現代のネオクラシックが
次の時代のクラシックになる。
なぜならオペラとは、コーヒーとチョコレートが出会って
生まれたお菓子だからだ。それを2つの素材の源流で
見ることができたのは、私にとって何よりの体験だった。
“このカカオとこのコーヒーは相性がいい!”そんな直感と実感を今、世界中の産地をフィールドに実験中の私にとっては、オペラはショコラと同様にその実験の成果を形にできるお菓子というわけだ。
しかも今、コーヒーの世界ではシングルオリジンのビーンズを中心としたサードウェーブ系のフィロソフィーが主流になりつつある。つまり、先ほども言ったような昔ながらの「雨が降らなかったので少量しか収穫できなかった」「晴天が続いたから糖度が高い」などという自然の手による作柄を受け入れ、そこに人の手を加えたごくベーシックな食との向き合い方のスタイルが見直されつつある。
そこには大量生産、均一化というルールはなく、
むしろそれぞれに異なる個性を楽しむ感性がある。
そうでなければ、遠くない未来、
この世界は崩壊してしまうのではないか、とさえ思う。
だからこそ、世界にはカカオ×コーヒーのコラボレーションの数だけ、オペラというお菓子のバリエーションがあってもいいと思う。フランスで伝統的なオペラを学んだ人は「これはオペラじゃない」と言うかもしれないが、自然を知り、先人の伝統をきちんと踏まえた上で、そこから一歩抜け出したお菓子こそが、次の時代へと受け継がれて行くのではないだろうか。
たとえば今年、南米ペルーで体験した「ペルヴィアン・ガストロミー」などがその一つの典型なのかもしれない。日々進化する最先端の調理技術を駆使しつつも、ペルーのテロワール(その土地ならではの素材、調理法など)を存分に生かし、さらにこの地に移住した日系人たちによって伝わった日本料理的な素材使い、味付けなどを取り入れたフュージョン料理〜 それは今やペルーにおいて「ニッケイ」という一つの料理ジャンルを確立している。それと同じように、時代ごとにロールケーキだって、ショートケーキだって、シュークリームだって、いろいろなスタイルのクリエイションが存在していい。私自身の感触では、フランス菓子、ドイツ菓子といった洋菓子のカテゴリーとしてのオリジナリティー溢れる日本的洋菓子〜 すなわち“ジャパニーズ・ペストリー”は、すでに世界でもほぼ認知され、確立されつつあるのではないかと思う。
ところで、私が幾度も訪れたカカオの産地・南米の国々には、実は発酵食品大国・日本にも負けないほど多くの発酵食品を活用したメニューがある。言うなればカカオもその一つであるが、「『マサト』と呼ばれるキャッサバの発酵酒に漬け込んだビーツのサラダ」、「発酵させたバナナにバナナの花を刻んだ『バナナの花のサラダ』」、「発酵させた黄色トウガラシソースをかけたホタテ」、「ペルーのキムチ」etc。それらに触れるにつけ思うのは、
その土地に芽生えた発酵食品の特性を解明していけば、
もっとクリエイティブで、自国のオリジナリティに満ちた
食文化を構築できるはずだ。
なぜなら、発酵食品を作り出す菌はその土地独自に発生したものであり、その国や地域の気候風土によって個性を発揮するからだ。日本に麹菌や納豆菌があるように、ヨーロッパにはそれぞれの地域にワインやビールの酵母やチーズのカビなどがあり、世界中に豊かな発酵食文化が広がっている。
そんな考えから、私はずっと日本のオリジナルな発酵食品である醤油や味噌、酒やみりんなどにも着目してきたが、今もっとも興味があるのは酒粕だ。通常、酒粕は搾りたてのフレッシュなものが良しとされるが、私が注目しているのはビンテージの酒粕だ。その出会いは偶然で、最近よく通う鮨屋で「酢飯に使う赤酢を変えた?」と聞いたところ「変えました、よくわかりましたね。ちょうどその酢から作った酒粕を3種類送ってもらってここにあるのですが、味見してみますか?」と供されたものだった。それらは1年モノ、4年モノ、10年モノの、しっかりとした温度管理のもとで熟成された酒粕だった。年代を経ることに変化するそのフルーティーでふくよかな風味にたちまち魅了された私は、さっそくその中の1年モノとマダガスカル産カカオをマリアージュさせてボンボンショコラを創り、2016年のインターナショナル・チョコレート・アワーズ アメリカ大会でも高く評価された。
しかし、今回は少しレベルが違ってよりマニアックになった。それは兵庫県丹波市にある銘蔵・山名酒造さんに伺った時のこと。酒粕を所望すると、当然のことながら出てきたのは搾りたての新しいものだった。それもすこぶる上質だったが、私はさらに年代モノをお願いした。