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3日目。
3日目も午前中はチョコレートの審査の続き。そして、午後からはデモンストレーション。
こんな日に限って、会場は朝から水が出ません。水道水は飲料水として使えない国なので今回のデモンストレーションに直接影響は無いにしても、使った道具は洗えません。それよりも、だから今日はトイレは使えないそうです。
これが一番痛い。こんな日に限って……。
しかし、作業は不慣れなものばかりで、粉を振るうのはこぼれそうで、ビビりながらの作業でつい時間がかかってしまったり、卵白を立てる作業は想像以上にハードワークでなかなか泡立ちませんでした。作業の途中、コック帽を止めていた両面テープが外れて帽子が落っこちたり、ふるった小麦粉をボールにゆっくり入れていく時も、なんとなく粉をこぼしそうな気がして、つい振るった小麦粉を入れている紙ごとボールに突っ込んでしまいそうになるという軽微な失態がたくさんありましたが、その度にオーディエンスの温かい目と笑いで、まったく役に立っていないにも関わらず、自分の役割を果たしたという達成感だけはしっかり感じてしまいました。パティシエという仕事も悪くないですね。
デモンストレーションも無事終わり、そのあとは農業者支援団体からのカカオ生産者の表彰式とICAペルーラウンドの表彰式が行われ、会場の盛り上がりはピークを迎えます。1位に輝いた地方の農業組合には高性能秤(カカオ豆の重さをはかるため)が副賞として手渡されます。5位からスタートする表彰式は受賞者が発表されるたびに、会場がどよめき、表彰された農家の方々は本当に嬉しそうで、誇らしげで、少し恥ずかしそうで、見ているこっちも、つい拍手を送りたくなりました。とてもいい表彰式だったと思います。
「農家の方々が誇りに思えるようなこの評価の仕組みは素晴らしいな。いい表彰式だともうわ。スペイン語で行われる表彰式は、内容はよくわからないが、高揚感があって面白い。やっぱり、ICAの表彰式にはこんなイベントが必要だと思うなぁ。我々が本当に必要なのはカカオの農家さんのこういう笑顔を見ることだと思うな。自分が賞を獲れるのも彼らのおかげだし、彼らだって、自分たちのカカオが世界で評価されたことを知ったら、絶対もっといいカカオを作ろうと努力するだろうし。生産者と作り手を結ぶことが表彰式の意味をもっと広げる」と、このイベントを大絶賛されていました。
この小山シェフの目線はいつでも同じで、基本的には材料(農産物)を供給する側とそれを使用する側がいかに良いコミュニケーションをとれるか、が大事で小山シェフのモノづくりは生産者との対話から始まるといっても過言ではないくらい、「その作物は誰が作ったか?」「どんな環境で、どんな思いで作られたか?」というところを大事にされています。そして、そのカカオからできたチョコレートを生産者に食べていただくことで、感謝の気持ちと生産者に自身の仕事の意義を感じてほしいと思っているのだと思います。
去年のコロンビアのシエラネバダを訪問した時もそうでした。アルアコ族の族長はじめ、アルアコ族のカカオ生産をされている方々に、彼らの作ったカカオ豆がどんなチョコレートとなって世界で評価されたか、ということを彼らに伝えるために、日本からコロンビアのシエラネバダの麓までチョコレートを持って行って、食べてもらいました。
海岸線にあるアルアコ族の集落まで、チョコレートを溶かさずにもっていくことは至難の業。現地では日中気温は30℃を超えます。そもそも、日本から丸2日かかる場所にチョコレートを持って行くことは可能なのかわかりませんが、こまめに保冷バックをかえながら、現地までどうにかいい状態で持って行き、族長にチョコレートを渡した時、
「我々は大事なお話をしなければならないとき、この村で一番大きな木の下で話をしなくてはなりません。そこで、このチョコレートをいただいてもいいですか?」と、大きな木の下に案内されました。
「ここまで、チョコレートをいい状態でお持ちできるか不安でしたが、幸い最高の状態でチョコレートをお持ちできました」と、小山シェフがチョコレートを族長に手渡しながら話していると、
「母なるシエラネバダが守ってくださったのでしょうね」と嬉しそうに、悠然と語られておりました。族長は決して口数の多い方ではありませんでした。しかし、言葉を一つ一つ選びながら、でも、それは考えているというよりも、ただ感じたことを正しく言葉にすることに集中したような、もしかすると、誰かと交信しながら、それを言葉にするような面持ちで、小山シェフの目を見てボンボンショコラの感想を語りかけていました。実際アルアコ語をスペイン語に訳し、そして、それを日本語に訳する。小山シェフの言葉を、逆の順序を辿りながら、族長に届けるコミュニケーション。しかし、族長の言葉はなんとなく、そのまま心に伝わってくるように感じました。小山シェフのボンボンショコラを食べて、本当においしいと思ったこと、そこから感じた奥深さや自分たちの作るカカオ豆を大事にしてくれたことへの感謝。そんなことを小山シェフに伝えたいということは、通訳を介さずにも理解できました。
「以心伝心」ってもしかしたら、こんな事をいうのかなぁ。
族長と小山シェフのコミュニケーションを横でみていると、ついそんなことを感じてしまいました。今日感じた事からまた新たなお菓子が生まれる、というのはとても必然的なことだと思いました。たびたびこの日記で書いたことですが、これは小山シェフのモノづくりの真骨頂です。
話は逸れましたが、続いて、ICAのペルーラウンドの表彰式になるはずが、初日の停電のせいで審査が遅れていたこともあり、それは後日行うとして、アメリカラウンドの表彰式が行われました。アメリカラウンドは小山シェフも参加しており、しかも、ほとんどの部門で賞を受賞しているので、表彰状や盾が多すぎて、全部の表彰はやめにして、ペルーのカカオを使ったチョコレートで受賞したものだけの表彰されることになりました。写真を見てもらえればわかると思いますが、Gold, Silver, Bronzeの表彰状を並べてみました。この量です。
この日も夕食は「ラマール」で素晴らしい味を堪能し、とても素晴らしい3日間のイベントの最終日を締めくくることができました。