いよいよ、nomaへ入店!
入口にはスタッフがずらりと並んで「ハロー!」「こんにちは!」と元気に迎えてくれます。
キッチンはガラス張りになっていて、私達の席からは中の動きもよく見えます。
時折、ライブ前のアーティスト達のように、スタッフの方々が一言ずつ何か発言し、他のスタッフが “Ja(ヤー)!“(はい!)と元気に答えているのが聞こえてきて、テンションが上がります。
一番乗りで入った店内も、あっという間に満席になりました。
北欧らしく洗練されたインテリアですが、木のテーブルにはテーブルクロスもかかっておらずカジュアルな雰囲気です。椅子は、デンマークのデザイナー、ウェグナーのものでしょうか。
「写真を撮ってもいいですか?」と聞くと「どんどん、じゃんじゃん撮ってください!」と答えて下さり、緊張もほぐれました。
一品一品、使っている食材などについて丁寧に説明してくださいます。
私たちのテーブルには主にオーストラリア出身の女性スタッフ(ニセコで働いていたことがあるそうで、日本語が話せました)や、アメリカ出身のパティシエの方(小山シェフにご挨拶に来られました)、ソムリエの兼子さんと、キッチンスタッフの高橋さんがついてくださいました。
去年の研修旅行でバスク地方を訪れた際に、小山シェフに「ムガリッツ」というレストランに連れて行っていただきました。ムガリッツも「エルブジ」のような不思議なお料理が多く、「これは何からできているんだろう?」と考えるのがとても楽しかったです。その時に、小山シェフが「豚の脂を使っています」と説明されたものを一口食べ、「普通の豚じゃなくて、イベリコ豚とか、そういう種類の豚じゃないか?」と尋ねられると、まさにその通りだった、ということがありました。シェフの舌では、そこまでの精度で食材が分解されてわかるんだなあ…と、驚いたことを思い出しました。今回も、そんな分析をうかがうことも楽しみの一つです。
ご存知の方も多いかと思いますが、nomaでは、食材・調味料にいたるまで徹底して北欧産のものが使われています。なぜなら、このレストランは2004年に掲げられた10箇条から成る「新北欧料理(ニュー・ノルディック・キュイジーヌ)のためのマニフェスト」に基づいて作られており、マニフェスト中ではっきりと「素材は北欧の地で育った個性ある食材をベースに料理する」「自給自足されたローカル食材を、高品質な地方産品に結び付ける」と述べられているためです。
にも関わらず(?)この日いただいたお料理の中で、小山シェフの今年の新作ショコラの素材と全く同じ組み合わせのものがありました!(正解を発表できるのは今年の秋以降になりますが、どの素材の組合せなのか、考えながらお読みくださいませ!)
もちろん、打ち合わせたわけでも連絡を取り合っているわけでもなく、住んでいる場所も食べているものも違う二人のシェフが全く同じアイデアにたどり着く、シンクロするというのがとても不思議です。ただ、その「マニフェスト」は、小山シェフがものづくりをされる上で、大事にされている事とも通じているのではないか、と思うところが多くありました。
また普段の仕事中、小山シェフの、食や食材に対する純粋な好奇心、探求心には圧倒されることも多いですが、レネシェフのブログやtwitterなどを見ていても、同じように食材に対する好奇心、とても柔軟な感性をお持ちなのでは、と思います。このお二人のアイデアが重なるのも偶然のようで、偶然ではないのかもしれないな、とも思いました。
ここからは、かなり長くなりますが、いただいたお料理をご紹介していきます。
まずはシャンパーニュで乾杯。お昼間ですが、キャンドルの光がちょうど映えるくらいの明るさです。
一皿目。
クロスの上にスープが入っているのかな?と思って見ていると、「発酵した梅のジュースのディスクです」との説明。ホワイトカラント(白スグリ)のジュースにつけてバラの花びらを発酵させているとのこと。
他に、フェンネルの種、梅の種の中身(仁)などが散りばめられています。
手に取って、パリパリかじっていただきます。爽やかな梅の酸味が効いていて、ほのかに甘みもあります。
シェフも「美味しい。食欲のスイッチを入れてくれるな」とおっしゃっていました。
スウェーデン・オーランドのライ麦から作られたパンと、「バージンバター」です。
スタッフの方には「妊娠したことのない牝牛から搾った牛乳で作られています」と教えていただき、
「へえ、そうなのか…」と納得していましたが、よく考えてみると、仔牛のいない牝牛からミルクが出るわけはないですよね。真顔で冗談を交えてくるスタッフの皆さん、お茶目です!
