Vol. 35
テロワールを生かす
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ペルーガストロノミー調査 2日目
お店の名は「Malabar」(マラバール)
ビルの一階にあるお店で、外からはそこがレストランであることすらわかりませんが、中に入ると、おしゃれなウェイティングのソファーとクラシカルなスタイルのバーカウンターが目に飛び込んできます。とてもスタイリッシュな雰囲気で外からは全く想像できませんでした。サービスの方がすぐにテーブルに案内してくれて、席に着くと忙しいにも関わらず、スチアッフィーノシェフが席まで来られて、
「今日は来ていただいてありがとう。僕なりのペルー料理を楽しんでください。」と歓待してくれました。
料理の内容はどれも素晴らしく、「キャッサバの発酵酢を使った料理」、発酵させたバナナにバナナの花を刻んだ「バナナの花のサラダ」など、アマゾン地方の発酵技術を用いた料理はどれも未体験のおいしさで、一口食べるなり、小山シェフの目つきが変わりました。続いて、「ヤシの木の新芽のサラダ」「アボガドのスモークとボッタルガ」「天竺ネズミのから揚げ」など、面白い食材を見事に洗練された料理に昇華させた感性には小山シェフをはじめ、テーブルにいた皆が感嘆しました。もちろん、味も抜群においしく、見た目はとても美しい。しかし、「その未体験の味と発想力、豊かな調理法、このシェフはすごいなぁ。本当にすごい」と、小山シェフが料理でこれほどびっくりしているのを久しぶりに見ました。最後のデザートは「カカオパルプのアイスクリーム」。カカオパルプの甘味だけで作られていました。
「こんなおいしい料理に出会うと、うれしくなるなぁ」と、皆がペドロシェフの料理を堪能させていただきました。結局この旅の間、3度このお店に通うことになったぐらい、小山シェフお気に入りのお店になりました。ちなみにMalabarはアラカルトのお店でコース料理は普段出しておられないそうです。しかし、彼はわざわざ我々のためにコース料理を組み立てて、すべて違うメニューでコース料理を提供してくれました。
最終日の帰り際、「すべておいしかったですし、ペドロさんの心意気うれしかったです。是非、日本に来てください。そして、私が案内するので私の好きな日本の料理を食べに行きましょう。札谷さん、彼が日本にこれるようなイベントを企画してくださいね」と小山シェフ。このスチアッフィーノシェフさんの料理に関して、詳しくは小山シェフが毎号記事を寄せている『味の手帖』9、10月号をご覧ください。
この日はそれで終わりません。Malabarでの食事のあと、次はペドロシェフの伝統的アマゾン料理のお店「Amaz」(アマ)に移り、そこで明日のデモンストレーションの時にソースに使うフルーツの打ち合わせ。そのお店でも結局たくさんの料理を出していただきましたが、こちらのメニューはもっとワイルドな感じ。アマゾン川最大の魚、ピラルクが出てきたり、川魚のスープ、パエリアと焼き飯の間のような料理などなど、こちらはこちらでおいしい料理をふるまっていただきました。最後に出てきたのは、豚をミルクでアンフュゼしてから、そのミルクで作ったアイスクリーム。アイスクリームの下にはパイナップルが敷かれており、上からは、塩と細かく刻んで揚げた豚肉を散らし、そして、ウィスキーとビールを濃縮させたソースをかけた大人のデザート。「とても濃厚だけどアイスクリームの甘味とパイナップルの酸味のバランスがよく、塩味がアイスクリームの甘味を引き締め、細かく刻んで揚げた豚のカリカリとした食感がアクセントになって、とても面白いやろ。このデザートの考え方はおいしいものの基本的な仕組みをうまく利用している。味が立体的で、食べてて楽しい。昔同じようなことを私も考えたのを思い出した。豚と聞くと奇抜な感じもするけど、実はとても理に適ってるデザートなんやで。これは」とその説明もさることながら、いくらお酒を飲もうが、いろんなものを食べようが、最後の一皿まで味の分解をしていくのが小山シェフ。ペドロシェフのアマゾン料理もそうですが、おいしいものを作る人は、美味しいと感じた味の理由を探し、分解してまた、自分なりにその味を違う形で構築していくことができる人なんだとつくづく思いました。