vol.30
「マダガスカルに行くぞ」
8/9ページ

 途中、検問があり、車が止まると、 「あ、カカオの木や。多分、トリニタリオやと思う。」とコヤマシェフ。道端に生えている木を指さしています。突然カカオの木が現れました。そして気がつくと、道の両側はカカオの畑になり、そこからは、行けども行けどもカカオの木。そして、しばらくすると大きなユーカリの木があり、その角を曲がると、大きな鉄製のゲートがあります。

ここが「AKESSON ESTATE」というDOMORI社の方に紹介されたカカオ農園のようです。そこには守衛さんのいる事務所があり、いったん車を止められて守衛さんが出てきてなにやら話をしています。しばらくすると中に案内されました。こんなに田舎なのに、意外と警備は厳しいのです。それもそのはず、このカカオ農場のカカオは高級食材。昔、カカオを狙った強盗が相次いだそうです。この農場は一般人がくるような場所でもなければ、ましてや観光客などくるはずがありません。地図にも載っていませんし。我々のことは、ドモリ社からの紹介だったため農場に入れてくれましたが、そこで働く人たち以外は地元の人でもこの中に入れないそうです。
ちなみにバニラ工場も訪れたのですが、バニラ工場は高いコンクリートの壁に有刺鉄線まで付いて警固していました。

やっとカカオ農園に到着。

 念願のカカオ農園です。農場長のような人が我々を案内してくれました。車に乗り込み、早速カカオ畑に車で向かいます。

畑の広さはおよそ600ヘクタールあります。(おおよそ東京ドーム128個分の広さ)歩いて移動するような広さではありません。悪路をゆっくり進むと、そこにはたくさんのカカオの木がありました。やっと本物のカカオとご対面です。私はカカオを植物園でしか見たことがありませんでしたので本物は初めてなのですが、なんとも不思議な実の成り方をする植物です。写真で見ていただいたらわかると思いますが、カカオの実が直接幹に成ります。つまり、幹に花が咲くということです。しかも、実なりが良いため、たくさんのカカオが幹にボンドでくっ付けたように成っています。本当に不思議な景色ですね。しかも、驚いたのは、熟れたカカオの実はとてもおいしいのです。種の周りの白い部分を食べるのですが、とてもフルーティー。コヤマシェフ曰く

「マンゴスチンとライチを足して2で割ったような味」です。

 早速撮影を開始。いやその前に、大量の虫除けを体中に振りかけます。手首に巻いた虫除けをonにして、そして、蚊取り線香を炊いて、車から出ます。忘れてはならないのが、マダガスカルはマラリアの危険がある国です。我々が訪れた時期はマダガスカルでは乾期にあたるため比較的蚊は少ない時期でしたが、一度マラリアにかかると命の危険もあります。写真家の石丸さんもかつてここまで緊張感のある撮影をしたことはない、と後日談として教えてくれました。ファインダーを覗いてカメラを構えると蚊がよってきます。そうすると、どうしても集中できません。 「マダガスカルのカカオ農園に来て、カカオの撮影が出来ることはカメラマンとして本当に幸せですよ。蚊に刺されて死んでも、ここでカカオの撮影ができらた本望だとおもいました。」と語っておられましたが、腹が据わるとここでの撮影はやりがいに満ちていたようです。

撮った写真にもそれはしっかり表現されていたように思います。コヤマシェフと石丸さんの撮影に対する熱意を感じ取ったのか、カカオ農園の園長さんや周りにいた方々の対応が明らかにかわってきました。

おそらく、初めは我々のことをただここに来たってことが自慢したいお金持ちのショコラティエ御一行様ぐらいに思っていたんだと思います。しかし、我々撮影姿にカカオに対する情熱を感じ取ってくれたのだと思います。
園長さんが指示して、熟れたカカオを持ってきてくれました。「こっちに熟れたカカオがあるから、これを撮ったらどうだ」、と言わんばかりに、我々に向かって熟れたカカオの場所を指差しています。さっきまで退屈そうにしていた取り巻きの人たちも畑に散らばって、おのおのが熟れたカカオをもって戻って来て「これはクリオロだ。」「これはトリニタリオだ。」と説明してくれました。

 もしかしたら、ヨーロッパのショコラティエの方々もこの農場には訪れたことがあるかもしれません。しかし、写真家まで連れてきて、これほど長く農園にとどまってカカオ畑や、カカオの発酵や乾燥の工程、そこで働く人々やその人たちの生活までも注目して、撮影していった人たちはかつていなかったでしょう。

