パティシエ エスコヤマ研修旅行

  • HOME

es koyama IN FRANCE 2015

Vol.14 5日目 MOFショコラティエ フランク・ケストナー氏ラボ訪問レポート WRITER:井田 大嗣

5日目の研修レポートを担当させて頂きます、管理本部の井田と申します。
僕が担当させて頂くのは、ロレーヌ地方のサルグミーヌにお店を構えるM.O.Fショコラティエのフランク・ケストナー氏のラボ訪問レポートです。
毎年、パリのサロン・デュ・ショコラではブースが近いケストナー氏ですが、今回の研修旅行という貴重な機会に一部のスタッフの熱いリクエストにより今回のツアーは実現しました。小山シェフ、今回もありがとうございました!

まずロレーヌ地方について簡単に説明したいと思いますが、日本でも耳に馴染みの深いアルザス地方と同じく、ドイツに隣接している地域圏になります。アルザスは、皆さんもご存知のピエール・エルメ氏の出身地でもあるストラスブールという有名な町があり、アルザスもロレーヌも伝統菓子が多く残る地域でもあります。今回訪問したロレーヌ地方は、フランス北東部に位置し、ベルギー、ルクセンブルクとドイツの3つの国に隣接しています。ロレーヌ地方は、ジャンヌ・ダルクの生まれたドンレミ村や、高価で素敵なクリスタルで有名な小さな村バカラなどが有名です。
一度は聞いたことがあるでしょうか?キッシュ・ロレーヌもここが発祥です。
あくまでも豆知識程度のお話しですが、、、キッシュの語源はドイツ語のクーヘン(ケーキ)と言われています。(バウムクーヘンでおなじみの)ケーキを意味するドイツ語のクーヘン(kuchen)が、ロレーヌ語のキューシュ(küechen)となり、そしてフランス語でキッシュ(quiche)となったそうです。今回訪れたケストナー氏はそのロレーヌの中でも特にドイツ国境に面している町、サルグミーヌにありました。

朝6時38分、パリ東駅(GARE DE L’EST)発の電車に乗り込み、Metz(メス)駅を目指します。メスはかつて炭鉱が盛んだった町として有名です。

肌寒さが残る早朝、皆でスターバックスの開店待ちをし、皆コーヒーを購入。
写真には、ぎりぎりまで並んだお陰で朝からダッシュでTGVの載り口に向かうコーディネーターの平野さんの後姿がありました。フランスでスターバックスでオーダーするとカップに名前を書いてくださいますが、やはり日本人の名前が聞き取りにくいのか、スペルが無茶苦茶なのが印象的でした(笑)

2時間半かけてMetz(メス)駅に到着しました。ここから、ミニバスでサルグミーヌまで向かいます。
行く途中には、メスで有名なM.O.Fパティシエ フランク・フレッソン氏のショップを見学。沢山のお菓子を買って食べました。
フランク・フレッソン氏もパリのサロン・デュ・ショコラでは毎年小山シェフのショコラを試食しにきてくださいます。

フランク・フレッソン氏は、初めはパン屋を営んでいたお祖父様から続く代々のパティスリー一家で、4代目にあたるようです。
基本的に店内の写真はNGでしたので購入したお菓子とお店の外観だけになりますが、ショコラ・プティガトー・アントルメ・ヴィエノワズリー・グラス・ケークなど、お菓子はとても量、品数共に充実していました。日本ではフレッソン氏の生ケーキは食べることはできません。 フレッソン氏のお店を後にし、いよいよフランク・ケストナー氏のラボとショップが併設されているサルグミーヌへ移動します。
かなりの大きさに驚きました。外観もモダンです。

中に入ると早速ケストナー氏が温かく歓迎してくださいました。
ケストナー氏も代々続くパティスリーの継承者で、3代目にあたるようです。現在は、このショップの他にパリに1店舗、ドイツのザールブリュッケンに1店舗の合計3店舗を経営されています。パリのメゾン・デュ・ショコラでも修行され、2003年若干28歳でショコラティエM.O.Fとしては史上最年少で称号を手にされた方です。
ここで、フランス国家最優秀職人章M.O.Fにも改めて触れさせて頂きます。フランス国家最優秀職人章(Meilleur Ouvrier de France、M.O.F)はフランス文化の最も優れた継承者たるにふさわしい高度な技術を持つ職人に授与される称号で、その名誉は日本の「人間国宝」に相当するものと言われています。料理人やパティシエ、ブーランジェなどの製菓・製パン部門に限らず、宝飾品、工芸品、ガーデニングなど幅広く、その数は約180職種にも及びます。一番有名なのは料理で、これまでにも日本でも著名なポール・ボキューズ氏やジョエル・ロブション氏などの料理人が名を連ねています。M.O.F.のコンクールは3年に一度開催され、合格者にはフランス大統領より、大統領官邸であるエリゼ宮にてM.O.F.のメダルが授与され、トリコロールカラーの襟のコックコートの着用が唯一認められるというものです。
総勢約7000人もの受章者がいる中で、ショコラティエのM.O.Fは現在たったの19名のみ。最近の受章者では、この研修旅行で訪れたフレデリック・アヴェッカー氏がいます。一昨年に訪れた小山シェフの親友ブルーノ・ル・デルフ氏もその一人です。

続いてラボの見学です。
600㎡のラボはショップも併設されながら、ラボスペース、ストックスペースが非常に広く、スタッフの労働環境や、作業効率を優先する為にここまで拡張されたとのこと。労働時間が厳しいフランスならではの考え方でもあります。そういったことから時間短縮、効率化の為に開発された製菓器具も多く、日本のプロフェッショナルの世界で愛用されているムースなどを冷凍する際に使用されるシリコン型などがフランス発祥なのはうなづけるところです。これだけのスペースに対して働いている職人は10人。思った以上に少ないです。
ケストナー氏のラボには機械も多いです。

