ホノルル3日目、『senia』のレポートを担当させていただく、ブーランジュリー製造の児玉と申します。
パン作りに活かせるよう、日本から遠く離れたハワイの地でも多くのことを吸収したいと思っています。
小山シェフ・マネージャー・長野・児玉の4人でホノルルのダウンタウン、チャイナタウン近くのレストラン、『senia(セニア)』に連れていっていただきました。seniaとはギリシャ語の「歓待」を意味する「xenia」が由来だそうです。そして、『senia』は元Vintage Cave 総料理長 クリス・カジオカさんと、ミシュランの星を獲得したロンドンのレストラン「Fera at Claridge’s」で腕を振るっていたアンソニー・ラッシュさんの2人がオーナーシェフのお店です。今、ホノルルで一番勢いのある創作料理レストランといわれているそうです。
今回は、予約を取りにくいカウンター席「chef's counter」で食事をさせていただきました。席につくと目の前には厨房があり、香りだけでなくseniaのシェフ達の創作過程を見ることができます。目でも楽しむことができる、ライブ感のある雰囲気でした。食事を楽しみながらも厨房の様子に見入ってしまいました。
まず、食前酒としてワイングラスで生大吟醸をいただきました。少しフルーティーな甘味があり凄く飲みやすくて美味しかったです。ここ最近、CMでも流れているように日本酒の提供の仕方や呑み方が昔と変わってきているのは知っていましたが、正直に申しますと、その場ではワイングラスで日本酒をいただくことにうっすらと違和感をおぼえていたので、帰国後、何故日本酒をワイングラスで嗜むのかという事を調べました。
日本酒の香りを長い時間に渡って楽しめること、ワイングラスの形状により、口の中への入り方や舌の上の通り方、広がり方などが変わること。それはお猪口で飲むときと全く違う、繊細な香り、甘みや酸味を感じることができるから、ということがわかりました。利酒師のテイスティング試験でも、ワイングラスを使用しているそうです。米から出来ている生大吟醸から、フルーツの華やかな香りを感じることができたのはこういうことだったのかと、納得がいきました。私は、お酒を嗜んでいる時にお酒に合うかもしれないと新作のパンを考えたり、素材の組み合わせのアイディアが閃いたりします。今回の日本酒をワイングラスで嗜むことの理由を知ることで、これからはもっと甘味や風味、旨味を感じ、自分の味覚の幅を広げることができるなと、勉強することができました。
私は、自分の毎月の目標としてパンの新作を4~5品は出すようにしています。
試作を重ね小山シェフに確認していただき、アドバイスをいただくことによって、常により良いパンに仕上がるように意識しています。このシェフとのやりとりのおかげで、数年前よりも、小山シェフの言うように素材を活かす、旨味を引き出す、余韻を残す、平面的な味より立体的な味わいをだす、ということを表現出来るようになってきました。
またそのシェフとのやりとりで教えていただいていることが日々の仕事、後輩への教えに活かされていると感じています。
鮮魚やお肉を海外から取り寄せるのではなく、どれもハワイ産の食材を使っていらっしゃるそうです。今回のコース料理の中で、パン生地に、和食で言うと、”すじこん”のような濃い目の味付けの料理を載せた一品が出てきました。和素材だけでなく醤油や出汁のきいた料理をパンと合わせることはとても合います。続々と新作のパンのアイディアが浮かびました。
キクイモ、別名アメリカイモとスペキュロスのムースのような一品。
キクイモのムースとクッキーの食感がマッチし、デザートへのつなぎとして絶妙な一品でした。
スぺキュロスと言えば、Rozillaの「カカオセラー」にも型が置いてあることを思い出しました。
右側の写真にあるものは、2005年にシェフが、ショコラショップ「Rozilla」の前身である、「キャトリエンムショコラ進」というお店を開く決意をされたとき、設計士さんとベルギーを訪れ、そこで出会った「最後のスペキュロスの型職人」にお願いして創っていただいたもの。アダムとイヴがモチーフだが、無理を言ってリンゴの部分をカカオにしていただいた、とのこと。
はじめは渋っていた職人のお爺さんも出来上がりを見て「なかなかいいものが出来た」とおっしゃっていたそうです。
コース料理に合わせてだしていただいた日本酒、ワインはどれもフルーティーな甘みを感じることができるお酒でした。seniaの料理のスタイルはフュージョン料理、各国の料理がボーダーレスで合わさった感じです。seniaの創作料理のおいしさを引き立たせるお酒を厳選しているのだなと思いました。また、馴染みのない味付けの料理も堪能させていただきました。
伝統や食の文化を大事にしすぎるあまり、周囲の食文化を認めてない国もあるようですが、アメリカなどでは上手に取り入れて、新しい発想に繋げているとシェフはおっしゃられていました。最近では日本の醤油やみそなどは世界各国でとりいれられています。さらに、わさびや柚子、抹茶など日本の素材の使い方を本質的に理解し、探求心を持ち自国で日本の素材を栽培しているシェフもいらっしゃるそうです。
パンは、各国の料理は全て合わせることが出来るほど幅広い食べ物です。今回の経験をもとに一見合わないだろうなと思う味付けにも挑戦していき、私のパンという「もの創り」に活かしていこうと新たに決意することができました。
また、ブーランジュリーでともに働くスタッフの一人に、フランス人スタッフのダミアンさんがいます。彼も毎月新作のパンを生み出していて、育ってきた環境やお母さんの味、フランスでの経験を活かし新作を作っています。日本育ちの私に、ハーブの使い方やマリアージュ、味の表現の仕方などとても良い刺激を与えてくれます。
毎年、小山シェフには、ベトナムやヨーロッパなど様々な国へ研修に連れていっていただいています。今年もまた、ハワイに連れていってくださったシェフに感謝し、スタッフとともに刺激し合ってより良い商品を生み出していこうと思います。