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Vol.19

出会いをカタチにする精度

しかし、「商品化するにはどれがいいか」を決めるための味覚の話はものすごく難しいので、今はまだそれでもいい。 3種類を決めたとき、シンプルに僕の舌が「この3種類にしようと思った」というだけで、お茶屋さんから「この3種がわかりやすいですよ」と事前に聞いていたわけではない。 「チョコレートにできるのはこれだな」とイメージを浮かべながら僕が決めた。 その決めたわけを、一緒に創ってくれているスタッフたちも「うわ、それわかります!」と、一発で当てられるようになってほしいと思っている。


なぜかというと、次の話に登場するカカオハンター®の小方真弓さんのような方は、何の説明をしなくてもピタッと当てられるからだ。 僕が信頼している料理人たちが召し上がられると、ピタッと当てられる。 その感覚が、スタッフ皆に身に着いたらすごいよな、ということを常々思っている。 そしておまけ話がもう一つ。 前出の小方さんとの話だ。 小方さんが関西に御用があるとのことでエスコヤマに立ち寄って下さったので、小方さんのクーベルチュールを使っている作品やチョコロジーの新作などを召し上がっていただいて、内心「小方さんぐらいしかわからないだろう」と思って、シングルオリジンの抹茶も召し上がっていただいたら、ニコ〜っと笑って、「小山さん、よくわかります。 コーティングをこれにした理由も」と、僕が中川に説明したことと同じことを小方さんは説明された。


さらに「これしかないですよね」と堂々とおっしゃった。 食べただけで、である。 もうあっぱれとしか言いようがなかった。 滅多に遠出もできず、ましてや海外にも行けない中で、小方さんと一緒にビジネスパートナーのカルロスさんもコロンビアから来てくださって、こんなやりとりができて、すごい旅をしたような、ショコラをコロンビアに持って行ったぐらいの価値があると感じた濃密な時間だった。 しかも小方さんは「ごこう」のショコラを召し上がられて、「これは、ボーンッ!ボーンッ!」って太鼓叩いたような味ですよね。バウムクーヘンもこれにされたんでしょう?」とまでおっしゃった。


失礼な表現だが、ここまでくれば変態的だ。 説明も聞かずに「これしかないです」なんて話、常に着地点を描き、予想を立てながらモノづくりを実践してこられた小方さんだからこそピタッと当てられるのだ。 モノづくりにおいてこの勘はとても重要だと思う。 予想して、予想を超える結果を導き出すことができれば、高い精度のモノづくりができ、モノづくりに関わるより多くの人が喜ぶ結果を生み出すことができるようになるだろう。 そのためには常に予想してやってみて結果を見て反省し、また予想して…… ということを具体的な目標を持って実践していくしかない。


話の時系列は少しおかしいが、前述のような流れでシングルオリジン抹茶のショコラができて、それをつくりながら「バウムクーヘンをやろう」と思ったのである。 それも小方さんが見事に当てられた通り「五香」を使ってだ。 試作をスタートする段階で自分の中で「五香を使おう」とは決めていたが、バウムクーヘン担当者に「もし自分が商品開発の担当者だったらどれを使う?」と聞いてみた。 「全部試してもいいし、まずはこれと決めてやってみてもいいし、試作の方法は任せる」と言って託したところ、1回目の試作に「五香」を選んでいた。


そうして彼は6種類を試すことなく一発で決めてきた。 僕の彼に対する入社当初の印象は、「マニアックで、この子が力つけるまでは少し時間がかかるだろう。 でも、恐らくこの子が責任者になる頃には、味について語れる子になるだろう」というものだった。 バウムクーヘンの試作は微調整が多いため、微妙な配合の違いで数種類焼いてもらうことがあるのだが、よく僕は「どっちを選んだと思う?」と質問することがあり、最近は質問されることにも慣れてきたのか、何も言わなくても「シェフはこちらじゃないですか?」と想像してくるようになった。 むしろそれを楽しんでいる気配すらある。 外すことも多かったが、今回は当ててきた。 彼のマニアックな思考の蓄積と経験が実を結んだのか、得意技として表に出てきた片鱗が見えてうれしかった。 モノづくり人の“勘”が冴えてき始めたのかもしれない。


これからが楽しみだ。 小方さんがお越しになったタイミングが、ちょうど新入社員研修の期間中で、小方さんからお話をいただける滅多にない機会だったので、「2分でも3分でもいいので新人スタッフたちに少しお話をしていただけませんか?」とお願いをしたところ、「もちろんもちろん、私で良かったら……」と言ってくださり、お話をしてくださった。 普段から、着地点を描いてブレない創作をされている方はやはり何を急に言われても、どんなテーマでも話せる。 僕はそれを信じているし、小方さんももちろんわかってくださっている。


このとき運営のスタッフが予定を変更して臨機応変に対応できるかが心配だった。 小方さんと僕の中では何の心配も無かった。 何を求められていて、何をして下さる方かが分かっているから。 お菓子には直接関係の無いことと思われるかもしれないが、僕の抹茶のショコラを食べて、ポンポンと当てていく感覚と一緒だと思う。 これが面白いところだな、と思う。この感覚はモノづくりの背景にある大事な要素だ。


小さな必然の連鎖が生むモノづくり

今回の新作アイテムも本当に奇跡的にでき上がっているし、もしかしたら奇跡ではなく、本当に必然なのかもしれない。 ここ数カ月前までこの今回の新作ができ上がるとは思っていなかった。むしろ、自分の頭の中は次のバレンタインのアイテムの創作に向かっていたぐらいだった。 だから完成させた今からは、もう少しバレンタインの方にギアチェンジをしていかなければいけないと思っている。 今回、それぞれ協力してくれたスタッフの活躍もあり、誇張ではなく本当に10日間ぐらいで各アイテムができ上がった。 じっくり試作した期間は、今までで一番短かったと思う。 ラーメンを作っていたことも準備になっていたんだと思う。 何でも繋がっているし、何かを読んで情報を収集したり、理論を理解したりしてからじゃないとわからない、ではなく、何か一つができあがってそれが他と繋がっていることがわかったら自然と商品はできあがっていく。 要は、鶏を大事にするか、苺を大事にするか、抹茶を大事にするかだ。


実はそのお茶屋さんも、僕が抹茶を大事にして創作した味が響いたんだと思う。 小方さんは、ご自身のクーベルチュールを使用されたショコラではないけれども、「この抹茶たちに、このホワイトチョコレートを使われた意味がめっちゃわかります」とおっしゃってくださった。 そして、小方さんがちょうどご自身の工房で作られたホワイトチョコレートを持って来られていて、「抹茶ちゃん達にはウチのは合わないけれども、もし小山さんがホワイトチョコレートを色々と使われている中で、この子がどうやったら輝くか、もし隙間があったら考えてあげていただけませんか?」とおっしゃって帰られた。 僕に託してくださったのだ。 これがボンボンショコラになるのか、何になるかはわからないがこうしてまた新たな創作へと繋がっていくのである。

2022年初夏 小山 進

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