきてしまうし・・・」と。
「形が悪くったって鮮度がよくおいしかったらなにかに使えますよ。私は、エスコヤマで働くみんなに、『イチゴの形をしているからイチゴと思うな』とよく教えています。作り手によって味は変わるし、同じ人が作っても時期によって味が変化することもあります。だから、常に味見して、どのようにして使うことがベストなのかを考えるよう教えています。私は見た目だけで野菜を判断することはないですよ。」
とてもいい話です。今の話や結構皆さんの心に効いたはずです。

がしかし、まだ彼らのガードは堅く、皆さんのテンションは決して弾けることはありません。見ていると何だかもどかしくて仕方ありません。
そしてまた、違う方が、
「私はまだ有機農業を始めて2年です。だから正確にはJAS認定の有機野菜を作ることができませんが・・・・?」
「そんなこと気にしません。私は有機という表示にこだわっているのではありません。ただ心を込めて野菜を作ってらっしゃる方の野菜を使いたいだけです。」
 とシェフが皆さんに説明している中、
一人の農家の方が、もじもじしている。
そして、後ろに何かを隠し持っている。
「実は・・・・。こんなもん。持ってきたのですが・・・・」
菜の花のようだが花が白い。
シェフも
「これなんですか?」
「白菜の花です。白菜の植え付けに遅れて、きれいに白菜が巻く前に霜でやられたので白菜の出荷が出来ず、結局そのまま花を咲かせてしまいました。でも実は白菜の花って美味しくて、畑仕事をしながら、生でバリバリ食べているんですよ。白菜が今時畑で咲いているなんて農家の恥みたいなもんですが・・・・食べてみて下さい」と差し出されたものを一つ味見するなり、
「僕が探しているものはこれです。これは美味しい。見た目もきれいだし、
こんなのをサラダにしてメニューに出したら、お客様はきっとよろこんでくださる。これはぜんぜん恥なんかじゃないですよ。おい、お前も食べて見ろ。」
と渡されて食べると、確かに美味しい。私はあまり味のことはよくわかりませんが確かに美味しい。菜の花のような独特の苦味があく、とてもさわやか。

これは美味しい!!


この時、少し全体の雰囲気が動き出しました。

 今度は古谷さんの奥様が
「恐れ多いですが、実はブルーベリーのケーキがあるのですが、食べていただけますか?」
と。また少し場の緊張が緩みました。
その時、「私はほかの農家と違って・・・」と言いにくそうにしている方がいました。
「何を作ってらっしゃるのですか」とシェフが尋ねると、
「実は私は野菜を作ってそれを漬物にしています。さすがに、漬物はいりませんよね。」
「確かに、キッシュで奈良漬を使ったものがありますが、あんまり漬物は使わないかな。でも、私は神戸や京都にいろんな方面の一流のシェフを知っています。本当に美味しければ、いくらでもその方々を紹介しますよ。いいと思うものがあればうちに送ってください。」
その横で黙っていた方が
「野菜の包装はどうしたらいいですか?」
「もちろん、痛まないようにしていただいていれば一つ一つ包装する必要はありません。」
場の雰囲気はにわかに活気付き始め、皆さんの顔にも少し希望の表情が差し始めました。
そしてイチジクの話、トマトの話、その他いろんな質問や意見が飛び交うようになってきました。
 皆さんのテンションが上がってきている。いい感じかも。
しかし、
「コヤマシェフ、輸送はどのようにすればいいですか?」
この質問でまた場が硬直しました。「これが現実だ。」そんな雰囲気です。
しかし、コヤマシェフはこの雰囲気をわきまえたようにゆっくりした口調で、
「もちろん、配送していただきたい。毎日は無理でも定期的にとか。
 とにかくどのようにすれば可能なのか考えましょう。
 私の今日の話を聞いて、『こんなのはどうだろうか?』とか『これは面白いかもしれない!』と思うものがあったらいくらでも提案してください。
今日この白菜の花を持ってきてくれた感覚があれば私は心配していません。
 いろんな問題があるかもしれませんが、必ずいい方法があると思うので、
一緒に進んで行きませんか。とにかく始めましょう。」

 最後に不思議な空気が流れた。
「え、もうはじめてもいいんですか?」そんな少し拍子抜けしたような
雰囲気だ。決して最後まで完全に活気付くことはなかったこの有機農家さんとの打ち合わせ。その空気感を一番感じていたのはやはりコヤマシェフでした。だからこそ、「一緒に進んでいきませんか?とにかく始めましょう。」と締めくくったのでしょう。皆さん、おのおの理想や思いを抱いて丹波市市島にやって来て有機農業を営んでおられるのだと思います。しかし、実際自分の手で作物をつくって初めてその難しさや、経営面の難しさに直面されているだろうということが今回の皆様の慎重は面持ちを見て痛感させられました。有機農法独特の少量多品目は現在の流通形態ではなかなか受け入れられにくい側面があります。また、虫食いのものや形の悪いものは未だに消費者から嫌われる傾向にあります。コスト面でもどうしても割高です。農業を始めてまだ日が浅い皆さんにとって、自分が思い描いていた理想と現実、その中でいくつも乗り越えなければならない課題があることがコヤマシェフにはよくわかったのだと思います。だからこそ、立ち止まってあれこれ考えるのではなく、とにかくスタートし進みながら問題を解決する姿勢で今回のミーティングを締めたかったのでしょうね。

「一緒に進んでいきませんか?とにかく始めましょう。」


今後若い農家の皆さんはどのような提案をされるのでしょうか?コヤマシェフと同じスピード感、シェフを満足させるクオリティーで仕事してゆくのは、並大抵の努力ではいけません。しかし、必死にシェフについていこう歯を食いしばった時、自分ひとりでは超えることが難しい壁を知らず知らず越えてゆくことが出来るのだと思います。小山シェフの回りでそういう方をたくさん見てきました。コヤマシェフとの仕事が彼らの理想を現実にかえるきっかけになってくれることと私は直感しています。今後の発展がとても楽しみです。とりあえず、夏にはブルーベリー狩にいきましょうね、シェフ。




更新日09.04.26

vol.20
5周年


今年の11月でとうとう5周年を迎えました。
オメデトーーーー!!!

今思えばこの5年間はあっという間でした。
「三田のゆりのき台にとてもロールケーキのおいしいケーキ屋さんができたらしいよ」、
と聞いたとき、まさか自分がそこでお庭を作るとは思ってもみませんでした。
初めてコヤマシェフにお会いして、お話させていただいた後、
「この人のためにお庭を作ってみたい。」と強く感じたのを今でもよく覚えています。
その時から今まで、本当にたくさんのことがありました。

人形は菅原さん 北海道 銅人形作家さん 空飛ぶナンジャモンジャ。本当にたくさんの植物を植えましたよ。

例えば、カフェにショコラティエ、マカロンにパンのお店ができたこと。それに伴い新しいお庭が生まれ、そのたびに植えた植物たちはしっかり根付き始め、お店を囲む緑が豊かになりました。ご近所の方の中には「コヤマさんのおかげで町並みがきれいになったよ。」なんて声をかけてくれる方もいらっしゃります。少しずつ進めてきたコヤマシェフとのお庭作りでしたが、全体のお庭がつながり始め、それは町並みになってたんですよ。そして、今は「みんなが喜ぶ町並みを作ろう」ということがシェフと私のお庭作りのひとつの目的になりました。

(昔の写真)4年ぐらい前かな。こんな時代もありましたね。 今はこんな感じになりました。マイナスイオン出てそうでしょ!

そんな大きな変化の影でさまざまな日々の小さな変化もたくさん生まれました。
それは季節のディスプレイです。
毎年ハロウィンやクリスマス、お正月の飾りつけをしたり、定期的にテラスや本店の入り口の植木鉢の模様替えは季節を大切にするコヤマシェフのお店作りにとってとても大切な日々の変化なのですね。
しかし、小さな変化といっても、これを考えるのはなかなか大変で、すでに、来年のクリスマスのことを考えて、神戸や大阪を徘徊し、お正月には毎年門松撮影ツアーに京都をぐるぐる回ってネタ探しをしています。
おかげさまで、どこに行っても、何をみても、
「あ、この寄植えはお店の入り口にあうかも!」とか「これはシェフが喜びそうや!」などと、普段からさまざまな資料集めや写真を撮る癖がつき、しかも、夢の中でもコヤマシェフが出てきたり、お庭のことを考えたりすることもあるんですよ。
大体そんな時はうなされてるようですが、まさに、寝ても覚めても庭のことばかりです。
そんなかいあってか、「来年のクリスマスも楽しみにしてるよ〜」なんていってくれるお客様もいらっしゃって、本当に有難いっス。(涙)

 また、夏のクワガタ採りもいつの間にか恒例の行事のようになりました。
驚くことに、今年は女性スタッフの方もクワガタ採りに参加されていたんですよ。
今年は今までで最も収穫が多くて、クワガタ・カブトムシが全部で9匹ぐらいとれました。その中でもミヤマクワガタのオスが採れたことはうれしかったですね。いつ見てもあのフォルムにはドキッとさせられます。クワガタ採りは大人になった今でもとても楽しいものだったのですね。庭師になってからというもの、「虫は庭の敵」という考えが頭にこびりついてしまい、つい虫好きだった自分を忘れてしまっていたようです。シェフのおかげで虫採の楽しみをもう一度思い出させてもらいました。ほんと目から鱗です。

また、今年の夏から、本格的にお庭にある薫製器でスモークチキンを作るようになったのも私にとって大きな出来事でした。なんか、大げさかもしれませんが、薫製器をつくることで、庭師として、コヤマシェフのメニューの一部を担っているような気がしたんです。お庭の薫製器でできたスモークチキンをおいしいと喜んでくれる人がいると想像しただけでテンションあがりますよね。

薫製器は黒い扉のついたサイコロのような石の釜です

でも、初めてコヤマシェフから薫製器を作りたい、とお話があった時は、
「ケーキ屋さんのお庭で煙を焚いたら、お客さんから苦情がきませんか?」
と思わず質問してしまいました。すると、
「自家製燻製を作ることはやってみたかったことなんや。それに、お庭に煙が上がっているケーキ屋さんなんて普通今まで見たことないやろ。
煙を見たお客さまはきっと興味を持って、スタッフに質問してくれるはずや。
それをきっかけに、お客さまとスタッフの交流が生まれるやろ。それが大事なんや。
一般論に惑わされたらあかん。本当にお客様をお庭で楽しませる、という考え方からぶれるな。どうしたらお客さまにご迷惑にならずに実現できるかしっかり考えろ。」
と諭されました。
 お庭作りは安全面や機能性などさまざまなことを考えなければなりませんが、まず大事なことは、
「楽しんでいただけるお庭をつくること。」これを忘れたら、コヤマシェフのお庭はつくれませんよね。またまた、ポロリと目から鱗が落ちた瞬間でした。

5周年を迎えて、改めてコヤマシェフと共にしてきたことをざっとならべてみました。もっともっと「目から鱗ストーリー」があるんですが、全部書くと長すぎて誰も読んでくれないだろうからやめときますが、今思うと、何かする度に何かを学ばせていただいたり、気づかせてくれ、私自身が大きく変わったと思います。
庭師として当然知っているべき、季節感を大切にすること、自然を楽しむことの大切さ、人を楽しませることの楽しさを改めて教えてもらったり、社会人としての人との接し方や物事の進め方なども存分に教わりました。想像すると気持ち悪いですが、私の両目からは常に鱗がぼろぼろと落ち続けていました。いい表現が浮かんできませんが、庭造りを通して、何かとても大事なものをシェフからいただいたんですよ。

 しかし、「何をいただいたのでしょうか???」

 いい表現が浮かばず、ぼんやりその答えを考えていたある日のこと、コヤマシェフから頂いた「FuKAN(俯瞰)」Vol.5に答えをみつけました。もう読まれた方も多いとは思いますが、11月に出た「FuKAN」のテラウチマサトさんとの対談の中にまさにその答えはあったのです。
それは、「今、伝えるべきは技術よりも文化」という小見出しの付いた章のシェフとテラウチさんとのやり取りの中で、
テラウチさんが「(省略)・・・技術を覚えるのは勉強と一緒で、すごく個人差があるんですよね。だから、僕は最近、技術よりも文化を教えることの法が大切だなと感じています。いうなれば、プロとして写真をとる上で、『これだけは絶対に許されない!』というルールです。」と述べているのに対して、
コヤマシェフは「(省略)・・・私が作るお菓子や店の空間などすべてのベースになっている、コヤマススムなりの『やっていいこと』『やったらだめなこと』のルールを教えているんです。私と一緒に仕事をする時間の中で、その文化が自然と身についていく。そして、だんだん以前は見えなかったことが少しずつ見えるようになってくる。・・・」
と書かれてありました。

「あ、発見!」と思わず呟いた、私が探していた言葉、つまり、私がコヤマシェフから頂いたもの、それは「コヤマシェフの文化」だったのですよ。
これこれ。これが見つからないから日記の更新がなかなかできなかったんです。
言い訳はいいとして、スタッフの方々ほどではないですが、シェフとの庭造りの中で気付かない間に私もその文化を学ばせていただいたんですね。5年という歳月で、シェフの文化は確実にお店全体へと浸透してきていると思います。そして、その文化はお店の外にいる私にすら浸透し始めました。

