シェフと庭師Mの庭造り日記

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Vol. 35

テロワールを生かす
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 エントランスがあり、受付カウンターで会場パスをいただきます。
 小山シェフと札谷さんはカカオバイヤーのカード。石丸さんと僕はそのサポーターカード。名前は「APOYO(アポヨ)」スペイン語でサポーターという意味なので、我々はこのカードをいただきましたが、

小山シェフ:まっちゃん、いい名前をもらったなぁ、「あほよ」か~。
松下:いや、「アポヨ(APOYO)」です。
小山シェフ:え、「あほよ」やろ。
松下:いや、「アポヨ(APOYO)」です。

このアポヨカードのおかげでリマ滞在中の私の名前はアポヨ(たまに、「あほよ」に聞こえる)になりました。

 会場内はもうすでに多くの出展者が。各ブースにはチョコレートが並んでいます。南米タイム(時間にルーズなこと)を想像していましたが、意外と時間にきっちりしている気がしましたが、一つだけ気になることがあります。

 会場が微妙に暗い。

「なんか、もう少し一つ一つのブースが明るかったら、もっと商品が見やすくなるのになぁ」と小山シェフがもったいなそうに、つぶやいていましたが、確かに、その通り。小山シェフはどこへ行っても、照明の当たり方が気になるお方。しかし、実はまだ、会場の電気工事が終わっていなかったようで、一つ一つのブースが暗いのは、会場に電気が来てないからだそうです。さすが、ペルー。
通訳の太田さんもこれには苦笑しながら、「これがペルーです。とにかく、時間通りには物事が進まないんですよ」
 まあ、日記に書くネタができたから少しおいしい、と思いつつびっくりしました。

 なんとなく薄暗いことを除けば、会場参加者は明るくにぎやかな感じです。ペルーの各地方からカカオ農業者支援団体の代表が自分たちのカカオから作ったチョコレートを思い思いに展示しています。まあ、いうなれば、各地方のJAが集まって農産物を展示している見本市のような会です。さすがにペルーは地方色が強く、これが一つの国かと思うほどの多様な雰囲気でカカオを展示しておりました。
 開会式もあり、農業省の役人さんから、農業者支援団体(JAみたいな機関)のカカオ部門の代表の方などが挨拶をされ、テレビ局が撮影に来ておりました。農業省の大臣本人まで会場視察に回るという力の入れよう。また、協賛も数多くあり、国を挙げてカカオ生産に取り組みたいペルー政府の意向がよくわかりました。

 開会式が終了後、会場内のブースを回り、各地方ごとのカカオ豆やチョコレートをテイスティングしてゆきます。
 そんな中、「Mr. Koyama! 」と人混みの中から声をかけられます。
「写真を一緒にとっていただけませんか?」
さすが、小山シェフ。ペルーにおいても、小山シェフの名は知られています。
この会場のブースのいくつかのお店は、フランスのサロン・デュ・ショコラにも出店されている方がいるので、その方々は毎年受賞を繰り返す小山シェフのことに憧れていたようです。
「わざわざぺルーまで小山シェフが来てくれるなんて!」と小山シェフと写真を撮りに来ることがよくありました。また、小山シェフもペルーのチョコレートメーカーさんにも知り合いがいたりして、小山シェフを見つけると、大量の試食や材料を渡しに来られます。そんな光景を見ながら、「ここは、日本の裏側のペルーなんだけどなぁ」と、改めて小山シェフが世界で活躍されていることを実感させられました。

 なかなか一日で全部回り切れないほどの出店者数です。農業省をはじめたくさんの企業やNGOの団体が協賛をしてこのカカオの祭典を盛り上げていました。International Chocolate Awards(以下ICA)のペルーラウンドも大きな目玉のイベントとしてこのカカオの祭典をバックアップしていました。他にも、さまざまな料理人さんのカカオを使った料理のデモンストレーションやカンファレンス、そして、カカオ豆の品評会とその表彰式など、かなり大々的なイベントでした。
「すごい力の入れようやなぁ~。地方色があって、ペルーならではのイベントやな。ICAは生産者とともに、世界各国の生産国でこんなイベントを行っていったら、とても有意義な団体になると思うよ。我々、ショコラの世界大会の表彰式も生産地で生産者も巻き込んで行われるべきだと思う。各国持ち回りでもいいんじゃないかな。表彰式のあと、皆で生産者の畑を回るようにしたら、作り手が表彰式に来るモチベーションにつながるよね。現地の人が世界で今どんなチョコレートが評価されているか知ることはとても大事だし、我々作り手も現地に行くことでたくさんの収穫を得ることができるからね」と、まだこのイベントの初日の午前中にも関わらず、早々に札谷さんに提案をしておられました。
相変わらず、芯を捉える早さがハンパない小山シェフです。常にプロデューサ目線。結局、この開催された日程の間、この話を言い続けておりました。そして、会場で合流したICAの代表のマーティンさんやマリセルさんにも、挨拶をしがてら、札谷さんの通訳を介して、そのことを伝えておりました。

