vol.28
「flow」
1/3ページ
小山シェフ受賞時の写真

小山シェフがフランスのチョコレートの品評会(CCC)で外国人部門で最優秀賞を受賞したのはもう皆さんご存知だと思います。
いやあ、本当にすごいですよね。
凄すぎて、何がなんだかよくわからなくなりましたが、この受賞がいかにすごいかを少し説明すると、こんな感じです。
まず、CCCとはフランスではとても権威あるチョコレートの品評会で、まずそこに参加することだけでもとても栄誉あることなのだそうです。しかもCCCに初参加で5つタブレットの最高評価。さらに、フランスで商売をしていない日本人で初めての受賞で、外国での修行経験のない人がこの賞をとったことも大きな話題となりました。これは日本人のモノづくりのレベルの高さが世界で認められたようにも思えて、日本人としてとても誇りに思えました。しかも、小山シェフはこのCCCという品評会が始まって以来、満場一致で最高評価だったそうです。それはチョコレートの味だけではなく、そのプレゼンテーションの良さや、丁寧な説明文も添えたこところも評価されたからだそうです。ね、とことんすごいでしょ。

このCCCの品評会のことだけで、いろんな角度で庭師日記が書けるんですが、あえて、今回注目したいのは今挙げた点ではありません。この受賞に関して、私が一番印象に残ったのは次のことです。
審査員が小山シェフに言ったひとこと。
「コヤマシェフ、あなたがこの品評会に参加したことで、我々は新たな基準が必要になったよ。」

 これはフィギアスケートや体操で圧倒的に評価されたゴールドメダルの選手に送られる言葉と同じ最高の褒め言葉。評価基準に収まる人は本当の意味でトップではないのかもしれません。既存の評価基準では評価できないほど飛び抜けているからこそ、ナンバーワンなのです。そして、そのナンバーワンとは、その分野の既成概念を壊し、新たな枠組みを作ったという意味において、その分野の発展に多大な貢献をして新しい時代を切り開いたということを意味するんだと思います。

 だから、たぶん去年の小山シェフの参加によって、今年からもっと厳しい評価基準ができてしまい、去年と同じ内容でも、去年と今年では評価(タブレットの数)がかわってしまうかもしれませんね。参加するショコラティエにとっては、厳しい話ですが、このようにして品評会全体のレベルが上がってゆくのでしょうし、そうやって品評会のレベルが上がってゆくからこそ、消費者のレベルが上がってゆくのだそうです。食に関する責任感が違いますね。(余談ですが、日本人でしかも初参加の小山シェフに世界最高賞をあげたこの品評会の人たちは本当にすごいと思います。権威とか歴史ではなく、純粋にチョコレートの味を正しく評価してきたからこそ、この品評会が社会的に信用されてきたのでしょうね。)

 評価基準までも変えたこの受賞はまさに、「この時、歴史は変わった」出来事だと思います。最近小山シェフは日本の洋菓子業界の歴史についてよくお話をしてくれます。それは時代時代によって、洋菓子が社会に対する役割があり、それによって洋菓子業界の担い手が移り変わってきたという話です。ゆっくりといろいろなことが積み重なって、大きな流れを形成し、その先端が今という時代だということ。
「前に生み出されたものがあったからこそ、次がある。それが少しずつ積み重なってそれが大きな流れができてきたんだと思う。自分は神戸の洋菓子店で修行することで、その洋菓子業界の大きな流れの真ん中にいてそれをずっと感じることができた。そして、その先端である今という時代に、先人に感謝しながら、洋菓子を作るものとして何を生み出してゆかなければいけないか」、ということが小山シェフの考えの根底にあるようです。義務的な意味ではなく、その流れの中で今自分の果たす役割、つまりこれって、多分、世界一になってしまった人の使命感、いや、責任感から来るものなのでしょうかね。(いや、世界一になる前から、小山シェフはそう考えていましたけど。)
 この日記の下書きを読んだシェフは、「そんなに大層な書き方したら恥ずかしいな。」と照れていました。
「(今回の日記は)褒めすぎや。たまたま、俺が今という時代を生きて、たまたま受賞できただけなんや。俺じゃなくても、日本のもの作りの魂を受け継いだ人間ならみんな海外で高い評価を受けるはず。こんな言い方をすると謙遜しているように聞こえるかもしれないが、でもそれは本当にそう思う。この授賞式で感じたことは、自分は日本人に生まれてよかったということ。日本人の丁寧さや美意識を身につけさせてくれた日本という国に感謝したよ。そして、この感性を備えてさせてくれた自分の両親にも。特に毎日丁寧に作ってくれた母の手料理は自分の原点だと思う。
 これからは、もっと日本人のモノ作りの魂の深さや分厚さを感じてゆきたい。今回使った味噌も醤油も番茶も抹茶も先人の知恵と努力の賜物。お店や畑までお伺いして、どうやってそれらが作られているかを知ることは、その魂を感じたかったから。そこから先人達のもの作りにかけた魂を受け継いで、敬意を持ってそれを今のもの作りにつなげてゆきたい。」と。 洋菓子業界全体の枠組みを生み出すリーダーとして今年もたくさんのメッセージをスイーツに乗せて共に生み出してゆくのだと思います。また、業界を超えて、メッセージを伝えてゆくようになることをたくさんの人たちが期待しているとおもいます。

|1|23


更新日12.2.3


vol.30 「マダガスカルに行くぞ」

vol.29 「サプライズのその先」

vol.28 「flow」

vol.27 「目に見えないもの」

vol.26 「バトン」

vol.25 「人を雇うこと」

vol.24 「ホンモノ」

vol.23 〜今年たどり着いた場所〜

vol.22 久住章のトイレット

vol.1〜vol.21まではコチラ