結局、半日がかりで三種類のカカオの木を撮影し続けて、農園の撮影を終了しました。しかし、もう一度、ここの朝の光でカカオの撮影したいということで、急遽、この農園の近くで一泊して、次の日の早朝にまたこの農園にお伺いすることにしました。ちなみに、この日泊まったホテルはお湯が出ませんでした。しかも、エアコンは別料金で別料金を払っても結局冷たい空気は出てきませんでした。トイレには便器はあるのですが、便座はなく、もしかしたら便座も別用金だったのかもしれません。

アフリカの日差しは独特の強さがあります。光にものを浄化するようなピュアな光。そして土はドライで荒々しい赤土。この雰囲気を写真で表現したい、と石丸さんがお話されていましたが、翌朝撮影されたカカオの写真はこのマダガスカルの光、そして、カカオの木の根を支えている大地の土の香り、そして、澄んだ空気を感じることが出来る印象的な写真だと思います。その写真の説明をするのは無粋でしょう。そんな写真は次に出るコヤマシェフのチョコレートの本でご覧ください。マダガスカルの大地の息遣いを感じることができると思います。

 今回の撮影はとても収穫が多いものになったと思います。現地を訪れることで見えてくる本物のカカオとその周辺。カカオの木は太陽の直射を嫌います。だから、小さい苗の時は背の高いバナナの木の間に植え、バナナの木陰で成長します。その時、カカオ苗と同時にイチジクの仲間の木の苗も一緒に植えるのです。このイチジクの仲間の木はとても成長が早く、背も10mを優に超えて大きく枝を張って成長します。カカオの木がバナナの木を追い越しても、次はこの木がカカオに木陰を作ってくれるのです。生態系を利用した農業方法です。それに加え、たくさんの人々がこのカカオの木を守っています。この農場では600人ほどが働いていますが、そのほとんどが畑の中で暮らしています。カカオ農園に訪れるまでそんなこと、想像すらしませんでした。農園には小さな集落が点在しており、そこで牛や鶏を飼いながら生活をしています。

 一般的にカカオはプランテーションで働く原住民の賃金はとても安いと言われていますし、人間的な生活を保証されていない場合もあるそうです。子供たちは小学校を卒業するとそのプランテーションで働くので、決して、いいイメージを持っている人は少ないと思います。私もその一人でした。しかし、いざ現地を訪れると印象はかなり違いました。彼らはとても生き生きしていました。村では小さい子供達も家事を手伝っていました。見ようによっては、子供がかわいそうにも思う人もいるかと思いますが、学校ではなく、そこでしか学べないこともたくさんあるのだと感じたのが正直な感想です。これこそ、人間としてまず学ばなければならないモノなんじゃないだろうか、と感じました。それは簡単にいうと生きる力のようなものです。子供達は皆、一様にたくましかったです。今の日本の教育ではそんな生きる力を子供たち教えてくれませんが、かつて日本人はそれを持っていたのだと思います。それは多分、共同体の中でのみ育まれる力。たくさんの世代人たちが一緒に暮らすから学べること。そんなものがマダガスカルのカカオ農園にある農村には確実にあるように思えました。人と人とのつながりを感じる集落。関わりあって、助け合って生きる生き方。みんなで生きている、という感じです。日本が発展する途中に失った生き方かもしれません。どっちが良いかわは、人それぞれの感性だとおもいますが、この村では日本の様に自殺するような子供がいるとは思えません。

 正直ほっとしました。たくさんの人たちの犠牲のもとに嗜好品であるカカオが存在している現実を間のあたりにしたら、それとどう向き合えばいいのか、と考えていましたが、その心配は先進国に住む人間のおごりだと思いました。そこには我々が今の行き過ぎた生活を顧みるためのたくさん出会いがありました。 「幸せってなんだろう?」 思わずそんなことを考えさせられたカカオ農園でした。

Prev Next
1234567 |8 |9


更新日12.10.16


アシスタントスタッフを募集しております!
現在、エスコヤマのお庭を担当して下さっている庭師M(松下裕崇さま)の
アシスタントスタッフを募集しております!
ご興味のある方は下記の連絡先までお問い合わせくださいませ。

090-8520-8640(庭師:松下裕崇)



vol.30 「マダガスカルに行くぞ」

vol.29 「サプライズのその先」

vol.28 「flow」

vol.27 「目に見えないもの」

vol.26 「バトン」

vol.25 「人を雇うこと」

vol.24 「ホンモノ」

vol.23 〜今年たどり着いた場所〜

vol.22 久住章のトイレット

vol.1〜vol.21まではコチラ