さて、次の5年でコヤマシェフの文化はどこまで浸透するのでしょうか、そして、パティシエ エス コヤマはどんな進化をとげるのでしょうか。シェフの文化を持ったスタッフの方達とシェフの相乗効果の力を持ってするお店作りは想像すらできませんが、とにかく楽しみです。
この5周年という節目において、
「今までありがとうございました。そして、これからも、よろしくお願いします!」、
という気持ちをこめて5周年の日にクヌギの木をお庭に植えてみました。
いつかこの木にもクワガタが来ますように。 




更新日08.12.21

vol.19
雑草抜き研修


 エスコヤマには毎年恒例の海外研修があります。
ここで働くパティシエさんたちにとっては
とても大事な研修で、毎年これを楽しみに仕事をがんばっているといっても過言では
ないくらい。去年私がフランスに行ったのも
この海外研修に同行させてもらったからですが、
その大切さがよく分かりました。
でも、この研修、エスコヤマで働くパティシエさんなら誰でも
連れて行ってもらえるものではありません。
1年以上エスコヤマで働いて、
しかも、シェフの許しを得た者だけが行くことのできる研修なのです。
だから、今年入社した、新人パティシエさんは
無条件に国内残留で、そこでは国内研修というものを行われるのです。
そして、今年からその国内残留組に
新たな研修内容が追加されました。
それは、
「鬼庭師の地獄の雑草抜き研修」 です。
聞くだけでおぞましいヘビーでハードロックな研修です。
脳みそまで筋肉になってしまうぐらいハードなやつです。

「本当にその研修はためになるの?」

という根本的な疑問をお持ちになった方が読者の中にはいらっしゃるとは
思いますが、私も同感です。
って、いやいや、そんなところを同調してる場合ではありません。
なにせ、未来のコヤマススムを16人も預かるんですから。
でも、本当に、何をすればよいのか・・・・・

この研修についてコヤマシェフは多くを語りません。
ただ、
「あいつらに、日々の地道な努力の大切さを感じさせてくれや。」
といったきり、プイっと、リハ(リハーサル)に行ってしまいました。
(フランス研修の前日はパティシエロックナイトなので、
この時期のシェフはモードによってはロックンローラーなのです。)
あてにしていたシェフも
特に研修についての特別な注文をくれるわけでなく、
私は、ただただ、途方にくれていましたが、
「まあ、俺ではなく、雑草がいろいろ教えてくれるはず」
と、一見悟りを開いたかような境地に達したように思えるが
実は他人任せというか、恐らく世界初の雑草任せの危険社員研修
の始まり始まり〜。


朝7:30エスコヤマ集合。私が着く頃にはすでにみんな集まっていましたが、
その表情は硬い。遠くからでもその硬さは伝わってきます。
何をするのか想像すら出来ないわけの分からない研修がはじまるのです、
硬くなるのも無理はないですよね。
私に気づいた方が次々と「おはようございます」と。
声も硬いが、気持ちのいい張りのある声が次々に朝のお庭にこだまします。
「大きな声で挨拶をすることは小山シェフの教育の賜物だなぁ、」。
つい関心してしまいました。自分が人に何かを教える立場になって初めて、
教えることの難しさを実感し、
挨拶だけでシェフの社員教育のすごさを思わず感じてしまいました。
気持ちのいい挨拶って以外と出来ないもんなんですよねぇ。

 皆さんの前に立って、今一度挨拶を交わして、自己紹介。
今日一日の予定と注意事項を説明して、早速ガーデンツアーに、レッツゴー。
歩く姿も硬いが、
「まあ、ぼちぼちほぐしていくかぁ」と、心の中でつぶやきながら、
本店入り口へ。

ここからガーデンツアーの始まります。

まずは、お庭を見ながら、なぜコヤマシェフがお庭にこだわるのか、コヤマシェフのお庭に対する思い、シェフとの打ち合わせのことや、一緒に庭の木を選びに行ったこと、クワガタ採りにいったこと。そこから、自然に対する思いや、庭に虫や鳥を呼ぼうと言い出したこと。コウロギの音色、庭に住むアマガエルのこと、今年、蛍が庭に飛んできたこと、フクロウがやってきたことなどのお話。シェフの思いがどのように反映されて、どういう過程でお庭ができてきたかを説明しました。
また、お客様によく質問される植物の名前やパティシエとして知って得する植物の話。
また、庭にある果実やハーブの名前当てクイズなどもしながら、お庭を回ります。
一般的に、若い人ほど、植物の名前を知りません。
しかし、自然に造詣が深いことは食品に携わる方々にとって、とても大事なことだと思います。
コヤマシェフ曰く、
「果物の名前を知っているのはケーキを作る人間として当たり前だが、それがどこの産地でどのように木になっているか、また、だれがどうやって育てたかを知っていることが今の時代、とても大事だと思う。」とおっしゃっていました。

 ちなみに、植物の名前当てクイズは皆さんほぼ0点。皆さん悔しそうな顔をしながら必死にメモを取って、植物の名前を暗記しようとしていました。今は点数をつけるべき時期ではないですね。

 ガーデンツアーも終わり、早速、今日の1番初めの作業に取り掛かりましょう。

 まずは、植物にお水をやること。
「さあ、いまから皆さんに植物に水をあげるやり方をお教えします。」
「水遣りにやり方なんてあるんですか?」ってな感じで皆さん
ポケーっとして私の顔を見ています。
 それもそうですよね。水を撒いたらいいだけなんですから。
でも、一応考えなければならないことがあります。
水遣りはまず、
「なぜ植物に水が必要なのか?植物にとって水とはいったいどういうものなのか?」
という植物と水の関係を理解することから始まります。
水がたくさんいる植物とあまりいらない植物、どのように植物は水を吸収するのか、などさまざまな植物の生態に関する知識をもとに、水を植物に撒くのです。
そうすれば、メリハリの利いたお水遣りができるのです。
また、水を撒く時に注意すべきことは、土を流さないこと。
出来るだけ直接植物、特に木の幹には水をかけないこと。土の跳ね返りに注意することなどです。(余談ですが、土はお庭の財産です。土を作ることがお庭作りといっても過言ではないくらい。健康な土があって初めて、健康な植物が育ちます。だから、土を大切に作っていくことが、いい庭を造る第一歩です。)
さて、お水やりも終わり、本日第一の落とし穴が待っています。
いや、別に陥れるつもりではありませんが、最後に気をつけてほしいことがあるんですよ。それは、お水を撒いたホースの巻き取りです。この講習中、だれも、きれいにホースを巻いた方はいませんでした。
でもこれはとても大事なことで、綺麗にホースを巻き取らないと次の人が使いづらい思いをします。しかも、ホースに悪い癖が付いて、ねじれやすくなり、水の出が悪くなったり、詰まったり、で、結局いらいらさせられ、だんだん水やりが面倒くさくなります。そうならないためにも、ホースはきれいに巻き取ることは、とても大事。
「常に次の人が使いやすく」、です。
実は真剣にホースを巻くと意外とホースはきれいに巻けるんですよ。
最後にホースの巻き方をデモンストレーションし、
 ホースの次は、お庭の掃き掃除へ。

庭の掃き掃除はこれまた難題。説明をしづらいが、とにかく難しい。
どうしても、きれいにならない。っていうか、おそらく、どうなれば「きれい」なのかが、イメージできないのでしょう。
だから、皆さんにほうきを手に、庭を掃いてもらっても、塵を集めることはできても、お庭がきれいにならないのです。
掃除は教えることがとても難しいと思いました。
私は決して、自分の家の庭をきれいにしているわけでもなく、きれい好きでもありません。
そんな私が掃除を教えるなんて、なんだか罪悪感を感じてなりませんでしたが、
まあ、人のお庭の掃除は一応得意。だから、どこをどのようにきれいにするか、目的をはっきりさせながらみんなで掃除をしましたが、なんだかうまく伝わりません。
結局、お庭の掃除はごみを掃くだけでなく、花がらをとったり、葉っぱを整理したり、
美的感覚を大事にしないといけません。これを伝えるのはもう少し私に練習が必要でした。

 その後は、いよいよ、メインイベントの雑草抜きです。
雑草抜きは難儀な仕事です。しんどい上に、腰や足が痛くなるし、時間がかかるし、しかも抜いてもすぐ生えてきて決して終わる事がない、なんとも報われない仕事です。
でも、これをしないとお庭はきれいに見えません。(雑草が生えっぱなしでも、あんまり気にならないお庭もありますが、でもある程度の除草は必要だと思います。)
しかし、ここで問題。
「パティシエになるために、果たして雑草抜きが必要なのでしょうか?」
それは、わかりません。
ただ、
「きれいに見えるお庭も日々の努力によって維持されていることを知ること」、
は大事かもしれません。
なんでも裏の地道な努力があって、見える部分がきれいに見えるのは、
何事でも一緒だということをコヤマシェフは一年目のパティシエさんに伝えたかったのです。しかも、この1年目のパティシエさんたちもゆくゆくは自分のお店を持ったり、それなりの立場で活躍するのです。そのためには、お店をいかに管理するべきか、若い時から知ることはとてもいいことなのでしょうね。
 研修内容は、
まず最初に
「なぜ、雑草抜きが必要か?」ということ。

雑草抜きが必要な3つの理由があります。

@草が茂ると、ほかの植物の成長の妨げになるから。

A見た目にあまりよくないから。

という理由までは皆さんで答えてくれました。
でも、残念ながら、もっとも大事な3番目は出てきませんでした。
なんだか、わかりますか?
3番目のもっとも大事な理由は
「お庭をよく観察して、変化に気がつくためです。」

人間の目は面白いもので、実は見えているようで見えていないんですよ。
特に、見たくないものはなかなか見えないのです。
私の妻が妊娠しているとき、体重計の数字が見えない、
とよく言っていましたが、
お腹が出て足元の数字が見えないのだと思っていましたが、
どうも、見ようとしていないのでした。
あまり良い数字ではないことはわかっていたので。
こんなアメリカン冗句は笑えない、と怒る人もいますが、
事実なのです。
目は何にも見えていないのです。
自分が買ったケーキの絵を見ずに描こうとしても、ほとんど描けません。
でも、自分で作ったケーキの絵はある程度かけるはずです。
作るときによく見て、それを触って、味わうからです。
雑草抜きも一緒で、一見変化の見えないお庭をじっくり見るためには
目で見てはいけません。
しゃがんで、手で触れ、匂いをかいで、初めてお庭が見えてきます。そこで、虫の幼虫を発見したり、毛虫やミミズのフンを発見したり、
毛虫の動きの早さを知ったり、カミキリムシの幼虫が出す、木の粉を発見したりするのです。
そして、早い段階で変化に気がつき、それが問題ならば
すぐ対応します。
問題を見つけるのが早ければ早いほど解決は楽なのは言うまでもありませんよね。
つまり、私にとって、
雑草抜きとは「庭との対話」なのです。なんちゃって。

雑草抜きから学ぶことは、この講座のメインイベントです。
しゃがんでみるお庭は普段見ているお庭とは違うこと、
つまり、視点によって、物事はいろんな見え方をすること、
を実感してほしいのです。
そして、自分がいかに何も見えていないかを知ってほしいのです。

「雑草抜きをしたら、初めてこんなにお庭に雑草が生えていることを知りました。」
あるパティシエさんは驚きながら私に語りかけました。
それを皮切りに、「毛虫がいる」、とか「落ち葉も拾ったほうがいいですか?」
など、いろんなことを気づき始めました。
彼らには普段、雑草も落ち葉も見えていませんでした。
「自分も何にも見えてなかったよなぁ〜」と一生懸命雑草を抜く若い
パティシエさんの姿を眺めながら彼らの将来が楽しみになって仕方ありませんでした。

人間は自分自身が何も見えていなかったことに気が付いて
初めて何かが見え始めるのだと思います。
そして、少し何かが見え始めたとき、
仕事の楽しさ、苦しさ、怖さが見えてくるのかもしれません。
そして、前を走る人の本当の偉大さを知るのだと思います。

まあ、私もその途中。特に、ここにいる若いパティシエさんたちと何も
変わらないのだと思いました。
「自分が何に気が付いていないか」、私はまだ知りません。
それを知ることはとても楽しみですが。

「雑草抜きが終わったときに、今日一日で気がついたことを教えてください。」
と皆さんにお願いしておきましたが、もちろん、答えを期待しているわけでは
ありません。何も見えていなかったことを分ってほしかっただけです。
本当に見ようとしないと、何も見えてこない、何も気がつかない、
そこに気がついてくれればそれで十分です。

さて、私は何を教えることができたのでしょうか?
この「鬼庭師のハードロック雑草抜き講座」を終えて。
若いパティシエさん達の胸に残るものはあったのでしょうか?
雑草から何か学んでくれたら幸いです。
どうあれ、彼らのこれからの成長を心から応援しています。