 一日目はイベントの開会式に参加し、そのあと、2日後にある小山シェフのデモンストレーションの打ち合わせ。そして、全体のブースをテイスティングをしながら見学させていただきました。本当は一日目からICAのペルーラウンドの審査員として、チョコレートのティスティングをする予定でしたが、電気が来ていないのでインターネットが使うことができないため、中止になりました。想像していた以上の賑わいと、想像していた以上の問題が発生することに驚きながら、一日目は過ぎ去っていきました。

 そして、会場を後にした我々が次に向かったのが、夕食を頂くレストラン。実は今回のペルー訪問のもう一つの目的は、「ペルーのガストロノミーを知ること」。僕自身、去年、一昨年と訪れたコロンビアで感じた南米ガストロノミーの奥深さに驚きを隠せませんでした。ヨーロッパのトップシェフの方々が自身の料理に多く取り入れているアイデアも南米からのものだったりするのだと思います。最近、南米でも、特にペルーのガストロノミーが世界的に注目されていて、私も以前から気になっていたので、「今回の旅の中で今のペルーガストロノミーを感じることはとても楽しみ」と、小山シェフがお話しされていました。確かに、コロンビアで小山シェフがスイーツを作るイベントを行ったハリー・サッソンシェフのお店は素晴らしかったですし、素晴らしいお料理を出してくださったのは、今でもよく覚えております。
「今回、訪れてみたいお店がいくつかあるんだけど、あるレストランを予約しておいたわ」と小山シェフがわざわざ日本から予約してくれていました。それが今夜のレストラン。

「Astrid y Gaston」(アストリッド・イ・ガストン)。
アストリッドとは奥さんの名前だそうです。ペルーだけでなく、南米で最も有名なお店の一つであり、ペルーではカリスマ的料理人ガストン・アクリオさんがオーナーシェフ。彼に憧れ、料理人になる若者も大勢いるようです。
 コロニアルスタイルの教会のような建物の中は、とてもモダンに洗練された内装で仕上げられており、びっくりしたのは、その広さ。巨大なテラス席(100席ぐらいで、普段は使っていないようでした)や10席ぐらいの席数の部屋が4つぐらいあり、それ以外にも、ホールのようになったテーブル席まで、全部でおよそ150テーブル以上はあるようなレストランでした。この日はサービスの方だけで2、30人はいるよう感じました。厨房はオープンキッチンになっており、数ヵ所に分かれているため、レストラン全体で何人働いているかわかりませんでしたが、とても多くのスタッフが活気よく仕事をしている姿は圧巻でした。料理はどれもペルーの伝統的な食材を様々なスタイルで表現しており、必ずしも、ペルー料理の形式にはこだわらず、独特のスタイルで一皿一皿丁寧に盛り付けられえておりました。
「アポヨに食べさすには、少しもったいないなぁ~」と小山シェフに突っ込まれながら、僕自身も、何を食べても「美味しい」としか言えませんので、「すご~い」とか「おいしい~」とばかり連呼しておりました。
 コースの終盤になると、ガストン氏の奥様、アストリッドさんがテーブルに挨拶に来てくださって、小山シェフが日本のショコラティエで今回のショコライベントのために日本からやってきました、と伝えると、彼女自身もペルーのカカオの研究をしており、本まで出版されていたようで、
「ペルーに来てくれてありがとう。そして、ペルーのカカオに興味を持ってくれてありがとう。ペルーにはまだ知られていない面白いカカオがたくさんあるので、いつかまた、私があなたにいろんなカカオを紹介したいわ」と、アストリッドさんは自身の著書であるカカオの本を小山シェフにプレゼントしておられました。
「ああ、それと、何日までペルーにいるの? できれば、食事に招待したいから、空いている日を教えて」と言って、ガストンさんが経営されている、ペルー伝統料理セビーチェの専門店「La Mar」(ラ マール)に招待してくださいました。小山シェフと一緒だとこういうことが起きるからうれしい。初日から現代ペルーガストロノミーの奥深さを感じる、とても面白い経験ができました。