19.10.15 (2/3ページ)
Vol.12

パティスリー改造計画 ビハインド・ストーリー
小山進 16年目のモノづくりの覚悟

SEASON 03
Return to origin : 原点回帰

原点に戻ってクリエーションを深める 「逆さまの木」のパラドックス的発想


そして16年目を迎えた今年、いよいよ満を持してエスコヤマの原点であるパティスリーの改造計画に着手することになった。これまでエスコヤマの成長過程では、その時々で必要な課題を解決するために改装を重ねてきたが、私の中では一番思い入れのあるパティスリーがまだ手付かずであるということがずっと気になっていた。本来ならキッチンから本格的に手を入れてリノベーションしたいところだが、もうお客様をずいぶんお待たせしてしまっているので、このタイミングをずらしたくはなかった。今回はキッチンを見送る代わりに、店内と外装については圧倒的なクリエーティブとクオリティでみなさまを驚かせたいと考えたのだ。


今回の内装の一番の特徴は、中心にそびえる逆さまの「思い出の大きな木」だ。上に目を向ければ、高く吹き抜けた天井に向かって、アイアンの大木の根が力強く広がっている。木の幹からは床に向かって枝が伸び、そこにさまざまなお菓子がディスプレイされているという構造だ。

この「逆さまの木」のパラドックス的発想は、小山流バウムクーヘンのパッケージの表紙を開けたところに記されている、「思い出の大きな木」という物語に由来している。物語では、少年がおばあちゃんの家の裏山にあった大きな木でカブトムシやクワガタとりを楽しみ、自然と遊ぶ中から様々な学びを得たこと。そして、その学びがのちに少年の豊かな創造性を育んでいったこと。さらに大人になってからは、その宝物のような大きな木の思い出を次世代の子どもたちにも届けたいという想いから、ケーキ屋の庭にたくさんの木を植えた...というストーリーが展開されている。


今の時代、パティシエとして仕事をしていくには、ケーキの作り方さえ知っていればいいというものではない。テクニックとは別に、豊かな発想力が必要だ。どんな味、どんなデザインのケーキならパティシエの意図がお客様に伝わるのか?それを叶えるクリエーティブの源泉は、私の場合は子どもの頃の様々な体験から培われたと思っている。様々な体験からくる感動を五感で切り取り、自分の感性のストレージにストックしていくのだ。


私自身、虫とり〜音楽〜カカオと、大人になるにつれて興味の対象は変遷を遂げたが、なんでもいいから一度は思いっきり好きになってみることが必要だ。 その心の動きが、忘れられない記憶となって子どもたちの中に刻まれていくのだ。だからこそ、子どもたちにはその発想の原点となる非日常的な体験を、このエスコヤマでたくさんしてもらいたいのだ。完成した「思い出の大きな木」の幹には、ギター、ティラノサウルスの骨格、オオクワガタ、カブトムシ、アンモナイト、カブトガニ、子どもの頃にタイムスリップする逆さまの時計、etc.私が子どもの頃から現在に至るまでの大好きなモチーフがぎっしり詰まっている。


人は人生の根っこを大きく伸ばすことで、いろいろなモノや出来事に触れ、そこから栄養を吸収し、やがてたくさんの花を咲かせ、美味しい果実を実らせる。私にとってその果実こそが、店内に並ぶ幾多のお菓子であり、今の小山進のクリエーションの現在進行形なのだ。私がこの「思い出の大きな木」を通して次世代の子どもたちに伝えたいのは、出会いの楽しさ、驚き、そして純粋なモノづくりの喜びだ。



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