最後に、
講習の終了後、後日、皆様から一人一人からお手紙をいただきました。
感謝の手紙です。とても心に響くものでした。
もちろんこれも、コヤマシェフの人間教育の一環なのでしょうね。
結局、今回も一番学ばせていただいたのは私だったと思います。

雑草抜き




更新日08.8.19

vol.18
エスコヤマのお庭案内


 お庭の植物の成長は去年のに比べると、今年の方が少し早い気がします。
それに、なんとなく、虫の量も少ないとおもいます。
4年目を向かえ、多分植物の根っこがしっかりし始めたのでしょうね。
根がしっかりして、植物が健康な状態を保てるようになり、虫を寄せ付け
なくなったのかもしれません。健康であれば免疫力が上がり、病気や虫に
強くなるんでしょうね。その辺は植物も人間と同じなんでしょうね。

 うれしいことに、今年はお客様から植物の問い合わせや質問が多いようです。
それも、多分、植物が健康だからだと思います。
健康な植物はどんな植物でも綺麗にみえるんですよ。
ツヤがあったり、生き生きとしているというか、
そういった木からはなんとなくエネルギーを感じるのかもしれません。
せっかく多くの方からお庭の植物に目を留めていただいているので、
今日はお庭案内をしてみたいと思います。

 まず最初は、モッコウバラ。
es Koyama本店の入り口のパーゴラからぶら下がっている植物で
花の色は白。大変高貴な香りがします。
特に、咲き始めの、湿気の多い夕方頃には庭一面に香りがたちこめ、
庭にいる人をリッチな気分にさせてくれるんですよ。
5月初旬から咲き始めるこの花はもうそろそろ終わりを迎えますが、
今年も良くがんばってくれました。
モッコウバラ

 そのまま、お庭のなかに入ると、そこには大きな株立ちのシンボルツリーがあります。
その木はケヤキ。植えてしばらくは元気がなく、シェフが良く心配されていたのを
覚えています。特に綺麗な花を咲かせるわけではありませんが、
私たちに大きな木陰をくれる大切な木です。
右の一番大きい木ががケヤキで左の2番目に大きい木がナンジャモンジャ

 そして、ケヤキの向こうにあるもうひとつのシンボルツリーがヒトツバタゴ。
通称ナンジャモンジャ。この樹は今が見ごろ。
なんとも上品な花を咲かせます。ベスト オブ 上品って感じです。
しかも、このナンジャモンジャはとても樹形が綺麗。
「思わず登りたくなるわぁ」とこれを見るたびにシェフはそう口にするぐらい、
少年心をくすぐる形をしている樹です。もちろん、この樹がシェフの一番の
お気に入りです。

 続いては、ナンジャモンジャの足元を見ていただくと、 綺麗な白い模様の入った大きな葉っぱの渦があります。 これはギボウシ。ほかにもいろんな種類のギボウシをお庭に植えているのですが、 これは私が庭師駆け出しのころに大変お世話になったご夫婦から譲り受けた 大切なギボウシたちです。わけあってお庭を手放さなければならなくなった そのご夫婦は「せっかくだから、多くの方に見てもらってほしい」と ギボウシのコレクションをお庭に寄付してくださいました。 今年もこの子達は綺麗に育っていますよ。ありがとう。
ギボウシとキャットミント ギボウシ

 そして、次にデッキに上がってください。実はそのデッキは実のなる植物に囲まれているんです。
まず、「Frame」の方の角にはジューンベリーが植わっています。
花は4月、実は6月ごろには実が熟れて食べごろを迎えます。
花は綺麗だし、実はおいしいですよ。
花も団子も好きな人にもって来いの庭木です。
ジューンベリーから時計回りに、イチジク、ヒメリンゴ、ジューンベリー、ブルーベリー×2、そして最後、
デッキの入り口付近の手摺に絡まっているのが、
アケビです。ちなみに、デッキの下や際からにょきにょきと出てきているのは、
ミントです。
ジューンベリー

 今年は草花も良く咲いています。
オオムラサキツユクサが紫の花を咲かせて、ツボサンゴも赤い小さい花を上げています。
チェリーセージにキャットミントも咲き始め、アジサイ アナベルもその花芽をあげはじめました。
季節は梅雨に向かい始めています。
オオムラサキツユクサ ツボサンゴ

 実が成る植物が多いのはコヤマシェフのこだわりのひとつ。
「ケーキに使われている果実がどんな風に木に成っているいるのかを伝えたい」、とのこと。
(第一回の庭師日記を参照)
それは、お客様だけでなく、エス コヤマで働く若いスタッフの方々にもなんですね。
 去年植えたブドウ ヒムロッド シードレス(干しブドウ用の品種)もブラックベリーもつるを大きく 伸ばしています。野いちごも相変わらずたくさんなっています。 今年はどれぐらいの収穫高があるのか楽しみです。

引き続き、カフェ・ショコラティエのお庭と「Frame」の植物案内日記も書いてみたいとおもいます。




更新日08.5.31

vol.17
東京一流会議


 今年の三田は雪の多い年で、樹木に雪が積もって、枝が折れてしまったり、
寒さで常緑樹が葉っぱを落としたりしています。なかなか油断の出来ない今年の冬、
皆さんのお庭はいかがですか?

 今回の日記は小山シェフと3人の超一流クリエーターのミーティングin 東京、のお話。
このミーティングを通して、いろいろなことを感じ、感銘を受けたので
今回はそれをそのまま書いてみました。

                 ※

まず最初に、

シェフと3人のクリエイターがお話されている
とき、自分の立ち位置に非常に困りました。
ここにいても邪魔にならないかなぁ、って。
それぐらい人を寄せ付けない空気があって、でも
同じ場にいて、話を聞いているだけで成長できるっていう
空気もありました。

刺激のある空気をすわせていただいてありがとうございました。


 さて、はじめにお会いしたのはJap工房の川上さん夫婦。

 吉祥寺にあるそのお店では服、指輪、革製品、鉄製椅子や扉などが置いてありました。

一見するとなんとも毒々しいお店でいたるところが尖っていて、鉄製のコウモリがいて、

羽の生えた目玉が浮いていて、いろんな所に鉄製のドクロが置いてあって、

男の店員さんはやたらに色白でした。

なんとなく不気味な雰囲気が立ち込めています。

がしかし、よくよく、いろんなものを見ていくと

大変手の込んだものばかり。とりわけドクロは、え――――、なんというか、

かなりアイデアいっぱいでオシャレ?といったらいいのでしょうか。
    
芸術的ドクロでした。



それもそのはず、このJap工房では魔界の使者であるロックバンド聖鬼魔Uさんの

衣装というか装備を作られているぐらい悪魔系には強いデザイナーだからです。
   
また、ルナシーさんやガクトさんなどのビジュアル系アーティストの衣装を担当されていた

り、仮面ライダー、キカイダーはじめ、多くのヒーロー達の衣装も手がけていらっしゃる。 

実はコヤマシェフのパティシエロックナイトの衣装も川上さん夫婦の手によるものなのです。
正義の味方から魔界の使者、パティシエに至るまで、

かなり幅広い顧客を抱えている、特殊な工房なのです。
    
そして、これらの難しい顧客を満足させることができるのが、この川上さん夫婦なのです。
 
私が川上さん夫婦にお会いした理由は、コヤマシェフが彼らの鉄の作品をお店のお庭に使え

るかもしれない、と感じたからでした。

 シェフの直感通り、お店の中には、「これは面白い」と思うようなものがあるではありま

せんか。とりわけ、鉄製の門扉や椅子はエス コヤマにはぴったりくるようなものが発見で

きました。

                       ※

 Japさんとの打ち合わせは、今年のシェフのライブの衣装のこと、そして、鉄柵、門扉、

鉄装飾のこと。打ち合わせを始めて間もなく、驚いたことは、この川上さんご夫婦はとにか

くいろんなアイデアを出してくれること。それも、とめどなく。そして、いつの間にか、

シェフのエンジンにも火が付いて、アイデア大会、ヨーイ ドン。

3人の一流クリエイターとついていくのが精一杯の庭師のアイデア大会。

鉄柵のこと、門扉、鉄装飾のこと、商品のラッピングから、タグの話まで話は多岐に渡りま

した。

鉄柵の話ぐらいのところで、アイデア大会から私は脱落して応援にまわりましたが、

さすが一流3人は話しが尽きない。時間があればどこまでも行っていたでしょう。

この川上さん夫婦のすごいところは、ただアイデアを出すのではなく、

それはどうやって作る、とか、どんな素材がいいとか、誰に頼むとか、いうこともすべて

即座に答えてくれる。彼らの周りで仕事をする人の多様性が彼らの引き出しをより多様にし

ているのでしょうね。あっという間に、テーブルの上にはいろんなサンプルが山積みになり、

さらに話が進んでいく。「それはここが難しい」、とか、「そんなの無理に決まってる」、

なんてことは誰も言わないで。なんかみんなわくわくしながら、アイデアを出し、それを

どうしたら具体化できるかということを話し合っていました。

まさに一流会議。

それを横目に私は、

「ああ、ほんとに気持ちのいいこの雰囲気。

この雰囲気がいいものを生むんやなぁ」

と3人の話をききながら雰囲気に浸っていました。

これが物作りの基本姿勢なんでしょうね。

普段からこのスタイルで仕事が出来れば、どれだけ面白いものが

できるんだろう、と考えさせられながら、最初の一流Jap工房さんの打ち合わせを終了し、

続いては次の一流イエローブレインさんに向かいました。






 イエローブレインさんの代表は丹下絋希さん。名前を聞いてご存知の方もいるかも知れま

せんが、ミスターチルドレンやバンクバンド、コブクロの蕾のミュージックビデオなどを
 
手がけたアートディレクターであり、BS2のデジスタのキュレイターを勤めておられること

でも有名です。

 コヤマシェフが丹下さんにお会いした理由は、エス コヤマのMAPの打ち合わせ、と

(ご存知でない方もおられるので少々説明をすると、エス コヤマの全体のMAPを丹下さん

率いるイエローブレインさんで作っていただきました。出来上がりは、お楽しみに。)

次号の「FuKAN」の対談のため。
 
                     ※

   私が丹下さんにお会いする理由は、今度この地図をFrameにあるバウムクーヘン工房の
 
横に出来た建物の壁に掛けてその前にお庭を作るのですが、

そのお庭の打ち合わせ。っていうのは、ただの言い訳で、ただ丹下さんにお会いしたかった

からです。

直接会って、感謝の気持ちを伝えたかった。
 
何に対する感謝の気持ち???

私がこの地図を依頼したわけでもないし、

丹下さんは庭の地図を作ったつもりもないのでしょうが、

私、庭師としては自分の手がけたお庭が地図になったということで一人で感動し、
 
感謝の気持ちを伝えずにはいられませんでした。

しかもあんなに素敵なものに。

あの地図をシェフにはじめて見せていただいた時の感動は今でも忘れません。
それは

「あなたが作りたかった庭はこんな感じのものでしょう。」

と物作りの神様が降りてきて庭の図面を渡されたかのようでした。

 とまあ、こんな感じで一方的に運命を感じ丹下さんに会うことに理由付けしてみたので

した。

                        ※

  映像をされている方は、なんとなくクールでしゃべる言葉に横文字が多くて、
   
上下関係とか敬語とかいう日本のややこしいルールが面倒で、   
  
色白な人達、と、なんとも勝手なイメージを抱いていました。

でも、あの地図を見て、そんな人物像は生まれてきません。
    
丹下さんが作ってくれた地図は
   
なんともあったかい。温度でいうと、ちょうど人肌ぐらいのあたたかさ。

デジタルで作られたもので「人のぬくもり」が感じれる、とは
   
予想外です。あったかいだけでなく、やさしいし、

わくわくもする。


 それもそのはず、イエローブレインはなんともあったかいところでした。 

事務所というより、家、社員というより家族、そんな雰囲気でした。

面白い人にしか、面白いものは作れない、

あたたかい人にしか、あたたかいものは作れない。

これも物作りの基本ですよね。

コヤマシェフがよく言ってることですが、

一流はみんな同じことをいってますね。


 

しかし、このMAPは私にとってプレッシャーにもなってるんですよ。

エス コヤマに来る前にこのMAPを見た人が、

「この地図の中に行きたい、」

と思いながら、実際の庭を見たらどう思うかな?

