「○鮨(まるずし)」さんのレポートを担当させていただく、生ケーキの仕上げ担当の永井と申します。
朝からのカカオ農園の見学なども終え、夜に小山シェフと共に「◯鮨」(まるずし)と言うお店に行かせていただきました。
もともと「◯鮨」とは札幌にあるミシュランの星も獲得しているお店で、大将が「ハワイという異国の地で“本物の”お寿司を知ってほしい、広めたい」と、札幌のお店を息子さんに任されてオープンしたお店です。札幌で仕事があった時は必ず小山シェフに連れて行っていただいていましたが、「ハワイだとなかなか行けなくなってしまうな」と思っていた所、今回の研修がハワイになり、行かせていただく機会をいただきました。
○鮨の入り口
お店のつくりは札幌と同じようにつくったとのことでしたが、アメリカの規定もあり、通路幅を広げたり、お酒の提供のルールなど細かな所を勉強して創り上げたとのことでした。
「トロの刺身」から始まり、「白えびの揚げ物」、「蛍イカ」など、心地良いペースで手元まで置いていただきます。小山シェフとも話が盛り上がりますが、「待っている」という感覚は全く無く、「粋」を感じさせてくれながら素早い手さばきで次々と握られていきます。
お話を聞いた中で、特に印象に残ったトークセッションについてレポートします。
まず興味深かったのが、「数の子」の話です。
数の子
数の子は、魚の腹を切り、取り出してからすぐに海水で洗います。この洗いは「下味」をつけているようなイメージです。海水にはミネラルも豊富に含まれているためそれ以上は何も手を加えません。洗った後は天日干しにします。天日干しは、パート(?)のおばさんたちが、ゴザの上に数の子を並べるそうです。小一時間もすると、反ってくるため、反る前にひっくり返し、また小1時間経てばひっくり返しを繰り返します。また、鳥に食べられないように気をつけながら日暮れと共に毎日保管場所にしまうという作業を、雨が降らない一ヶ月の期間で作っていきます。この乾燥をさせた数の子を水で戻すと、約6倍のサイズになるそうです。それだけ水分を飛ばしている、ということですね。
数の子の食感の話をされていると、「食べ物の中でも、音ってすごい重要なんですよ」と大将の川崎さんはおっしゃっていました。数の子に限らずどんな食べ物も、「音」が違うことによって感じ方も変わってきます。
お菓子の世界でも、口に入れたときに鳴る「音」はすごく重要です。カリッ、サクッ、ポリポリ、ポキポキ、シャリシャリ・・・・・・。「味」はもちろん、「音」でも「美味しそうな音」を大事にしたお菓子作りを心掛けなければと感じました。
間に茶碗蒸しなどを挟みつつ、心地良いペースでどんどん握ってくださいました。
小山シェフと大将の絶え間ないトークセッション
さらに、大将は、「”寿司”と言うのはいろいろあって、運動会などでお母さんが作ってくれたおいなりさんだって立派な”寿司”。それらを作ってきた人を尊敬しないといけない。握り寿司は一番最近できたインスタント寿司みたいなもの。”はや握り”や、”はや寿司”と呼ばれているもの。今の時代は握り寿司がもてはやされているが、もともとの根底を作ってきた、おいなりさんや柿の葉寿司、鮒ずしなど伝承的な”寿司”というものを作ってきた人をとりあげないと、本来の”寿司”というものを伝承できない」ともおっしゃられていました。
私たちは、幸いにも世界で活躍するシェフの元で働かせていただき、他にはない経験をさせていただいています。そんな恵まれた状況の中で、言い方は悪いかもしれませんが、まずは、基礎となるシェフの考え方や感覚、レシピを完全に真似ること、基礎を再現できることが大切だと改めて気付くことができました。シェフや先輩方から徹底的に学ぶことが、自分の礎となり、自分のものにすることによってはじめて自分のカラーが出るようになるのです。
大将の息子さんも、お寿司の世界で礎をつくっていらっしゃる最中です。お寿司とお菓子で、業界は違いますが、同じように頑張っていらっしゃる方の存在を知ったことで、私自身、また前に進むことができます。
以前、大将が札幌でお寿司を握っている時に、シェフが、「未来製作所」のコンセプトの話をされていたのですが、「その話に感動した」と、覚えて下さっていました。
また、シェフはいつも「学校の先生は忙しすぎる。マネジメントをしながら、子どもの良いところを伸ばすのは難しい。だからこそ、色んなジャンルの能力を持った大人たちが積極的に関わって、手はかかるけれど感受性豊かな子どもたちの手本となる存在にならなければならない。『あんな大人になりたい』と思ってもらえる存在にならないといけない」とおっしゃいます。
大将も、その言葉に共感されて、「大人が恰好良い背中を見せないといけない」と話をされていました。
その会話は、私達スタッフに伝えたいことだったのだと思います。
一口に“先輩”と言っても、年数だけが長かったり、年齢が上だったりというだけであぐらをかいている場合ではなく、とにかくめんどくさがらず、人を育てることに時間をかけることで自分自身も成長し、そこに時間をかけることによってその姿を見ている周りも自然と良くなっていく、ということだと思います。
お菓子作りの技術だけでなく、自分が人として魅力のある人間にならなければならないといけないということです。元は大人と子どもの話でしたが、先輩、後輩の関係も全く一緒だ、と大変勉強になりました。
お寿司も終盤に差し掛かり、その時になっても勉強になる話は途絶えることはありませんでした。
大将は、「今日まで頑張ってきて、自分へのごほうび=寿司、であり、それは『人そのもの』にとってのごほうび。『これ食べて明日頑張らないと』と思ってもらいたい」と話をされていました。たとえ、その話を聞いていなかったとしても、美味しいものを食べさせていただき、「これからも頑張んないと!」と思いました。
また、シェフはいつも「元気を与えることができる人になれ」とおっしゃられます。大将は、まさにそのモデルのような方でした。
笑顔の小山シェフと大将の川崎さん。(後ろの壁に薄っすらとある模様は大将の姓、川崎の「川」の字を取り入れたものだそうです)
大将やシェフは、修行時代、当時は大変だったに違いない話をされていました。当の本人からすれば、大変だったであろうお話も、その場にいる全員が面白いと感じることができる話し方をされるからこそ、「今となっては笑える話」になるのだなと思います。
大将はお寿司、シェフはお菓子を通して思いを伝えています。自分も同じパティシエとして、話し方も含め、単にお菓子をつくるだけでなく、まずは、「自分が何を伝えたいか」ということに気がつくことができるパティシエにならなければならないと強く感じました。
本当にたくさんの大事なお話ばかりで、お寿司でお腹がいっぱいというより、ためになるお話でお腹がいっぱいになりました。しっかりとエネルギーに変えて、一歩ずつ進んでいこうと決意した研修日初日でした。