これは最新のマシーンの一つ、ワンショットデポです。外側にコーティングするチョコレートと、センター(中身)を一気に型に対して充填できる機械です。わかりやすい例であげるとすれば、チロルチョコみたいなものを一気に大量に作ることが出来ます。
ケストナー氏のラボでは、この日マカロンのガナッシュの充填に使用されていました。こういった使用方法も可能なようです。

写真にもあるように、「少しずつ仕込んでいきます」と言われるケストナー氏ですが、写真にあるマカロンにしてもボンボンショコラのガナッシュにしても全然少しずつではありません。とにかく驚きの量!!国民のお菓子の消費量もいかに日本と違いがあるかが垣間見えます。ただ量は多くても人の手がまんべんなく加わっており、丁寧に1個ずつお菓子が作られていました。

出来上がった商品の保管についても大変気を配られていました。正しい知識を持つことで、出来立てと変わらない状態で品質を落とすことなくキープできるとのこと。ここのとこをしっかり勉強し続けられている姿勢を見ることが出来たことは非常に刺激になりました。もっと良くしたい、という思いが前提に強くないと出来ないことです。ケストナー氏のお話しを聞いていると、とても実直な方という印象を受けました。そして改めていつまでたっても勉強し続け、身に付けたことを確実に繋げていくことの大切さを思い知りました。

そしてこの日はどこからの情報なのか、日本から小山シェフの訪問を聞きつけて地元のテレビ局も急遽取材に来ていました。かなり大きなテレビ用カメラが現場に潜入しています。小山シェフのロングインタビューもありましたが、こんなところでも小山シェフのモノづくりが注目され、地元のメディアが駆けつけたことにとても驚きました。

インタビューの後は、ケストナー氏から訪問したスタッフ1人1人にプレゼント用までご用意してくださっていました。ケストナー氏のお父様、お母様も駆けつけてくださり、本当に歓迎して頂き感謝します。

ケストナー氏のショコラやマカロンを、地元の名産品であるミラベル(黄梅)のデザートワインと共に頂きました。黄色のダイヤのような形をしているショコラは、お父様がつくったスペシャリテのミラベルのボンボンショコラです。ケストナー氏の新作ベルガモットのショコラもご馳走になりました。

三世代に渡り確実に親から子へ受け継がれるアルチザン魂。今もなおケストナー氏により現代の風を吹き込んだ素晴らしいモノづくりに触れることが出来、僕達スタッフにとっては大満足の訪問となりました。
ラボ見学を終えた後は、ケストナー氏とケストナー氏の広報担当者の方と車で15分くらい走らせたドイツのザールブリュッケンへ移動し、Le Noir Gourmetにてランチを共にし、ケストナー氏のショップも訪問しました。あっという間に国境を超えてしまい、ドイツとの近さに改めて驚きました。この日はツアーコンダクターの蔵本さんの誕生日!ささやかながら御祝いさせて頂きました。

ランチではケストナー氏から様々な質問が。パティシエ仲間からの噂で小山ロールのことや、子供の為のパティスリー 「未来製作所」のことなども既にご存知で、小山シェフのお店をオープンされるまでの話など沢山の話題で盛り上がりました。
エスコヤマのショコラに限らず、スペシャリテである小山ロール、そしてエスコヤマの噂は、海を超えてフランスの地まで届いていることに僕自身嬉しい気持ちでいっぱいになりました。

街並みもドイツとフランスが入り混じった感じの印象です。レストランから歩いてケストナー氏のショップへ向かいました。

ザールブリュッケンのケストナー氏のショップです。テナントの一階にあるお店ですが、外の窓も広く、とてもモダンなお店です。

店内もとても清潔で、お客様から見える場所はどこも綺麗に片付けられていました。 いつも僕たちが小山シェフにも大切しなさい、と言われていることです。どんなお菓子を置いているのか、ということだけではなく、お客様にどう映っているか、という視点で見ると様々な発見があります。
このショップ訪問を最後にこの日の行程は終了です。
普段、個人的な旅行や何気なく行くフランスでは決して行くことの出来ない場所であり、出会えない方々でした。昔からフランス、他ヨーロッパ諸国から、その伝統的な技術や製法を学び、日本人パティシエのパイオニア的存在の方々が日本にヨーロッパの菓子文化を広めてくださいました。そういった流れは当然今もありながらも、お菓子に留まらず日本のモノづくりは今や世界でも素晴らしい評価を頂いています。特に今回のようなフランスにてハイレベルな素晴らしい職人の方々のモノづくりに触れ、見て、食べて、感じて、話まですることが出来ることは、日本にいるだけでは出来ないことです。その一方で、手前味噌ではありますが改めて自国の、自店のモノづくりの素晴らしさ、良さも感じることも出来た、というのが自分自身の本音です。
年に一度、このような研修旅行の機会を頂けるのは、普段エスコヤマを応援してくださるお客様がいらっしゃること。加えてパリのサロン・デュ・ショコラやインターナショナルチョコレートアワーズ等、世界の舞台で小山シェフが活躍し続けて下さるからこそ、僕達スタッフも経験させて頂けることだと思います。昨年の研修旅行に引き続き、日本に帰ってきて思うこと。それは自分達の身の回りにある小山シェフが生み出すお菓子作りをもっと学び、勉強することだと改めて感じます。そして、勉強し続けたことを一つずつ、確実に点と点のように結びつけていくこと。どんなジャンルの仕事でも同じだと思います。どのスタッフもこの研修旅行を通して決意したことだとは思いますが、学んだことをエスコヤマ流にお客様へお返ししていけるよう今後も努めていきたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。