「地図のほうが実際の庭よりよかったなぁ、」なんて残念な思いをさせたら・・・

そんなこと想像するだけで恐ろしい。

地図に負けないいい庭をつくろう。改めて気合が入りました。

この地図からはいっぱい学ぶことがありました。

丹下さん、そして、スタッフの谷さん、浦上さん、ありがとうございました。

皆さん、次号の「FuKAN」を楽しみにしていてください。

小山シェフと丹下さんの対談は必見です。


            ※

    そして、イエローブレインさんの事務所を後にし、

目指すは、三人目の一流 寿司 海味(うみ)さんです。
               
                ※

この寿司海味さんは小山さんの超お気に入りのお店。
以前からお話をお伺いしていましたが、
このほど、海味さんがミシェランから星をいただいた時も、
「ミシェランに海味のよさが理解が出来たんやなぁ。
ミシェランの星はあるひとつの基準でしかないけど、うれしいなぁ」
と、海味さんの星を自分ことのように喜んでいるのを聞いて、
シェフがそこまで気にいっているお店とはどんなところ?
と、純粋に気になりました。
皆さんも気になりますよね。
というわけで、私、庭師が皆さんを代表して
小山シェフに連れられて海味さんにいってきました。
                
                ※
             
   青山の大人で落ち着いた雰囲気の中に海味さんはあります。

周りの静けさとは対照的に、扉をあけると

頭を綺麗に丸めた大将はじめ丸坊主のスタッフの方々が、

威勢のいい掛け声で出迎えてくれました。

そこはまさに道場。

  大将の渋い声、厳しそうな雰囲気に、

ピリッとした空気が流れる。

かと思うと、恐そうな顔から崩れ出る笑顔が

場を一度に和ませてくれました。


この海味というお店からも多くを教わりました。
そして、シェフがなぜそこまでこのお店を愛しているかもよくわかりました。
 
               ※

海味のおいしさ、とはいろんな味のことだと思います。
 
それはes Koyamaの味と同じで。

それはどういうことかというと、
 
海味さんの味もes Koyamaの味も舌だけではなくではなく心でも味わう味である、という

こと。日本各地の味はもちろん、大将の粋さ、そのお店の空気、接客、器にお箸に、

洗い出しの土間に白木の板のカウンターに。

それらすべてがご馳走で、おいしい。そして、そのどれにも「ぬくもり」がありました。
 
                          ※
      
   「今の時代、『人のぬくもり』を感じるものが求められていて」、と教えてくれた

のは地図の説明をされている時の丹下さんでしたが、以前、同じことをコヤマさんにも

言われたことをおぼえています。今回いろんな人にお会いして、「その人のぬくもり」は

鉄製のドクロでも、デジタル画像でも、お寿司でもケーキでも伝わることがわかりました。

おそらくお庭でも。

                          ※
                
 
 いくら笑顔でも、「この人は厳しい人だろうなぁ」

ってことは伝わるもので、海味の大将の厳しさは相当だと感じました。

それは、スタッフの方ののマナーを見ればよく分かりました。

しかし、「厳しさに愛があるやろ。」
 
とコヤマシェフはにこにこしながら、

カウンターの外で怒られている若いスタッフの方を見て私に言いました。

「あの、カウンターの中にいる若い子。あいつもよく

怒られてたけど、辞めずにがんばって、

ようやくカウンターの中に入れるようになったんや。

彼が将来どんなお店を持つのか本当に楽しみや」

 エス コヤマで働いているスタッフの皆さんにも、

シェフは心から同じこと思っているだろうけど、

厳しいシェフは普段なかなかそんなことを口にしません。

でも海味でがんばっている若いスタッフと、エスコヤマでがんばってる若いスタッフが

かぶって見えたのでしょうか、つい緩み、本音が出た親方の顔をしたシェフが横にいま

した。

                     ※
  
 今回の東京一流会議は本当にいろいろ学ばせていただきました。

一流のもの作りに共通すること。川上さん夫婦、丹下さん、海味の大将、コヤマシェフ、

それぞれの表現の仕方は違うけど、物を作るためのスタンスが共通してるんです。

いや、スタンスっていうか、もっと根本的な、おのおのが大切にしていることが似てる

んですよ。

なんか表現しにくいですけど。

それを感じることが出来たのは大収穫です。

ただ、一日でこれだけの人達にお会いすると頭がパンパンです。



最後に、忘れてはならないのは、その一流の元で働く私と同世代の若いクリエイターの

人たちにの存在です。
 
彼らからも同じぐらいいろいろなことを学ばせていただき、顔の大きさの割りに小さめの

私の脳みそからぷくぷく泡が出てきそうでした。

イエローブレインさんでも、海味さんのところでも、

若い方が一生懸命がんばっている姿には私は本当に感動しました。

あの独特の緊張感と堅さを持った彼らを見るのは胃が締め付けられます。

今、本当にいい勉強させてもらってるのでしょうね。

一流といっしょに仕事をすること、これは一番の勉強だとおもいます。

コヤマシェフがよく言ってる、

一流と働くことで「当たり前のレベル」に違いが出てくる、

ということが彼らを見てるとよくわかりました。

挨拶の仕方、声の張り、緊張感、気の使い方。彼らの当たり前にはすでに一流の片鱗

が見えました。

そして、彼らを見ていると、地面の下でどんどん根っこを伸ばしている若木を連想させ

られます。

太陽の光に当たりたくて、上ばっかり見ているもんだから、本人はちょっとづつのびる

自分の根っこをなかなか見えずに、上に伸びない自分が、成長してないんじゃないか、

ってあせったり、いらいらしたり、 不安に思ったりすると思います。

でも、

植物は根っこの成長した分しか、大きくなれないし、

無理やり地上に見える部分だけ大きくなっても、根張りの悪い木は風や雪ですぐに倒れ

てしまいます。

今はしっかり根を張り、将来大きな木になって、いっぱい花を咲かせて、いっぱい実を

ならせてください。

そんな期待をさせる同胞に心からエールを送ります。

私も負けずにがんばろう。

しかし、私の根っこはどこまで張ってるのかなぁ〜。

なかなか実がならないけど。
                  




更新日08.3.4

vol.16
韓国 イテオン プロジェクト


 ある日の日曜日の午後、コヤマシェフから突然電話がかかってきました。
大体このタイミングでかかる電話はシェフから何か依頼されることが多いのです。
撮影で栗がいる時、クヌギがいる時、クワガタをとりに行く時などもそうでした。

そして、今回も。

「すまん、ちょっとなぁ〜韓国に行ってくれるか、石を立てに」
さすがの私も聞き直したかったですが、
その気持ちをぐっとこらえて、
「いいですよ。」
とだけ言うと、
「明日打ち合せをしたいから俺の部屋まできてくれ。」
とこんな感じであっさり私の韓国行きは決まりました。
でも、今回はそのへんの山の中から栗の木を探すのとは訳が違います。
ワールドワイドなコヤマシェフにとって、韓国はその辺の山ぐらいに思っているかもしれませんが・・・

早速次の日、シェフから話を聞くと
2年ぐらい前、韓国の大手製菓会社からコヤマシェフにある依頼があったそうです。
それは韓国に今までにない高級洋菓子店をソウルのイテオンに作ることです。
韓国の洋菓子業界はまだ発展途上で、韓国洋菓子シーンの
牽引者であるその製菓会社はパティスリーをプロデュースするために、
世界中、特にフランス、アメリカ、日本を中心にそのお店の
プロデュースを依頼できるパティシエを探しまわったそうです。
その結果、白羽の矢が立ったのが、コヤマシェフだったのですよ。
小山シェフを選んだ理由は、その韓国の会社の会長さんが自ら小山さんのお店を訊ねて、

もちろんケーキの味がいいのはあたりまえ、スタッフの方々の接客や店作りを見て
感動して、小山さんに依頼することを決めたそうです。
「Mrコヤマならレシピだけを置いて帰るようなことはしないだろう。」
と後日社長がお話されていたそうです。


こんな経緯でこのプロジェクトがスタートしたのですが・・・


しかし、私はなんで呼ばれたの?
実は私の仕事があったのです。この巨大プロジェクトの中に。 バンザーイ


それは

店内のショコラティエの前に石庭風ディスプレイをすることです。

非常に光栄でありがたいお話です。
そんなプロジェクトにちょこっとでも参加させていただくなんて。
日本代表庭師になったつもりにまでなりました。テンション急上昇です。
それに、初めての韓国。俄然気合が入ります。
  とはいっても、これはなかなか大変な仕事であることは間違いありません。
なんせすべて日本とは勝手が違います。イギリスでお庭を作ったときも
そうでしたが、自分達の常識がぜんぜん通じないことが多々あります。


楽しみ半分、不安半分。


「いってきまーす」

関空からインチョン空港まで目と鼻の先。空港からこの現場までは約1時間30分。場所はソウルのイテオン。
緊張しながら現場に到着。目の前に見えるのは真っ黒なビル。
「なんじゃこりゃー」
その真ん中に割れ目みたいなものがあり、そこが入り口らしい。

有名なイタリア人デザイナーが設計した建物だそうですが、
その中でお菓子が売られているようには見えません。
写真を見てもらったら判る通り、どちらかというと、高級ブティックという雰囲気です。

中に入るとこれまたびっくり。カフェとパン屋さんとバームクーヘンとケーキとチョコレートショップが
ひとつのフロアーに回遊式に並んでいます。パン屋さんには見たこともないぐらい
大きな釜があり、(スペイン製)存在感がすごい。あれでパンを焼けば
私でもおいしいのができそうです。


おっと、悠長に店内見学をしている時間的にも精神的にも余裕はありません。
できるだけ早く仕事にかかろう。
今回は石庭風ディスプレイです。
日本から送った石はちゃんと無事に到着していました。良かった良かった。
(工具と職人さんは現地で用意してもらうことにしました。)
確認したらすぐに、
通訳の方に挨拶して、現場監督に挨拶して、職人さんに挨拶して、
今回の仕事の確認をします。
どのように仕事を進めていくかを確認しておかないと意外なところに
落とし穴があるんですよ。何度もその穴にはまったことがあるんで、その辺のことはよくわかります。
言葉も違うし、作業の仕方も、常識もすべて違う。
何回確認しても、し足りませんよ。



「では仕事開始」

まずは位置の配置を決めるのですが、これが一番大事。
全部で7つの石を配置させるのですが、
大勢の手伝いをおねがいしました。
石は重いし、後ろは全面ガラス張りで、フロアーは大理石。
4人の職人さん、7,8人の若いパティシエさん達に手伝ってもらって
傷をつけないように何をするにも細心の注意を払いながら、石を運んでいきます。

運び終わると、次は全体のバランスを考えながら、
一つ一つの石の高さや方向、角度を調整して、仮の配置をしていきます。
何度も石を見ながら細かい調整を行うのですが、
何せ言葉も通じないので、身振り手振りで方向を伝えます。

「この角度を絶対動かさないでくださいね」(日本語で)
とお願いしても、1分もしないうちに
石がずれている。
何度も
「絶対ここを動かさないでくださいね」
とお願いしながら少しずつ石の位置を決めていく。
私の集中力も絶頂に達しようとしたその時、
コヤマシェフがショコラティエの店内からニヤニヤこっちを見ています。
そしておもむろにいつもの大声で、
「おい、庭師、たくさん人を使ってるやんけ。偉くなったの〜」
と。
こっちは必死なのだが、どうもそれを茶化したくて仕方ないらしい。
一応、愛想笑いで相手しておいて、すぐさま石に向かうと、
今度は、コヤマシェフは私を後ろから携帯で写真を撮って、
うれしそうに笑いながら日本にいるスタッフの人たちに写メールを送り始めた。
「偉そうな庭師」って感じのタイトルで。
「無視無視。とにかく石に集中集中。」
と自分に言い聞かせながら、
仮置きが終了。
(余談ですが、コヤマシェフはどこにいてもコヤマシェフなのです。つまり、韓国にいようが
常に自分のペースというかスタイルを維持できる。やっていることが同じでも韓国にいるだけで、
私は簡単にテンパってしまうのだが、シェフはいつも通り庭師を茶化している。
でも茶化しながら、石のバランスをチェックしている。その次の瞬間、韓国人スタッフのお辞儀の仕方を
指導しているのです。いろんなところが良く見えて、芯がぶれないことにはほとほと関心します。)
コヤマシェフにチェックをしてもらい、少し調整をしなおしてから、
次は石をセメントで固定していくが、それは次の日の朝から作業することになりました。

固定をするのはそんなに難しい作業ではないのですが、
コミュニケーションの難しさが事情を複雑にしてしまいます。
私は通訳さんを介して現場の監督に話をし、
監督さんから現場の職人さんのリーダーに話が伝わり、そこから、職人さん全体に伝わるのです。
その間に言葉の微妙なニュアンスの違いが生まれ、返事が到底自分が期待していたものとは
違うわけのわからないものになっているときもしばしば。
また、返事が返ってきたときには自分が何を言ったのか忘れてしまいそうになるぐらい
時間がかかるときもあります。
まさに、リアルな伝言ゲームです。


伝言ゲームが終了し、いざ石を固定するときにびっくりすることがありました。
それは作業方法には大きな違いです。日本では通常内装が出来上がった室内での作業は
完全に養生して行います。それは作業中に壁とかフロアーとかを汚さないために。
しかし、韓国では皆さんお構いなしです。(みんながそうではないでしょうが)
セメントで石を固定するのですが、なんとセメントを室内で作り始めたのでした。
大きい桶を室内に持ってきて、大理石のフロアーの上で作業し始めたのです。

しかも、桶の横にはベルベット地の高級そうなソファーがおいてあるにもかかわらず。
大きな桶にセメントの材料を入れるたびに、セメントの粉がソファーに舞い降りて、
私が見たときにはソファーが綺麗に白くなってきていました。
さすがにそれを見たときは倒れそうになりました。
私は基本的に職人さんの作業方法までは口を挟まないようにしています。
彼らは非常にプライドが高い人たちですから、変に口を出してへそを曲げられてはこまります。
が、しかし、こればっかりは勘弁してもらいました。
現場監督にお願いして、とにかくフロアーと周辺をビニールシートでカバーしてくれとお願いしたら、
フロアーはシートを敷いてくれたのですが、
ソファーをカバーするほどビニールシートが十分になかったようで、段ボウル箱をつぶしてそれが
ソファーの上におかれていました。おそらくカバーをしているつもりなのでしょう。
さすがにそれを見て苦笑してしまいましたが。

