vol.24
「ホンモノ」

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 西村さんでたくさんの「ホンモノ」を見て小山シェフは本当に楽しかったみたいで、帰る途中、
「今日はええもんたくさん見れたわ。サンキューな。お礼に俺の知り合いのフランス料理を食べに行こうか。フランス人のシェフがカウンターでうまいフランス料理を出すところがあんねん。」と言い出しました。
 「よっしゃー!フランス料理が食えるー!」って両手を挙げて喜んでいるのもつかの間、フランス料理を食べに行くには大きな問題がありました。私は庭師を仕事にしています。普段は決してきれいな服を着て仕事をしているわけではありません。いや、こんな言い方をすると、きれいな服を持っているような言い方をしましたが、きれいな服などほとんどありません。それを見かねて小山シェフが服をプレゼントしてくれたぐらいです。そんな私の仕事着でフランス料理のお店のカウンターに座っても良いのか、フランス料理は食べたいが倫理的に迷いました。言い出したらすぐにシェフはフランス料理のお店に予約の電話を入れています。
「マジでこの格好じゃあ具合悪いと思うんだけどなぁ」と電話しているシェフの横で心配していると、
電話口のシェフが
「すんません、今日そっち行きたいんやけど。大丈夫。でも一つ問題があって、めっちゃ汚い服きてるやつも連れて行ってもいいですか?うちの庭師なんやけど。ほかのお客さんの迷惑にならへんかなぁ。え、気にしなくても大丈夫。マジ汚いよ。服も顔も。」
顔は余計ですが、どうやらそこのお店のフランス人シェフとは相当仲がいいみたいで快諾してくれました。それでも気が引けましたが、どうあれ、今日は小山シェフが満足しいただいてよかった、とうまい料理をかみ締めながら一人安堵で胸をなでおろしていると、

「まっちゃん、メダカどこにおる?あったかくなったらメダカ取りにいかなあかんな。」

さあ〜、困った。次はメダカだ。ホームセンターで買うつもりにしていた私が迂闊でした。
シェフなら必ずメダカを取りに行くに決まっていることぐらい想像できてたのに、ついうまいフランス料理に油断していました。その次の日から、私の車には常に網と水の中に空気をいれるブクブクを乗せ、小さい小川やため池を見かけるたびにメダカ探しをすることになりました。しかし、全くメダカが見つかりません。植物園の人や博物館の関係者の方々に聞いたら、いい情報がもらえるかも、と思い相談してみても駄目。仕方なく地道に三田付近の池を散策したのですが、私のようなおっさんが、平日に網を持ってため池の回りをうろうろしていると、人目にはかなり怪しい人に写るようで、人の視線が痛くて仕方ありません。
 このように、メダカ探しに奔走していると分かったことがあります。それは、近年、水質が悪くなったり、メダカの生息する場所が少なくなっていたり、外来魚の影響で、天然のメダカを見つけることは本当に難しいそうです。しかし、そんな難しいミッションに付き合ってくれる暇な、いや高尚な方がいました。それは陶芸家の今西さんです。自称魚取り名人の今西さんは自宅近所の川や池から相当遠くの方までメダカを探しに付き合ってくれました。

写真 そして、探すこと一ヶ月、陶芸家の今西さんから電話があり、「メダカおったぞー。左官の久住さんの家の前や。」と報告を受けました。これは灯台もと暗し。


ナイスな情報提供をありがとう今西さん。即座に久住さんに電話で確認すると、確かにメダカがいるそうです。しかも天然のメダカで、ある時期には、メダカが大量に発生しすぎて池がメダカで埋まるほどいるそうです。トイレを作ってくれた左官の神様、久住章さん(前々回の庭師日記参照)の自宅の前の池は確かにくさい。くさいというのは臭いではなく、メダカがいそうな雰囲気のことです。それを完全に忘れていました。あそこなら大の大人がめいっぱい網を振り回しても、痛い視線を浴びせる人はいません。

結局、久住さんの家の前の森の中の池で、心行くまでシェフと久住さんと私でメダカを取り、無事ミッション終了いたしました。 写真


 こうした一連の渋い地道な作業により、カフェの前にある船形の石、そして、その中のメダカがそこにいるのです。

   しかも、この前7月の中ごろのある日、メダカの石を掃除していると、小さい赤ちゃんメダカを発見しました。庭師という職業をしていてよかったと思う瞬間、それは、自らが手がけたお庭に生命が宿ることです。なぜなら生命の息遣いは「ホンモノ」だからでしょうね。毎年小山シェフとクワガタ捕りに行っているうちに、そんなことも教えてもらいました。今年はコクワガタのオスとカブトムシのオスとメス2匹、ヒラタクワガタのオスを捕りました。
「ヒタラクワガタは手にいい重量を感じるな。」と、ヒタラクワガタを手にしたシェフがつぶやいていました。これが、ホンモノを感じさせる重さですよね。

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更新日10.8.6


vol.30 「マダガスカルに行くぞ」

vol.29 「サプライズのその先」

vol.28 「flow」

vol.27 「目に見えないもの」

vol.26 「バトン」

vol.25 「人を雇うこと」

vol.24 「ホンモノ」

vol.23 〜今年たどり着いた場所〜

vol.22 久住章のトイレット

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