vol.22
久住章のトイレット

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 トイレの工事はとても勉強になることばかりでした。久住さんは毎日とても面白い話をしてくれます。そして、久住さんの仕事の流儀を近くで拝見させて、幾度感動したことか。こんなに短期間にこんなに勉強できたのは本当に久住さんのおかげです。しかし、反面、久住さんの近くにいると、いかに自分が小さい人間か、自分はなんて低い次元をうろうろしているかがよくわかります。そして、その感情は久住さんを知れば知るほど、学んだものの副産物としてどんどん積み重なっていき、ある時、それがピークに達して、自分の脳みそがパニック状態になってきました。もうそろそろ、建物が体をなしてきて、そろそろ庭のプランを最終的につめていかなくなった丁度そんな時に。

夜中まで続く  「ヤバイ、(このトイレのお庭を作ることが)なんか怖くなってきた。僕はこの久住さんと一緒に仕事をするレベルの人間なのか?もしかして、僕が作った庭がこのトイレを台無しにするんじゃないか?」
そんなことがちらちら脳裏をよぎってきました。そんなネガティブな発想を振り払おうと無理からプランを書くものの、さっぱり駄目。しかし、「もう時間ないし、とりあえず、プランを書ききろう。」と力を振り絞ってとにかく3パターンのプランを書いてコヤマシェフのもとへ。

 しかし、「今回のプランは全く自信なし。作り手が自信のないプランを喜んでくれるような相手ではないことは百も承知。おそらく、コヤマシェフに木っ端微塵に切られてしまうだろう。精神的にぼこぼこになるまでめった切りにされるやろなぁ。」でも、心のどこかで、怒られてでも、シェフにエネルギーや発想をもらわないと今のパニック庭師ではいいものは出来ないことを感じていました。
 重い足を引きずりながらコヤマシェフのオフィスに到着。
 とうとう来た。さあ、覚悟を決めてプランを見せると、案の定、シェフは浮かない顔をしてぼんやり私のプランに目を通しています。
 「はっきり言ってやって下さい。」と心の中でつぶやくと、
 「なあ、まっちゃん。そんなに力いれんなや。もう少し力抜いてみろよ。」
とプランを見ながらびっくりするぐらい優しい声で言葉をかけてくれました。
 久住さんとの仕事の中でいつの間にか、「この人に認められたい」、とか「負けてられない。」など若い若い単純な発想で、自分の力以上のものをつくろうと必死になりすぎていていました。まさに久住章の呪縛です。っていうか、私が勝手に力んでいただけですが・・・・恥ずかしい!!!シェフの言葉を聞いて「自分がかっこ付けるために仕事をしたらあかん。」と心から思えました。また、この日改めて思い出したことがあります。それは、僕はいつもコヤマススムという一流のパティシエと仕事をしています。そして、コヤマシェフを通じてたくさんの一流の人たちと仕事をしてきました。ここパティシエ エス コヤマで、私は自分よりレベルの高い人たちと仕事をするときの心構えはいやというほど学びました。いまさら力んだところでなんにもならないことは経験済みです。コヤマシェフの言葉はそんなことを一気に思い出させてくれるありがたいものでした。
 それから、数日後もう一度プランを持っていきました。今度はなんの迷いもなく。
 今回のお庭の出来は見る人によって異なると思うので、自分ではなんとも説明できませんが、ただ、久住さんからは、「この庭、力あるわ。」そしてコヤマシェフからは、
 「ええやん。」という言葉をいただけました。
 この二人からのこの言葉が聞けたことは個人的にとても嬉かったです。
イタリアンガラスタイル貼り

土間の仕上げ

お庭の工事も終わり、扉の建てつけ、菅原さんの照明も無事北海道から到着し、すべてが終わりました。
  「久住さんお疲れ様でした。ありがとうございました。」と最後の挨拶をしながら、大きな仕事を終えた感慨にふけっていました。すると、
「屋根には植物を乗せられへんの?」
いまさらこの人は何を言い出してくれるんでしょうか。
「いやあ、ちょっと今からじゃあ、難しいかなぁ・・・・・」
と、言いたいところですが、そうも言えません。なぜなら、もし久住さんが庭師なら明日にでも屋根を壊して、植物を植えられるようにするでしょう。
 「ちょっと考えさせてください。」と、とりあえず、その場をしのぎました。
 その日の昼過ぎ、今度はコヤマシェフに仕事の終了の確認をしてもらっていると、
 「毎日俺はこのトイレを見てて一つ気になってたことがあるねん。俺はいつも「Frame」の階段の2階からこのトイレを見てるやろ。そしたら、このトイレの屋根がいっつも目に入ってくんねん。このトイレの屋根から植物が生えてきたらどんなにええやろうなぁ。いつか生えてこえへんかなぁ、って思いながら毎日この屋根を見てんねん。」

仕上がり  とりあえず、私は達成感に浸るのは速すぎたようです。トイレの仕事は終わっていませんでした。口裏を合わせたかのように、同じ日に同じことをこのお二人に言われてしまうと、私にはもう選択肢は残されていません。
かならず、屋根に植物を植えます。近い将来。
しかし、これもコヤマシェフとの仕事ではいつものこと。普通の人は、出来たら終わりでも、物作りの達人たちは、「もっとこうしたら、面白い。」とか、「こういうこともできるかもしれない。」と、常にもっと良くすることを考え、決して、計画通りだからハイ終了、とはいきません。結局、その姿勢があるからこそ、このお二人は常に新しいものを生み出すことができるのでしょうね。








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更新日09.10.05

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