この際、あんまり細かいことを気にし始めたら、日が暮れます。
とにかく、私自身は絶対に石の配置だけは彼らのペースには乗らないように、注意しながら
2日目の夕方頃、ようやく完成したのでした。
皆さんありがとう。
お疲れ様でした。



コヤマさんと一緒に仕事すると、大変なことが多いですがわくわくします。
なぜなら、シェフの物事の進め方、考え方、人との接し方、問題の発見の仕方など
多くのことを学べますし、普段会うことが出来ない人と出会う機会を与えてくれるのです。
しかし、一度に吸収しすぎて消化不良になることもおおいですけどね。


あと、コヤマシェフと一緒に仕事するもうひとつの醍醐味は、
めっちゃうまいものを食べさせてくれるのです。
あのプルコギは本当にうまかった。
こっちも食べ過ぎて消化不良をおこしました。


また韓国にいきたいなぁ。




更新日08.2.1

vol.15
第二回 France旅行記


 フランスに行ってからもうだいぶ経ちましたが、いまだに大きく心に残っている村があります。
それはジャムの妖精 フェルベールさんが住んでいる村でした。

ストラスブールからバスでブドウ畑を越えていくこと2時間。たどり着いた先は、本当にジャムの妖精がいてもおかしくない村に到着。

村には教会を中心に四方に道が通っていおり、そのところどころに井戸があり、その井戸にはカラフルな植物が飾られていまた。バス停や民家の軒先などいろんなところにもハニーサックルなどの花が飾られており歩くだけでも楽しいです。また、古い家が多く、それがまたいい。家の壁や窓も色とりどりに塗られ、多くの方がプランターを窓からぶら下げて赤やピンクのペチュニアをその中に植えている。建築様式の統一感に加え、みんなが同じような植物を植えているもんだから街全体に統一感が出ており、誰かこの町の植栽をデザインしている人がいるような気さえしてきます。

 この村で泊まった宿もかなりセボン(めっちゃいい)です。
木造の典型的な田舎にあるブドウ農家の納屋を宿泊できるように改装したようで、今でもいろんなところにその面影が残っています。
たとえば、何か絞る機械があったり、(写真をみてね)馬のための鞍があったりするんだけど、本当に使っていただけあって歴史を感じます。とっても雰囲気のいい宿でした。


 このようにいい雰囲気の空間に出会ったとき、仕事上、考えないといけないことがあります。
それは「何がこの雰囲気を構成しているのか?」

 それは古い建物の壁、太い梁、シックな家具に暖色系のライト、回廊式通路の木製テスリや古そうなカーペット、石でできたプランターや建物を覆ってしまいそうなツタ。こんな感じかな。


 この中でやはり私の興味は植物ですね。
 建物自体非常に面白いんだけど、存在感が強すぎる。
また、回廊式になった木製の通路は豪華だけれど、見ようによっては少し重い感じがします。
しかし、絡んだつるがその二つを和らげてくれて、いろんな要素をビジュアル的につないでくれていました。つるとプランターの植栽のバランスもよく、1階にいても2階にいても目線の高さに植物がよく見えるので、実際に植えている植物の量よりも緑が多く感じるのには勉強になりましたね。この方法だと、植物に囲われた感じが良く出ますよね。
それに、どこにでもある植物でも構造物とのバランスがとれてうまくマッチすれば、とてもいい雰囲気が出るんですね。まさに目からうろこです。



 それだけではありません。


ジャムの妖精 クリスティーナ フェルベールさんにあってきましたよ!!!



見た目は妖精というよりもむしろ、ジャムの母、いや、ジャムおかんって感じです。恰幅がよく、ジャムおかんが持つと銅なべもお玉に見えます。
そんなジャムおかんが厨房でジャム講習会をしてくれたのですが、
私が参加しても猫に小判なのはわかっております、が、せっかくですしね。一応私も筆記用具を用意し、メモでもしようかなぁと思っていた矢先、そんな意思は軽く打ち砕かれました。

オーブンからのセボンな香りによって。エスカルゴのバジルソースを乾パンみたいなものに入れて焼いてるんですが、香りをかいでいるだけで、赤ワインが一本あけることができたでしょう。
そのエスカルゴを試食したのですが、心の中でひとこと  「旨し!」
この旅で2番目にうまかったです。

じゃあ、一番は?

 それは実はエスカルゴの前に試食したマンゴージャムソースのフォアグラ!
これは星5つあげときました。卒倒するぐらいおいしかったです。間違いなくこの旅で一番うまいものでした。

フォアグラはフェルベールさんの弟さんが作っているらしく鮮度もよく、(フォアグラは食べたことないので鮮度がいいとか、細かいことはよくわかりませんが・・・)とにかくうまい。
なにより驚いたのがマンゴージャムとの相性。まさにマリアージュ。マリアージュとは理想的な結婚生活のようにお互いを一層高め合うという意味から料理とワインやの合わせのことをいうらしいんだけど、これはスイートマリアージュでした。

さすがジャムおかん。いや、ジャムの妖精。

うまいものを食べると脳の細胞が生き生きしてきますよね。でもこれは食べた瞬間、脳が覚醒されました。本当に飲み込むのがもったいない。あえて一言いうと、フランスまで来て、これをワインなしで食べた私はなんだか罪を犯した気分でしたがこんなおいしいものを食べさせていただいて本当に感謝しております。
コヤマシェフありがとう。一生ついていきます。

 ジャムはパンにつけて食べる以外のことを知らなかったけど、フェルベールさんにはジャムの楽しみ方を教えていただいた気がします。その昔誰かがフランスでジャムを食べて、感動して、それを日本に持ってきたんだろうけど、そのとき、ジャムの楽しみ方を一緒に持ってくるのを忘れたのかもしれませんね。大丈夫、今回はコヤマシェフが一緒なのでその忘れ物をちゃんと日本にもって帰ってますよ。 
 もちろんご心配なく、ヨーロッパのお庭の楽しみ方も忘れずに持って帰ってきましたよ。



更新日07.9.24

vol.14
第一回 France旅行記


フランス旅行記 第一話 「早起きは三文の徳」

ボンジュール!!!

こんなベタな挨拶が出てくるというのは、わけがあります。
ななななな、なんと

   おふらんす

に行って参りました。

金魚の糞として。

 先日コヤマシェフとパティシエ エス コヤマの社員およそ40名は一週間のフランス研修旅行にいってました。それになぜか私も参加しちゃいました。

 いやぁ、セボンです(よかったです)。なんだか故郷に帰った気分。やっぱり水があう、っていうか、懐かしいというか。おそらくね、私は前世はフランス人だったのでしょうね。

                       ※

 今回は花の都、パリ、そしてドイツとの国境沿いのアルザス地方に行ってまいりました。
 アルザスでもストラスブールという町に訪れたのですが、聞きしに勝る美しさ。ちょうどドイツやスイスなどの文化が混ざり合った地域で建築様式も食べ物もフランス風でありドイツ風であり。実際言葉もフランス語とドイツ語の両方が使われていました。
 さて、パティシエ エス コヤマ ご一行様はもちろんフランスのスイーツの散策がこの目的ですが、
私、庭師の興味の対象はやはり庭、庭、庭。
海外に行ったらいつもそうなのですが、私はただ街の中をあるくことを大切にしています。
小さい庭やプランターでも必ず面白い発見があるんですよ。
今回のフランスでももちろん歩きまくりました。

                       ※

 特にシェフとの毎朝の散歩は今回の最重要イベントでした。 コヤマシェフは旅行に行くと散歩に出かけるそうです。毎朝。集合朝6:00。時には5:00集合。しかもその時間に待ち合わせに行くと、たいがいは一番初めにシェフがいて、来る人、来る人に、
 「遅い、俺はもう一回り(散歩)してきたぞ!」
と朝一からそうとうテンション高めでした。

シェフ曰く
「朝の散歩をすればその街が良くわかるし、いろいろな発見がある。だから、お前達も来い!」
と、旅行に行っても自ら学ぶ姿勢と教育の精神を忘れないぞ、みないたことをスタッフの方におっしゃってましたが、、、

実際は

 マネージャー曰く
 「旅行で一番はしゃいでるのはシェフ。楽しみにしすぎて寝てられないみたい。」
と、
 まあ、どうあれ、旅行での散歩は楽しい。
シェフはじめ多くのスタッフの方々がフランス旅行経験者であるにもかかわらず、このテンションの上がりようは、皆さんにとって一年間一生懸命働いたご褒美旅行でもあるからでしょうね。

                       ※

 Heure du matin, heure de gain (早起きは三文の徳)とはよくいったもので早起きして散歩するといろんなことが発見できました。ストラスブールの散歩で当りだったのは街の小さな花屋さんでした。朝早くからやってるパン屋さんで出来立てのクロワッサンを買い、(かなりミーハーですが私はフランスでこれをしてみたかった。)食べながら街をぶらっとしていると、花屋さんを発見。フランスの母の日のちょうど前々日だったせいもあり、お花の量がすごい。そのお花屋さんはバラの花だらけが外から見える。しかも、フロアーや店の前の歩道にもバラの花びらを散らせてるもんだから、まさにバラのじゅうたん状態。朝早くだったので、バラの花びらは誰にも踏まれて折らず、近所中とにかくバラ・バラ・バラ。


                       ※

 今度オープンする「Frame」の中のジャム屋さんができるのですが、そのジャムのひとつにバラのジャムを出したいと、シェフが食用バラを探しているのを知っていただけに、シェフも大はしゃぎ!!!
 その横で、相変わらず、シェフは引き寄せる力がつよいなぁ、と感心しながらもこのお店に入ってみると、バラの専門店のようで、バラ以外にもバラ飴やバラチョコなどバラ関連商品ばかり。特に面白かったのは、包装の仕方で、バラチョコを買ったら、紙袋に入れてくれたんだけど、その中をバラの花びらで山盛りにしてくれて、チョコを買ったのかバラの花びらを買ったのかわからない状態に。

バラのじゅうたんといい、バラの包装といい、とにかくリッチな気分にさせてくれる花やさんでした。バラのフラワーアレンジメントも上手だったし、恰幅のいいおばちゃん達の手馴れた花裁きは「この国じゃあバラは日常品よ」ってな雰囲気をかもしだしていてそのあたりもよかったです。


                       ※

 朝の出来立てのパンを食べながら歩くストラスブールの町は昔から続くヨーロッパの歴史や人の営みの延長線上にいるということを感じさせてくれるトレビィアンな田舎街でした。フランスとドイツの雰囲気を一度に楽しめるところも一粒で二度おいしい。
                       ※

余談ですが、
ナポレオンの第一妃ジョセフィーヌのバラ熱と彼女のバラ園の育種家たちによるバラ交雑革命により多くのバラの種類を生みだすことができました。そののおかげで今でもお庭でいろんな種類のバラを楽しむことが出来るんです。今ではバラ=イギリスとイメージされる方も多いといますが、それはもっと最近の話で、バラといえばやはりフランスかなぁ〜。

d
次回もまたまたフランス旅行記です。

 ちなみに「Frame」のパンのお店とジャムのお店が7月7日七夕にオープンです。
雑草抜きしなくっちゃ!!!



更新日07.6.26

vol.13
エスコヤマの白い壁


 最近突如エスコヤマに白い壁が現れました。
その壁ついている小さい扉からは屈強な男達がかなづち、ドリル、時にはイチゴとバニラのミックスのアイスクリームを持ちながら忙しく出入りを繰り返しています。
(余談ですが現場には甘いいい香りがするんですよ。いつも休憩中はタバコとコーヒーの職人さんたちもここぞとばかりにピンク色のかわいいアイスクリームを片手にどのケーキがうまいとか、ケーキの味談義を繰り広げています。その光景は全国でもここでしか見れないような気がします。)
それはそうと、あの壁の向こうでは店舗改装をしてるんですよ。もともとアイスクリームショップとお菓子教室がありましたが、ともに新店舗「Frame]にお引越ししました。
そしてあいたスペースに

「Gift サロン」
  
               ができるのです。
私はすでにプランを見せていただきましたが、またまたシェフはお客さまをびっくりさせたいようです。
乞うご期待!!!

そして、改装にあたりお庭も少しリニューアル。

ほんとうに庭はめまぐるしくかわっていきます。植物は毎年少しずつ大きくなり、毎年すこしづつ花や木を植えたり、花壇を作ったり。
時々、「いつになったらこのお庭は完成するのだろう」と自分でもぼんやり思うことがあります。

前の場所からは少し動いたけど、お気に入りの切り株の椅子は残してもらいました!