帰国してから調べてみると、「スウェーデンで作られるバター。よく発酵されたクリームを用い、バターの顆粒が少しでき始めたらすぐに撹拌を止める。一般的なバターでは全て取り除くバターミルク(クリームからバターを作った後に残る液体)を全て残す。バターミルクには旨味と、新鮮な酸味があるためだ。そのため、“バージンバター”には、際立った風味と、少しざらざらとしたテクスチャーという特徴がある。ただし、日持ちしないため、アメリカなどの遠方には輸出が難しい」とありました。また、バターの風味を決定するのは、バクテリアの働きなのだそうです。北欧には美味しいバターを作るバクテリアがいるようです。
短冊に切ったアスパラに、何日もかけて柔らかく煮た昆布が載っています。その上に、松の新芽が一つずつ置かれています。スープの部分はホワイトカラントのジュースです。とてもフレッシュな優しい味でした。
昆布が出てくるのは、日本で得たインスピレーションもあったのかもな、と考えましたが、“umami”が世界的にも注目を集めている今、特に驚くことではなく、自然なことなのかもしれません。
「ラムソン」(野生のチャイブの一種)など、デンマークの野に生えている季節の新芽を摘んできたもの。
一部はバーベキューにして、一部は生のまま、並べられています。
お皿にはキャラメリゼしたホタテのペーストが薄く塗ってあり、それをつけながら食べます。
初め、私は一種類ずつつまんで食べていたのですが、それよりもバーベキューしたものと生のものを何種類も混ぜて口に入れた方が美味しかったです。お店から車で20~30分ほどの森の中で摘んでくるそうです。
凝乳(フレッシュチーズのようなもの)と、ガーリックの芽のコンポートです。
塩を使わずに旨味を出すために、麹を用い、レモンバーベナと、バッタを発酵させたエキスを使った醤油のような調味料を使っているとおっしゃっていました。
バッタ?!と騒ぐ私達に、兼子さんは「バッタがそのまま入っているわけではないですよ」と笑いながら説明してくださいました。バッタはプロテインが豊富なので、旨味もたっぷりなのだとか。
レモンバーベナの爽やかな風味が少しアジアっぽいテイストで、美味しい美味しい、と皆あっという間に食べ終わりました。虫を食べる、ということについて、小山シェフが「昔、田舎のおじいちゃんがカミキリムシの幼虫を食べてたんやけど、やっぱりそれって木をダメにされるという腹立たしさもあってのことじゃないかと思う。食べること、食文化って、そういう“憎いから食べる”って部分もあるんちゃうかな。」とおっしゃいました。
私の父の田舎でも蜂の子を炭焼きにして食べたりするのですが、それも「木をだめにされて、憎い」から食べているという面があるのかもしれません。これまでは「嫌、気持ち悪い!」と思って食べたこともありませんでしたが、少し考え方が変わりました。(とはいってもやはりあのままの姿では食べられないと思いますが…)。
丸ごとバーベキューにして、中身だけ取り出した玉ねぎです。レモンタイムの葉とくるみオイルと共に。
くるみのタルトです。タルトの部分はベースに昆布を使っていて、パセリのペーストが塗ってありました。
くるみは、キッチンスタッフの方がペティナイフで一つずつむいているそうです…!
この辺りはサクサクといただきました。
こちらのお皿は、スフレを作るときのように、テーブルごとにタイミングを合わせて焼き上げるそうです。
白樺の枝の下に、オニオンクレスという葉に包まれ、ローストされた小さな新じゃがが入っていて、
白樺の枝でじゃがいもを突き刺し、サワークリームのようなソースを付けていただきます。
ちょうど塩包み焼きのような感じで、土のように見えるのがイーストです。
塩だけでなくイーストがあることで味に丸みがあるように感じました。
食べているのを遠くから見ると、枝を食べているように見えるのが楽しい一品です。
白樺は、実をつける頃になるとえぐみが出るそうですが、フレッシュな若芽は美味しいとのことで
じゃがいもを食べ終わった後は、葉っぱもきれいにいただきました。北欧では、白樺のバスケットなどをよく見かけますし、キシリトールなどもあるので、やはり身近な樹なのだなあと思いました。
また、お料理に合わせてワインをいただいていたのですが、「これにはビールが本当にぴったりですから」とビールも持って来てくださいました。
生海老のラビオリ仕立てです。ラビオリにあたる部分は、ラムソンの葉っぱで作られています。
ソースは、ローストしたイーストとのことでした。
マホガニーハマグリという、ノルウェーの北の方で採られる120歳くらいの貝と、麦などの穀物を合わせた一皿です。この貝の年輪(?)を数えると120本くらいあるはずです。
ふちにつけられた緑のパウダーは、先ほどマーケットで食べて美味しかった「アッケシソウ」のパウダーでした!
