vol.23
〜今年たどり着いた場所〜

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 前の日までかなり荒れた天気が続いていたそうですが、そんなこと、微塵も感じることができない晴天。レンタカー屋さんのおっちゃんが「今日来た人たちはラッキーですよ。」と言ってくれていました。走り出した車の前に広がるのはただ青い空、緑の大地。
「こんな日の北海道は窓を開けて走らんとあかんぞ。」と小山シェフが走り始めた車の窓を開けました。私の子供が大きくなったら、晴れた日のドライブの時にこのセリフ使わせてもらいますね。


空港からレンタカーで走っている途中、「100円きのこ汁」の看板が見えます。 「ちょっとあのきのこ汁の看板のところで止まってくれ。うまいかどうかわからんけど、きのこ汁飲もうか?」 と立ち寄ったきのこ汁屋さんできのこ汁とアスパラガスを食べましたが、マジうまい。やっぱりコヤマシェフといるとうまいものが食べれます。このコヤマシェフの独特のうまいものを見つけるセンサーはその日も感度良好でした。 小腹を満たして、再出発。ニセコにレッツゴー。 柏の森を道の両サイドに見ながら車を走らせます。 助手席にいるコヤマシェフは居眠りしています。 こんな景色だとどんなに運転しても気持ちがいいなあ、なんて上機嫌で運転していると、

飾り棚 さっきまで眠っていたシェフが急に

「おい、ちょっと止まれ。今の何や。」

「え、何かありました?」

「今、『搾りたて牛乳』って書いてあったやろ。今のあそこ、牧場や。ちょっと寄ってくれ。」

と言って車をバックさせると、確かに小さい文字で「搾りたて牛乳」と書いてありました。さっきまで寝てたはずなのに、よくこんな小さい看板が見えたものです。運転していた私は完全スルーしたのに、恐るべし、うまいものセンサー。
中に入ってみると、人影が見当たりません。物置のような建物があり、そこに牛乳と書かれています。たてつけの悪い引き戸を開けると、背後から声をかけられました。

「どうかしましたか?」

「あ、搾りたて牛乳」って看板を見たんで、寄らしてもらいました。」とコヤマシェフ。

「ノンホモですがいいですか?」と牧場主らしき人が確認しながら冷蔵庫を開けています。

「それが飲みたいんです。」と牧場主さんとコヤマシェフの会話のやり時を聞きながら、「なんだこの牛はホモなの。いや、ノンホモだがらホモじゃないよな。ってゆうかホモじゃないのならわざわざそんなこと言わなくてもいいやん。」なんてわけのわからないことを考えながら、先にシェフが飲み始めるのを確認してから、自分の瓶のふたを開け、蓋を開けたまま飲まずにまず、小山シェフの第一声を待ってみました。

「うまい。これうまいわ。濃いな。おい、見てみろ。」

コヤマシェフがかざした空の牛乳瓶には真ん中の当たりできれいにラインが入っています。

「これが搾りたての証拠や。搾りたてはこうやって分離するんや。この瓶を振ったらバターができるぞ。」と説明してくれました。

そして、

「こうやって思いつきでふらっと立ち寄った場所でこんな美味しい牛乳を飲んだら、何か(新しいメニューを)作りたくなるわ。俺はこういう出会いを大切にしてんねん。こういう感動は(スイーツで)人に伝えたくなるんやな〜。」
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不意にやってきた、コヤマシェフがお客様を感動させる源のヒントにあわててメモを採りました。シェフはたくさんの人を感動させることができる人です。しかし、その反面、コヤマシェフはよく感動します。別になんにでも感動するという意味ではありませんが。感動するアンテナがあるというか力があるというか。変な日本語ですね。「感じる力」という方がいいのかな?それではなんか言葉足らずだな。

 人によってはあの牛乳は「ただの美味しい牛乳」ですが、コヤマシェフはこの青い空のした広がる牧草地の中に悠々と歩く牛、そこを吹き抜けるさわやかな風、ここで呑む搾りたての牛乳。そんな今、ここでしか味わえない雰囲気をまるごと味わう力、感じる力があるのだと思いました。もう少し細かくいうと、なぜ自分がそれに感動したかを分析する力、そして、それが自分だけなのか、これは自分以外の人でも感動することなのか?そういったことを感じることができる力があるように思えます。

飾り棚 そこでめいいっぱい感動し、そして、その感動がコヤマシェフの人を感動させる力となる「エスコヤマの感動の原理」なるものを少し垣間見たような気がしました。北海道から帰ってきたあと、この北海道でのさまざまな感動をもとに、アイスクリームができました。そのアイスクリームには確かに、青い空の下、広がる草原にゆっくりと歩く牛の姿が見える美味しい味がしました。

このあと、ニセコのRAM工房さんに到着。そこで、打ち合わせをして、ベンチとトイレのサインを作ってもらうことにしました。それが出来上がったのが、11月頃。ベンチはエスコヤマの入り口の壁際に設置してあります。「オープン前から並んでいただいているお客様がすこしでも快適過ごせるようにしたいんや」と口すっぱく言われていたコヤマシェフの思いを少しだけ形にできました。また、座ってみてください。おもしろいですよ。 飾り棚


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更新日09.12.31


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vol.29 「サプライズのその先」

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vol.27 「目に見えないもの」

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vol.22 久住章のトイレット

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