先週シェフと「うわのそら」というカフェでお茶をしているときのこと。
シェフのお庭へのこだわりについての話で面白いことをききました。
「お庭は子どもと一緒やとおもう。 いつの瞬間が一番ええのか、というのではなくその瞬間瞬間がええんや。木や花なまだまだ小さいときの庭はそれはそれなりのよさがあり、育ってすこしづつ立派になっていく庭の姿もまた違ったおもしろさがある。だから庭がすきなんですよ。」

     悔しいくらいいいセリフをはかれてしまい、私はただただ唸ってました。

正直このせりふは庭師である私がいいたかったが、まだそこには達してません。ぜんぜん。
庭師でもないのにあんまりいいセリフばかり方々ではかれると困りますよ。


でも、自分も心からこのように庭を楽しめるようになったら
このセリフ使わせていただいてもいいっすか。



更新日07.5.20

vol.12
春のアシオト


 春のスターターとしてのMuseeのお庭の赤や白のクリスマスローズが2月末からいまだにまで咲き続けています。
花もいいですが花の後の種をつけたクリスマスローズはまた趣があってGood!!!
お辞儀をした花を今度覗き込んでみてください。

クリスマスローズ 白 です。存在感のある白い花はMuseeで見ることができますよ。
クリスマスローズ 赤 です。冬の何もない時期から咲いてくれる花の大きな植物です。

そういえば、先日まで咲いていたカフェ「Hanare」の前の梅の花が終わり、そのバトンは次にカフェの入り口横の鉢植えの中にあるトサミズキに渡ったようで、赤く腫れ上がった花芽がいっせいに破れて、その黄色い花がこぼれでてきました。

誰がこんなに詰め込んだのだろう、と思うほど小さな花芽からぼろぼろ花がこぼれ出てくるのは不思議で仕方ありません。
トサミズキのつぼみと花です。もっと花がでてきますよ。 トサミズキです。小さいつぼみからこんなにたくさんの花が!

あと、ヤマシャクヤクが土の中から少しづつその赤紫の角のような新芽を出しています。あんなに可憐で美しいな植物のどこにあんなに硬い土を割って出てくる力があるのでしょうか?

ヤマシャクヤクの角です。(ウソです。これは新芽です。)

本店es Koyamaのお庭では駐車場からお庭に入って右側すぐのところにあるピンクユキヤナギが見ごろです。
もう植えて3年目なので庭の中では古株。

去年まではまだ影に隠れてはずかしそうにしてましたが、ちょっと自分の美しさに自信がでてきたのでしょうか、今年は入り口付近で来るお客様を出迎えてくれる春の代表格として去年より堂々と花を咲かせています。


最後はピンクユキヤナギ。ここ二日がピークかな。来年はもっと花を咲かせますように。

驚くべきは、スイセン達。にょきにょきいろんなところから出てくる出てくる。
まさにアメニモマケズ、カゼニモマケズ、といった感じで何度踏まれてもへこたれず。

とうとう綺麗に花を咲かせはじめました。
今は彼らを踏む人はいません。
  ・
  ・
  ・
だって、こんなに綺麗にがんばって咲いているんですからね。

このスイセンは特に珍しいわけではありませんが、綺麗です。

そのほかにも、紫色のイソギンチャクのような植物はユーフォルビアの仲間。
どう見てもイソギンチャクにしかみえませんが、彼らは種を飛ばし、根を伸ばし、今や庭中いたるところで見つけることができます。
お客様から名前を聞かれる春の植物ナンバーワンです。

イソギンチャクだ!

そうそう、去年はお庭をリーフレタスだらけにしたんだけど、今年はどんな野菜を植えようかな。
残念なのは去年植えたブロッコリーがあんまりうまく育たなかったこと。
今年はこの前小松菜とカリフラワーとキャベツを植えてみました。
シェフはマイクロトマトとチンゲンサイを植えたがっていたので場所を確保しとかないとなぁ。
今年はイチジクがなるかなぁ、ブラックベリーはどれくらい実をならせるかなぁ、それにそれに・・・・
  おっと、しゃべりすぎたな。後はお庭で。
少しだけ注意してお庭をよく見てください。
お花だけでなく、ハーブ類や、ベリー系、果物や野菜まで、いろんなものが発見できますよ。


あ、最後になりましたが新棟「Frame」にももちろん春がきてますよ。
でも、ようやくハードの部分が出来たばかりで、面白いのはこれから。
どんな仕掛けをしていこうかシェフと作戦会議の結果を乞うご期待!!

「Frame」に来た香りのよい春です。(ミツマタ)  「Frame」のカツラが赤くて小さい新芽を出しました。


更新日07.3.30

vol.11
"庭師のスイーツ"が登場?! 〜小鳥が食べに来てくれるといいなぁ〜


今年は例外的な暖冬だそうです。確かにあったかいです。
そのせいでキャトリエンムショコラ・進の入り口付近にある梅がもうそろそろ満開です。
去年は今頃つぼみがほころび始めたんですけどね。
ひな祭りのころにはちょうど梅のピークを迎えるかなぁ〜。

しかし、梅が咲いたということは、

長かった冬が終わり、春の始まりです。 


そういえば、今月冬春限定のケーキが出来ました。
名前は 「庭師のスイーツ」

2月中、庭仕事があんまりなかったので、ケーキ作りに挑戦しました。
名前の通り「庭師」自らが作った手作りスイーツです。

作り方は簡単。

用意するもの 小麦粉・バター・砂糖・ピーナッツ
分量は4:2:2:1

@小麦粉とバターをボールに入れ、体温でバターを溶かしながらよくこねる。
(冷え性の方はストーブの前でやるとよくバターの解け方がよくなりますよ。)

Aある程度したら、砂糖(三温糖がベターですが、グラニュー糖でもOK)を入れて、またよく混ぜる。



Bよく混ざったら、整形。丸めてもよし、ロールケーキのようにくるくる巻いてもよし。
(私は庭師なので、やはり植物の形がいいので、ツバキの形にしました。)

Cピーナツを砕いてケーキの周りにくっつける。


D屋根の付いたお皿に置き、樹木にぶら下げる。高さは2.0mぐらいかなぁ。
(出来るだけ茂ったお庭の中の少し隠れた場所がいいです。カラスが来る可能性もあるので)

E一緒に、米粒やミカンなどを飾っても鳥たちが喜びますよ。

F"庭師ケーキ"の完成!

シジュウカラやジョウビタキ、メジロ、ウグイスなどが食べにきてくれたら嬉しいんだけど・・・。
シェフは小鳥も好きなんでね。
お店に来られた際、どこにあるか探してみてくださいね。



更新日07.3.6

vol.10
発表します! 〜新棟「FRAME(フレーム)」の心臓?! メインツリーが植えられました〜


あけましておめでとうございます。本年も庭師日記をよろしくお願いします。
さて、早速ですが、今回も新店舗「FRAME」について。

先月の末にとうとう「FRAME」のメインツリーを入れました。
今まで樹種の名前はトップシークレットにしていましたが、
ここで発表いたします。

新棟「FRAME」 メインツリーの樹種は…

ジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカ〜

ジャン


「サルスベリ」
です。

「サルスベリ」は漢字で書くと「百日紅」と書きます。

100日間花が咲き続けるからだそうです。
名前のごとく、サルでも滑るぐらい木肌がつるつるしていて、なんとも美しい。 しかも、紅葉も綺麗。
これから、どのような変化を見せてくれるのか本当に楽しみな木です。

この木が入ってから、建物自体に心臓が入った感じがします。

ちょうどデッキの前からサルスベリを見ると、
あたかも地球からのエネルギーが噴火しているように見えるんですよ。
特に夕方の少し暗くなり始めた頃、バウムクーヘンの部屋からの光が
サルスベリのすべすべした幹肌を照らし出して、ますます幻想的です。これは必見ですよ。

あと、2Fにあるお菓子教室から見るこのサルスベリも格別です。
1Fから見る力強い株立ちの幹と対照的に、
繊細な枝振りはなんとも優雅です。

あんまり褒めたくはないのですが、この木を選んだシェフの眼力はやっぱりすごい。
前回の日記の写真でもわかると思いますが、 このサルスベリは自然に囲まれた中に植えられていました。
その中で、ひと目見て、このサルスベリが「Freme」の吹き抜けの中に
ぴったり入ることを想像するのは、素人ではまず無理です。
また、幹肌、枝ぶり、などいろんな意味でこの木しかありません。

シェフは木を探すとき、すでに自分の頭の中に木の映像が浮かんでるんでしょうね。

名前も分からない、っていうか実在するかどうかわからないけど、
「幹がこんなかんじ、葉は小さめ。高さは・・・・」って感じで。
だから、たまに実在しなさそうな樹木の特徴を言って私を困らせてきます。
(いや、あれはわざとかな?)
どうあれ、さすがものづくりの天才。
シェフのイマジネーション、洞察力には改めて驚かされました。
パティシエにしておくのはもったいない。庭師にならないかなぁ。

サルスベリと同時に建物にサインが入りました。
教室も始まり、そろそろ完成に向けてラストスパートです。



更新日07.1.20

vol.9
ついに発見! 〜新棟「FRAME(フレーム)」メインツリーとの奇跡的な出会い〜


今回はカフェ「hanare」の前に建設中の建物「FRAME」のお話。

構想から1年半、ようやく全貌が見えてきました。早かったなぁ。
何回も打ち合わせを重ね、少しずつデザインが決まっていき、
それが、こうして形になっていく姿を見るのは、本当に面白い。

建物のデザイナーさんや厨房機器のメーカーさんなど多くの方と一緒に私も端っこのほうで打ち合わせに参加。機材などの話をしている時はほとんどチンプンカンプンですが、それでもいろいろな話を聞いて、少しでもお庭に反映したいし、日記も書かないといけないので、庭師も必死です。
そして、できるだけ打ち合わせの様子を日記に載せたかったので決死の覚悟で盗撮同然で何枚か撮ってきました。

はじめに、まだフレームの建物を見られてない方のために模型の写真です。
右手にパン屋さん。
その横がジャム屋さん。
左手にはバウムの工場で2階がお菓子教室。


次はシェフの熱いトーク中の様子。
イメージを伝えるときはいつもこんな感じです。
本当に熱い。
意味のわかっていない私ですら、思わずうなずいてしまいました。

3番目、これはウルトラ警備隊専属パティシエです。
建築中なのでヘルメットをかぶらないと入れません。
シェフには悪いですが、ヘルメットは私の方が似合います。

4番目メインツリーの前にて。実はとうとうメインツリーが決まりました。
先月シェフと山を歩き回って見つけてきたのです。
メインツリーだけは、どうしてもシェフが自分自身の目で見て選びたいということで、
朝早くから木を見に行きました。(シェフは、時間があれば全部の植物を選ばれると思いますが・・・)
ところが、いろんな樹木を見て回ったのですが、なかなかイメージに合うものがないんですよ〜。

シェフにお見せできる植物をほぼ全部見せ終わっても、シェフはなんとなく浮かない顔。
時間もなくなりかけていましたが「もう少し探しましょう」と、いつも現地で樹木探しを手伝ってくれる谷向さんが車を走らせてあちこちの樹木を見せてくれました。

車の中から、外を眺めていると、小山シェフが突然、
「お、車止めて!あれ何や?」と1本の大きな木を指差した。

「よく、あんな見えにくいところにある木を見ていたなぁ」
と思っているうちに、シェフは車から降りて駆け出しています。
庭師も走っていくシェフを追いかけていくと、
そこには立派に手入れされた******が植わっていました。
(何の種類の木かは、オープン後見、に来ていただいてのお楽しみです!)