出汁入れ後、スモークして冷凍したアンキモをカンナみたいなものでうすく削ってあります。シャリシャリしていて、口の中の温度で溶けていきます。
「一週間ほど前からちょうど旬を迎えた」というホワイトアスパラのスライスに、
カシスとエルダーフラワーの葉を合わせています。黒い粒は大麦です。
これは味がくっきりとしていて美味しかったです。
次は、2段階で楽しめるお皿”Lobster and nasturtium”です。
まず1段階目。
「ロブスターの腕の部分の身を団子状にし、スチームにかけます。
ずっと見ていたら、ある一瞬に、“ジュ”(肉汁)が出てくる瞬間があるんですよ。それを集めたスープです」と兼子さん。小山シェフも「ずっと見てると!!ああ、でもわかるわかる!」と笑っています。
スープがこの器いっぱいになるまで、どれくらい“ずっと”見ているんだろう、と思いながらいただきました。
上に浮いているのはオクサリスという葉で、日本名では「カタバミ」。日常的に見かける葉ですね。
中島さんも言っていましたが、これくらいから段々、野菜などではない葉っぱを食べるのが普通に思えてきました。
そして第2段階目。
ロブスターのしっぽの部分です。
ナスタチウムという少しぴりっとする葉っぱが上に置かれ、身の下には、ロブスターの味噌(ロブスターブレイン)で作ったボロネーゼのようなものが敷いてあります。
本来、ロブスターは7・8月がシーズンと言われていましたが、レネシェフが食べてみると今のシーズンのロブスターが甘くておいしかったので、この時期に出すことにしたのだそうです。「旬だから」というだけでなく、自分の舌で味を確かめて決めている、というのもやはり「美味しいものしか出さない」という気概の表れだろうと感じました。
「ダンゴウオ」という魚の身と、ソテーしたダンゴウオの卵をミルクで作った皮で包み、こんがりと焼いています。
そして、ついに蟻の登場です!
こちらは、noma東京でも出されていた一品のようです。
地道に黒にんにくの皮をむき、ペーストにして乾かし、折り紙のようにひだをつけ、ひたすら折っていきます。
レモンタイムの葉とカシスのペーストを少し塗ってあります。そして、裏側に、酸味を出すために蟻がついています。葉っぱに見立てられた部分はグミのような食感で、あまり蟻を感じることは出来ませんでした。
nomaで蟻やバッタを使うのは、何も「ゲテモノ料理」を楽しむためではありません。
寒い北欧では、柑橘類は育たなかったため、酸味を出すのに蟻を用いている、ということです。
(蟻は攻撃されると、“蟻酸”を出すので、酸味があります)
また、発酵食品や保存食品を多く用いるのも、厳しい自然の北欧の伝統に則っているから、という側面もあるようです。
「蟻、あまりわからなかったなあ」と思っていると、小山シェフが「蟻だけ皿に盛って出してもらえる?」と頼んでくださいました。
思い切って一匹つまんで口に入れると、かなりしっかりとした酸味があります。レモンなどの柑橘と比べるとまろやかな気がしました。本当にスパイスの一種、という感じです。
蟻はどうやって捕まえるんですか?と聞いてみると、白いタオルやクロスなどを地面に敷いておくとのぼってくるので、それをえいっとふるって集めます。とのことでした。
「この酸味はミルクチョコレートと合うな」と小山シェフ。先ほど買ったチョコレートに蟻を載せて食べてみたりして、楽しみました。外国人のスタッフの方も私たちの様子を覗いて「オー、アリちゃん。イイネ!」と声を掛けてくれました。
そして、メインディッシュ。
牛の骨髄のスモークバーベキューです。タコスのように、ゆでたキャベツで巻いて、緑のソースにつけていただきます。牛の骨髄は、生まれて初めて食べましたが、トロトロしていてゼリーのような食感です。コラーゲンの塊、という感じでしょうか。
カシスの芽、エルダーフラワー、デンマークのたんぽぽ、さくらんぼを1年漬け込んだピクルス(お漬物)。
どれもデンマークではとても馴染の深い植物だそうです。
デザートです。ルバーブのコンポートと、羊のミルクのヨーグルト。野生のバラの根っこから作ったオイルと、オクサリスを合わせています。
デザート二品目は、豆腐にも見えるアイスクリーム。
Gammel Danskという、デンマークのビターリキュール(29種類のハーブやスパイスから抽出したエキスが原料の、38度のお酒)が使われています。地元では、おばあさんが飲んでいるようなイメージのお酒だそうです。皆、お腹いっぱいでしたが、冷たさと、口に入れるとすっと消える、ものすごく軽い食感、ヘーゼルナッツのザクザク感であっさりといただけました。
トナカイ苔(トナカイが食べている苔)やセップ茸、カシスの葉などにチョコレートをコーティングしたお菓子と、エッグノッグのリキュール。
アルコールに漬け込んだ洋梨。奈良漬くらいに深く漬かっていて、噛めば噛むほどお酒がまわります。 全20品のランチメニューがこれで終了です!
ハーブティーをいただきながらゆっくりしていると、「キッチンをご案内しましょうか?」との嬉しいお声掛けをいただきました。