「これええなぁ」とシェフはうなずきながらうなっていましたが
確かに、その樹形、幹肌は本当にイメージどおり。 
ビンゴ! です。

私も本当にうなりました。
しかし、私がうなった理由はもうひとつあります。

私は樹木選びでいつも思うことがあるのですが、樹木は2本として同じ形の木はありません。
だから自分が気に入る樹木に出会うのは本当に偶然。
ただし、木への思いやイメージが強ければ強いだけそのものを引き寄せる、と私は思っています。
小山シェフはラッキーだけど、それだけじゃないんでしょう。
今回は本当にいい出会いでした。



最後の写真は「FRAME」に入るメインツリーの前で撮りました。
メインツリーを発見後、シェフが近くの木の上にカマキリを見つけたのですが、どうしても虫を見ると一度は自分の手で捕まえないと気がすまないらしく、メインツリーそっちのけでカマキリを追いかけていました。
捕まえて、その後にこの写真を撮ったので、シェフは本当に楽しそうに写真に写ってるでしょ。


更新日06.12.13

vol.8
日本の自然 〜九州から長野まで西日本の山々を歩いて〜


とうとう帰ってまいりました。
いやあ、一ヶ月お留守にして申し訳ありませんでした。

しかし、いい旅だった。


"日本自生植物の種の採取、および標本の作成"を目的とした、西日本の山々を歩く旅。前回は高知県からのレポートからでしたね。
四国では、高知・牧野植物園の研究員のサポートで多くの種を採取することができました。鰹のタタキが食べられたら最高だったのですが、
スコットランド王立「エジンバラ植物園」のキュレーターDavidさんは魚が苦手。だからこの1ヶ月は魚介類一切禁止でした。残念…。
福岡でも、島根でも、高知でも広島でも兵庫の豊岡でも。
ちょっとぐらい食べたかったなぁ・・・。


さてさて、九州・四国に続いて本州に渡り、
広島から長野まで、さらに西日本を北上してきました。
長くなりますが、旅のご報告です。
兵庫県の氷ノ山から岐阜の南木曽岳に移動途中にちょっこっとだけ立ち寄りました。シェフには会えなかったのが残念。(左・Davidさん、右・Peterさん)




■幻想的な自然の景色に嫉妬? 〜広島・宮島〜島根・岡山県境・大山、烏ヶ山〜
四国を出て、広島大学、岡山理科大学のサポートで広島の宮島に向かいました。観光ではありませんよ。宮島は昔から神聖な場所として開発を免れてきたので、本来の瀬戸内の植物を見ることができるんですよ。
宮島の後は、岡山の中部まで進み、そこから一気に島根と岡山の県境にある大山へ。


実際は大山ではなく、その横にある烏ヶ山(カラスガセン)に登りました。というのも、九重、大山、長野の八ヶ岳などは最高レベルの自然保護地帯なので、いくら研究目的でも環境庁の採取許可がなかなか取れないのです。
烏ヶ山では中腹のブナ林を抜けると、そこは紅葉が始まっていました。
ナナカマドやオオカメノキの赤い実が紅葉をよりいっそう綺麗なものにしていました。(オオカメノキはぜひとも、エス・コヤマのお庭に植えたい!)
去年の台風で地滑りが起きて以来、一般登山家には閉鎖された道を、
両手両足、時にはロープを使って登って行きます。荷物が多いので結構きついですが、DavidさんもキュレーターPeterさんも登山慣れしているだけあって、マイペースで登っていきます。 
時折休憩がてら、岩にへばり付いて景色を眺めていると、山のふもとは霞がかかっていて見えず、ただ見えるのは目の前の悠々とした大山と空。
雲の合間から光が線になって大山のお腹を射しています。
誰かがデザインしたかのような絶妙なバランスで、光と霞と大山が織り成す幻想的な景色。
「この景色を庭に取り込みたい!」と本気で思いました。


正直、自然に少し嫉妬してたかも。
2000m付近。奥に見えるのが大山で、手前が烏ヶ山。山頂では紅葉がすでに始まっていました。




■変わり者の大カツラを発見! 〜兵庫・氷ノ山〜
大山の後は、兵庫県の氷ノ山。ここでの一番の収穫はカツラの種の採取。今年は日本全体として不作の年で、樹木の実成りが悪いのです。
カツラやマツ、モミなど特にひどい。
いろいろな原因があるが、7月の長雨が花粉を流したり、去年は10年に一度の豊作だったから、その翌年は樹木が疲れて実を成らさないなど自然の摂理によるもので、これはあきらめざるを得ません。

けれども、どの世界にも変わり者がいて、今年はどのカツラも実をつけていませんでしたが、氷ノ山の渓谷沿いの25mぐらいある大カツラだけは違いました。その大カツラは全身を実で包んでいるではありませんか。
本当に大きくて綺麗な木で、葉っぱは秋になるとイチゴジャムの香りがします。まさに、パンとコンフィチュールの店が入るエス・コヤマの新棟「フレーム」のシンボルツリーとしてはぴったり!!!
しかし、カツラは川沿いが大好き。「フレーム」の環境では少ししんどいかなぁ。

それにしても、透き通った冷たい水、渓谷に響く鳥と水の音、雄雌の大カツラ、出過ぎなぐらい充満するマイナスイオン、そしてこれら全てを包括した自然。昔の庭師は、これを庭で表現したかったのかもしれませんね。
カツラは雄雌が別。これは雄のカツラ。この近くにこれと同じくらいの大きさの雌のカツラもありました。本当に見事な夫婦でした。




■台風の中、決して、妥協せず 〜岐阜・南木曽〜長野・八ヶ岳〜
最後に岐阜の南木曽に長野の八ヶ岳。
そこでは、日本自生のマツや天然のコウヤマキ、八ヶ岳トウヒなどを狙いました。東京大学の研究員、地元のプロシードハンターの方にサポートしていただきながらの登山。この辺りの植物は、料理で言うとメインコースになります。
日本でもこの地域にしか見られない独特の植生があり、日本に来たからには必ず訪れてほしい場所ベスト3には入るのではないでしょうか。


がしかし、10月なのに朝晩の気温は0度以下。寒すぎる…。
そんなことはお構いないしで、またまた、登山。毎日の早朝からの登山と採取した標本、種の整理とデータの打ち出し。いつも朝早くから夜遅くまで仕事をしていました。また、DavidさんもPeterさんも慣れない日本食のため、疲れがピークに達していましたが、本当に彼らはプロでした。決して妥協せず、台風の中、八ヶ岳の登山開始。


山中、「今年は野山の実成りが悪いから熊がでるよ」
そう教えてくれたのは50年以上、日本で種の採取をし続けた、シードハンターの山口さん。
「日本人はそんな当たり前のことも忘れてしまったんだけどね」
と付け加えていました。
結局、岐阜・長野では目的のものはほとんど何も取ることができませんでした。本当に不作の年のようです。
八ヶ岳の縞枯山にて。悪天候によりすごい雨風の中、トウヒ類の実を探しているところ。






■野山を歩いて知る日本人のルーツ "万物に魂が宿る" 〜今回の旅の総括〜
そして、今回の旅の総括は、
「美しい国、日本」
(パクリました)という感じです。

日本人として日本に生まれて良かったです。
というよりも、日本人なら一度、日本の野山を歩いてほしい!
そうしたら、なぜ自然が大切なのか、なぜ守らないといけないのか。
なぜ我々は万物に魂が宿ると信じ、木を切るときに塩と酒をそなえ、
秋に祭りをして、野菜中心の食事をしてきたのか…。
そんな日本人のルーツが少し、理解できるんじゃないかと思うからです。

最後にDavidさんがくれた言葉を引用して終わります。
「日本は本当に自然の豊かな美しい国だ。
しっかりこの国の自然を見続けろ。
そうすれば、植物のことが理解できるようになるよ。
そうしたらちゃんと自然を守っていけるよ。
次、日本に来たときにがっかりさせないでくれよ!」

何か大変な課題を突きつけられましたが、
日々の仕事に追われて、そのようなことを忘れてしまいがちでした。
この旅のおかげでそういったものをもう一度考え直せそうです。

この日は東京からも富士山が見えたそう。こんなに綺麗に富士山の姿が見れるのは年に数回らしいです。

台風の後の澄んだ空気のおかげで、本当に美しい富士を旅の最後に見ることができました。しかし、地球温暖化のために富士山の永久凍土が解け、富士山が壊れ始めています。Davidさんにそれを説明したら、
「エベレスト以外全ての山はそうだ。もう何年も前から」
と、機嫌悪そうにそう言いながら、富士山の写真を撮っていました。



更新日06.11.2

vol.7
日本ってこんなに広い! 〜エス・コヤマ新棟「フレーム」の植物はみつかるか!?〜


ただいま、庭師は広島県にいます。
2週間前に九州の博多に入り、そこから熊本の阿蘇、大分県の九重を抜けて、フェリーで四国に入り、
そのまま高知に抜けて、今日まで高知県と愛媛県の県境にある山の中にいました。
 
っていうか、読者の皆様は私が今何をしてるのか、ご存知ないと思うので
勝手ながら少々説明させていただきます。
 
今、私はスコットランド王立「エジンバラ植物園」のキュレーター(ディレクターみたいものかなぁ)の通訳、
ガイド、そして車の運転手及び荷物持ちとして西日本の山の中を旅しています。
私たちの目的は日本自生の植物の種の採取、および標本の作成です。

しかし、もうひとつ非常に重要な目的が。
それは、パティシエ エス・コヤマの3つ目の建物「フレーム」のお庭に植える植物の探索!!!
(私にとってはこっちのほうが重要)。

シェフ、日本って広いですね。
すでにいいものをたくさん見つけました。あえてここでは名前をあげませんが、
そっちに帰っていろいろお見せいたします。

もし、シェフに時間があったら一緒に来てほしかったなぁ。
(まあ、そんな時間あるわけないけど)。
昨日、高知で珍しいカミキリムシを見つけたんですよね。黄色いラインが頭に入ってるやつです。
名前がわからなかったので、また教えてください。

これからしばらく広島、島根、鳥取あたりの山でキャンプを張っていると思います。
また、インターネットにアクセスできる場所に着いたら、メールします。
っていうか、私のこと忘れてませんよね、シェフ。


更新日06.10.4



vol.6
クワガタ採り 〜虫が大好きなシェフと共にオトナ5人で、いざ"クワ採り"へ!〜


春からシェフに言われ続けてきたことがある。
それは
「クワガタ採りに行こう」
である。

シェフは昆虫のことになると非常にうるさい。
やれ、クワガタはどうやってとる、だとか
どの木にはどんなカミキリムシがいる、
最近ゲンゴロウを見ない、とか、
打ち合わせの合間をみて、そんなことをよく語っているのです。

そんな昆虫の話をしていると必ずシェフは
「おい、クワガタ採りに行こう」である。
去年から言われ続けて、私もはじめは
「ああ、またはじまった。」ぐらいに思っていたのですが、
夏が近づくにつれてほぼ毎日のように催促されるようになり、
とうとう、"クワガタ採りツアー"を決行することになりました。

メンバーは小山シェフと秋田県の「JIRO洋菓子店」オーナー佐藤さんと
「JIRO洋菓子店」から「パティシエ エス コヤマ」に研修に来られた2名のパティシエさん。庭師(ボク)の5人である。 (秋田から来られた方をクワガタ採りに連れて行くのは忍びなかったですが・・・)

クワガタ採りに夢中のシェフ。
カメラを見ていただけません(汗)

場所は池田の山奥。
池田では昔クヌギで炭を作っていたので、
今でも多くのクヌギの木が植わっているのです。
シェフとそこに行くのは2回目でした。
前回はシェフと庭に植える樹木を選びに来て、
その時も「夏になったらここにクワガタ採りに来るぞ」と言って山に生えているクヌギをチェックしていました。

夕方お店を出発して、現地に着いたのは18:00ぐらい。
まだ少し明るく、懐中電灯なしでもあたりが十分に見える。
現地には現地案内人の植木屋の谷向さんが同行してくれて、
いざ、クワガタとりに出発。

山の中の小道を歩いていくと、道沿いに大小のクヌギが生えている。
クワガタは明るい間は葉の裏や落ち葉の下、枝の裏に隠れていることが多いと、案内人の谷向さんが教えてくれたので、みんなで歩きながらクヌギの木の足元や枝と枝の間をチェック。
5人で黙々と探していくが、なかなかクワガタは見つからない。

一応今日は接待?! 接待ゴルフならぬ"接待クワ採り"なのです。
手ぶらで帰らせるわけにいきません。
実は一週間前にもこの山にクワガタのチェックにきたんですが、
そのときは1時間の間に4匹のクワガタが採れました。
これなら間違いないと思って今日シェフを連れてきたのですが、
日ごろの行いが悪いせいか、行けども行けどもクワガタは姿を現わしません。

クワガタがいないと必然的にみんなのテンションも下がります。
蒸し暑く、汗は吹き出て、歩く足のペースも自然と落ちて、なんとなくいやな雰囲気が漂ってきていました。そしてボクの胃も痛み始めました。
「山の神様ごめんなさい。どうか今日だけはクワガタを採らせてください。」と祈ると、
なんと1匹発見!小クワガタのメス。


おそらく、シェフはボクがカメラを撮っていた
ことすら覚えてられないかも・・・(汗)

1匹見つかれば素人はだいたいテンションが一気に上がります。
現に秋田からの若い2人のパティシエは、ここで一気に気合いが入ってきました。
が、しかし、小クワガタ、しかもメス一匹では、
シェフのような昆虫好きのテンションを上げることはできません。
喜びもつかの間、またもやボクの胃はきりきりと痛みはじめた。

しばらくすると、もう1匹捕まえた。捕まえたのはシェフである。
しかし、また、小クワガタ。
山をぐるりと歩きまわったところで、いったん、案内にの谷向さんの家に帰って、休憩することになりました。
奥さんが手作りのシソジュースとスイカでわれわれを迎えてくれました。
一息ついて作戦会議も早々に、リベンジに出発です。

もうあたりはすでに真っ暗。懐中電灯の光を頼りにもくもくと細い山道を上っていきます。
この道は2時間前に通った道。その時にはまったく何も見つけることができませんでした。
期待とあきらめ半分半分でその道を歩いていると、
シェフが突然、
「お、ええ樹液のにおいがしてきた。これは(クワガタが)おるぞ。」
そういわれれば、確かに樹液のにおいがすごい。

夕方そこを通ったときにはまったくにおいがしなかったが、
今はすごい樹液の香りです。
さすが、皆さんパティシエだけあって、甘いにおいにすごい敏感。
真っ暗闇なのに、懐中電灯ひとつで樹液の出ている場所を次々に発見していきます。
その次の瞬間、
「おし、捕まえた」。
小クワガタのオスである。
しかし、よく観るとメスも一緒に捕まえていたのです。
交尾中みたいですね。失礼。
でも、これで、一気にシェフのテンションに火がついたようで、
みんなの様子が明らかに違う。特に、シェフの動きが早い。
懐中電灯片手に、森の中に消えて行ったと思いきや、
「おい、アミもってこい!」と叫んでいます。
そこから30分ぐらいで、4匹捕まえることができました。

クヌギが集中して植わっている場所を探り終わって一息ついて、
違う場所に移動しようとした時、
「さっきのクヌギはホンマ良かったわ。樹液の出方がアッコは違う。もういっぺんチェックしとくわ」
「いや、その木はさっきシェフがクワガタ見つけたばかりの木じゃないですか。まさか」と思いきや、
「おっしゃ、また(クワガタが)おったわ」


クワガタ採り講習中

結局、クワガタ、カブトムシあわせて、8匹にカミキリムシ3匹。
ほとんどシェフが捕まえてしまいました。

帰りの車、佐藤さんが
「あ、ボクの襟の中に、クワガタがいた」といって、クワガタを取り出した。
車中、笑いの渦に。
どうも、クワ採り中に佐藤さんの襟元にクワガタが落ち込んでいたようです。
みんな、上がったテンションが冷めやらず、いっぱいしゃべり、"コヤマ流クワガタ採り術"を聞き、
大笑いし、眠りに付きました。

楽しい夏の夜のクワガタ採りでした。

更新日06.9.5

vol.5
「ピンチ!」 〜ガキ大将の登場にカリンも庭師もあやうく!〜


最近ひとつ気になっていることがあります。それはカフェ「ハナレ」のお庭に植えたカリンに元気がないこと。
カリンを植えたのは去年の冬。移植してきてびっくりしたのかも知れない、と思っていたのですが、どうみても元気がない。

ここはひとつ木に登ろう。

ゆっくり、枝に足をかけて登っていくと、
「ピンチ!」 枝に数箇所穴が開いている。

そうか、犯人はカミキリムシだったのか。

カミキリムシの幼虫が木の中に入っているせいで木が弱っていたのです。カミキリムシは木の中に卵を産み、生まれた幼虫は樹木を食べながら大きくなっていきます。厄介なのは、外から見てもほとんどわからないのでカミキリムシの幼虫の発見がおくれること。木の粉が小さい穴から出てくるぐらいで、それ以外は何の変化もありません。相当よく観察しておかないと、見落としてしまい、結果として木が枯れてしまいます。これが、カミキリムシ。

虫好きのシェフには悪いが、これはさすがに退治させていただきましょう。
腰袋からカミキリムシの退治グッツを出そうとして・・・まさにそのとき!
小山シェフがニヤニヤした表情でやってきたのです。
なんともいやな予感がしてきました。子どものころ味わったこの感じ。気づいたころにはすでに遅く、
カリンの根元に来て、「お前何してんねん。」と叫んでいます。
その顔はもはや「パティシエ エス コヤマ」主宰のシェフというよりも、ただのガキ大将。

「ピンチ!」 と思った次の瞬間、

このガキ大将は、ボクの登っているカリンの木を、嬉しそうに蹴りはじめているではありませんか!
ぐらぐらゆれるカリンに掴まりながら、
「まだ青いカリンを投げつけてやろうか」と一瞬思いましたが、
それは火に油。ここはガキ大将が飽きるのを待つほうが得策。
太いカリンの枝にしがみついて長期戦の準備をしていると、
どうも打ち合わせの途中だったらしく、携帯で呼び出されて去っていきました。

やれやれ。カリンもボクも危機一髪。


更新日06.9.5

vol.4
みんな、がんばれ! 〜花の勉強に奮闘するパティシエたち〜


パティシエ エス コヤマのお庭にいると、スタッフの方が朝早くから大忙し。
まずは朝、パティシエさん達がお庭、駐車場、周辺道路をせっせとお掃除。そのあと、お庭の花や鉢植えのお水やりもパティシエさん達の仕事です。
実はお水やりって結構時間がとられるんですよね。忙しい中のお水やりを1秒でも早く終わらせたいのでしょう。男性のパティシエさんの中には消防士のように水をまいてらっしゃる方も・・・。
しかしながら、花が咲くにつれて男性陣も植物に興味を持ち始めたようで、やさしく丁寧にお水をまいてくれるようになりました。最近では、女性パティシエさんよりも男性パティシエさん達が植物にはまってしまって、よく質問攻めにされてます。女性のパティシエールさんならうれしいんだけどなぁ〜。

質問の中心はもちろん植物のことですが、内容は本当にいろいろ。
「くちなしの花について教えてください」とか、「ハーブの名前を教えてください」など、お客様とコミュニケーションをとるためにお花の勉強しているようです。
驚いたのは、ある定休日にお庭に水遣りに行くと、「すいません、水の遣り方を教えてください」とパティシエさんがお庭に立っているではありませんか! そのパティシエさんは、メモをとりながら私の水遣りにずっとついて回っていました。
しかしながら、もっと驚いたことがあります。
それはある日の午後。あるパティシエさんから突然電話がかかってきて、「庭師さん。庭に咲いている黄色い花の名前を教えてください」と言います。
「どんな花ですか?」と訊ねると、「黄色くって、中からピューッと何かが出てるやつです」と…。
"それじゃあ分からんんよっ"と心の中で突っ込みを入れながら
「もう少し具体的に教えていただけませんか?」と訊ねなおすと、急いでいる様子で、「ああ・・・お客様がお時間がないようなので・・・・また、かけ直します。ガチャ」「あ、きれた。申し訳ないことしたなぁ」と反省していると、しばらくしてまた電話がかかってきて、「お花の名前を聞かれたお客様の電話番号をいただきました。どのお花のことなのか、庭師さんがお店にいらっしゃった時にお伝えしますので、名前を教えてくださいね。あとで連絡します!ってお客様に約束しましたので」ここまでくるとアッパレです。
お菓子やパンの勉強のために、素材である植物に対しても本当に熱心に勉強されているスタッフ方の姿には心の底からエールを送りたいです。
「みんな、がんばれ!」

※「人の応援してる場合か!お前ががんばれ!」ってシェフから突っ込みをいれられるのは覚悟済みです。

更新日06.7.20


vol.3
ユスラウメは何処に植えよう? 〜母の代わりにお店を見守る樹〜


ある朝、ユスラウメがエスコヤマに届きました。
持ってきてくださったのは、シェフのご両親。
このユスラウメはシェフのお母様が何年も前から大切にされていたものだそうで、長年鉢に植えていたからでしょう。背はそんなに大きくないものの、鉢の底から長い根っこが出てきていました。

ユスラウメをいただいた後、せっかくなので少しお庭をご案内させていただきました。
お庭の植物1つ1つを熱心にご覧になっているシェフのご両親。その姿を目の当たりにすると、「シェフの植物好きは遺伝やなぁ」なんて感慨に浸ってしまいます。
そうしてお庭を歩くうちに、カフェhanareの前でお母様が不意にひと言。
「ここに来る時はいつも心配なの。お店に誰もお客様がいらっしゃらなかったらどうしよう、ってねえ…」。
その言葉はあまりにも意外で、僕は思わず「えーっ?!」と心の中で驚きの声をあげました。
なぜなら、僕が知っているエスコヤマは、いつもお客様で溢れかえっているんですから!"『パティシエ エス コヤマ』にお客様がいらっしゃらない"なんて想像したこともありませんでした。

でも、よく考えると、私にとっては雲の上の存在であるシェフも、お母さんにとっては、"我が息子"であるわけです。
どれだけお店が評判になっていても、シェフ、いや"我が息子"のことは心配でたまらないのでしょう。
じゃあ、このユスラウメ。シェフのお母様の代わりに、シェフと「パティシエ エス コヤマ」をいつも見守ることができるよう、お店が一番よく見える場所に植えることにしましょう。

さて、その場所は…。ヒントは「お店を見守る場所」。
お庭でじっくり探してみてくださいね!

更新日06.6.26


vol.2
おいしいキイチゴ作戦 〜シェフが勝つか、庭師が勝つか〜


春からキイチゴがひとつ、またひとつと、その花を咲かせています。
通常、キイチゴの実がなっていない時にこの花を見てもキイチゴだとは気づく人は多くありません。しかし、シェフは春の新芽を見るなり、「あ、これラズベリーか?いや、日本のキイチゴやな。実がなるのたのしみやな」とサラリと言っていました。

しかも、去り際に、「これあんまりおいしい実がならへんのとちゃうか?」と、またまたサラリと私の胸にグサッと釘をさしていきました。

「俺が植えたんだ。うまいに決まってだろ」と叫びました。
心の中で。
 
でも、事実はどうでしょう。
ベリー系は野生のほうがおいしいって言われてるんですよ。
ラズベリーもブラックベリーも。だから、この庭に植えられた、キイチゴも天然物に比べれば、味がどうしても落ちるもしれません。
つまり、シェフの言ったことは ず ぼ し。

いやいや、収穫まではまだ時間があるので、どうにか「庭でもおいしい木苺作戦」を考えてみよう。
こっそり肥料とか入れてみたりして。

シェフが正しいのか、庭師の作戦が勝ったのか、結果は秋のお楽しみ。

更新日06.5.28


vol.1
コヤマシェフと庭をつくること 〜虫獲りが大好きだった僕が甦った〜


はじめまして、庭造り日記を書いていく庭師の松下です。
さて、お庭にはそれぞれコンセプトがあり、いろいろな仕掛けが隠されているんですが、それは今後ゆっくり日記に綴っていくとして、今回は記念すべき第1回なので、「コヤマシェフとお庭をつくること」について書いてみたいと思います。

コヤマシェフのお庭へのこだわりは本当にびっくりさせられます。
いろんなアイデアを次から次へと出してくる。
時には困ることもあるのですが、実はすごく楽しいのです。
というのも、シェフはとにかく人を驚かせることが生きがいのようで、出てくるアイデアが実にユニーク。
お菓子のコンセプトは「スイートトリック」なのですが、それは単なるお菓子を使ったトリックではなく、お客様がお菓子を買いにお店に来られるところから、お菓子を口にするまでの全過程に仕込まれています。
三田という立地にも、お店の前のお庭にも。
すべてはわくわくさせたり驚かせたりする「スイートトリック」のひとつなのです。

お庭作りは話し合いながら進めていきます。いや、話し合いというより、むしろ作戦会議だ。
例えば、
「クワガタとか、カミキリムシ呼ぼう。ヒラタクワガタとか木に付いてたらみんなびっくりするやろ」とか、「鳥を呼ぼうぜ。鳥小屋つくろうや」とか、
突拍子もないことを言うのもしばしば。冗談と思って愛想笑いをしていたら、シェフの目はかなり真剣。
本当に虫たちを呼びたいようです。
こんな作戦会議が毎週お庭で行われるのです。

しかし、虫や鳥を呼ぶのは簡単な話ではありません。
カミキリムシなんか呼んだ日には、木に子供を生みつけられて、木が死んでしまう。
鳥はいいけど、せっかくの木の実が食べられてしまいます。あんまりそういったものたちはお庭には歓迎されません。

でも、少し考え方を変えると、木の実を食べている鳥を近くで見ることなんて普段はなかなかできないだろうし、
また、僕も子供の時はとにかく虫が好きで、虫を捕まえることが生きがいだった。

そう考えるとなんだかわくわくしてきた。
完全にコヤマシェフに乗せられてしまったが、僕もケーキを買いに来たお客様を驚かせたくなってきた。
「スイートトリック」ならぬ、「ガーデントリック」だ。

お庭に完成はなく、季節の中でただ時を重ねてゆく。
つまり常に変化しているので、いつお菓子を買いに来られても、前とはすこし違う風景がお庭には広がっている。
だから、もし時間に余裕があるようでしたら、ケーキを買われた後に少しだけお庭にたたずんで、その時にしか見られない景色を楽しんでください。これもシェフのおもてなしのひとつだから。

※これから1〜2週間に一度「庭造り日記」を書いていきます。今のみどころ、お花の話など。
エスコヤマへおでかけの前にこの日記を読んでいただければ、より一層お店に来られることが楽しくなりますよ。


更新日06.5.10



vol.21 「有機農業を営む農家さん達を訪れました」

vol.20 「5周年」

vol.19 「雑草抜き研修」

vol.18 「エスコヤマのお庭案内」

vol.17 「東京一流会議」

vol.16 「韓国 イテオン プロジェクト」

vol.15 「第二回 France旅行記」

vol.14 「第一回 France旅行記」

vol.13 「エスコヤマの白い壁」

vol.12 「春のアシオト」

vol.11 「庭師のスイーツ"が登場?! 」

vol.10 「発表します!」

vol.9 「ついに発見!」

vol.8 「日本の自然」

vol.7 「日本ってこんなに広い!」

vol.6 「クワガタ採り」

vol.5 「ピンチ!」

vol.4 「みんな、がんばれ!」

vol.3 「ユスラウメは何処に植えよう?」

vol.2 「おいしいキイチゴ作戦」

vol.1 「コヤマシェフと庭をつくること」

vol.22〜はコチラ