vol.13 レポーター 岸田 仁寿 Masanori Kishida
MOFティエリー・バマスさん、
ピエール・オテイザさんとの食事会
では!山中さんがレポートしたバマスさんの講習会に続いて、キッシュを担当している岸田仁寿が「バマスさん、デモンストレーションの場を提供してくださったピエール・オテイザさんとの食事会」をレポートいたします。
MOFパティシエ・グラシエであるバマスさんの講習会を終えた私たちは、バマスさんのスタッフの皆さん、生ハムを作られているオテイザさんと奥様、スタッフの皆さんと一緒に昼食をいただきました。
ここで、講習会の場所を提供して下さったピエール・オテイザさんのことに少し触れておきます。
「世界一ベレー帽の似合う男!」というだけではありません。
実は、30年前、絶滅の危機にあったフランスの地豚“バスク豚”を保護し、今では7000頭にまで復活させた第一人者というすごい方なのです。その活動を通して、「フランスに貢献した」と評価された人だけに与えられるフランスの最高勲章『レジオンドヌール勲章』を2006年に受賞されているそうです。
では、食事会のお話に戻ります。お部屋へ案内していただくと、テーブルにはすでに3種類のサラミとテリーヌ、そして茹でたホワイトアスパラガスとサラダが用意されていました。
そして、バスク語で『ONGI ETORRI(オンギ・エトゥーリ:バスク語で「ようこそ!」)』と葉っぱで書かれた文字が。
この演出で、私たちは食事の部屋へ案内していただいた瞬間から「これからどんなおもてなしが待っているのだろう?」と期待が膨らみました。ちょっとしたことですが、これがあるのとないのでは大違い!
オテイザさんのスタッフの中には、日本人スタッフの橋本さんという方がいらっしゃいまして、色々と日本語で丁寧に説明してくださいました(レポートを書くに当たってとても助かりました!笑)。
食事がスタートする前に早速教えていただいたのが、壁にあった小さな窓。開けてみると…なんと!!生ハムが吊るしてあったのです!
そして、バマスさん自ら乾杯をしてくださるということで、オテイザさんの奥様やスタッフの方々、
数人のエスコヤマスタッフが皆のグラスにワインを準備。かなり時間がかかってしまい、そろそろ乾杯しようというタイミングになっても、まだひたすらワインを注いでいる新人スタッフがいました。
そこで、小山シェフから『おい!!皆さんも待ってくださってるんやで!』『自分だけが主人公じゃないんやぞ!』と僕たち先輩スタッフもご指摘を受けました。
先輩として手本を見せるべき場面なのに、新人スタッフだけに任せっぱなしで、ただ単にずっと座ってしゃべりながら待っているだけだった自分達に気付き、とても恥ずかしくなりました。
準備が遅れている、急がないと間に合わないぞ、と気付いた時点で、皆で率先して手早く準備し、オテイザさんやバマスさんをお待たせすることなく、「乾杯」ができるように率先して動くべきでした。
「そういった事にも気付けないと美味しいお菓子は作れない」とシェフがおっしゃっていました。
この反省を、帰国後の毎日の仕事の中でも活かし、来年入社する新入社員たちにもしっかりと伝えていきます!
気を取り直して、バマスさんのご発声のもと、「乾杯!」食事がスタートです。
まずは先ほど説明した前菜の3種類のサラミをいただきました。どれも味わい深く、美味しいかったです。少し黒っぽいのは鴨のお肉で出来たサラミです。サラミといえば、豚肉が思い浮かびますが、これもなかなかでした。
橋本さんによると、「地元のバスクの方々も見た目ではどっちが豚肉でどっちが鴨肉なのか分からないが、 食べ慣れているからこそ分かる」のだとか……。ザックリした感じで、なんだか面白いですね(笑)。
これは僕たちパティシエも同じで、いろんな物を食べるからこそ、質の良い素材やフルーツの微妙な味の違いがわかってくるのです。普段から味見をして、味覚を磨いていくことがすごく大事なんだと改めて実感しました。
ホワイトアスパラガスはさくらんぼのソースが掛かっています。さらにキウイソースまたはカリンソ-スをつけて食べると、より一層美味しくいただけると教えていただきました。
僕はキウイソースをつけて食べました。
今まで味わったことのない組み合わせで、意外にもキウイジャムの甘酸っぱさがアクセントになり、ホワイトアスパラガスの風味を引き立てていました。
さらに食事が進むと、鴨肉の中にフォアグラが入ったもので、上に赤ピーマンのジャムをのせて食べるものが出てきました。
鴨肉は少し淡白ですが、柔らかく、フォアグラの濃厚な風味と更に赤ピーマンのジャムの甘さがスゴく合っていました。シェフはこのフォアグラを気に入られた様子で、二切れ三切れと召し上がられていました。
次は、メインの豚のローストと茹でて味付けされじゃがいも。イメージは「肉じゃが」です。
お肉はスゴく柔らかく、ジャガイモもとてもホクホクしていて美味しかったです。
メインが終わるとお次は2種類のチーズ。
この扇状のものがヤギのチーズで、スティック状のものが羊のチーズです。
ヤギのチーズというとクセのある味を想像しますが、橋本さんによると、小さいコイン状に作ると独特のクセが出やすいが、ある程度サイズを大きく作って寝かせるとクセがほとんど消え、食べやすいのだと教えて頂きました。確かに羊のチーズより食べやすく感じました。
ちなみにチーズは、チェリーのコンポートをつけるとより美味しくいただけました。
そして最後に出してくださったのが、待ちに待ったバマスさんのスイーツ!
『いちごとレモンのフィンガービスケット』と『ガトー・バスク ショコラ』です。
フィンガービスケットは、レモンクリームの爽やかな香りと酸味、苺のコンフィの甘味、そしてライムのビスキュイが爽やかですが、ベースになっているレモンのクリスピーのサクサクした食感が何とも言えないほど味や香りと合っていて、酸味がありつつ苺のコンフィの甘味が上手く調和していて、パクパク食べてしまうほど!ついつい「もう1つ!」と言ってしまうほどの組み合せと味のバランスでした。
バマスさんは講習会のとき、「味のバランスを常に考えている」とおっしゃっていたので、「このことか」と自分の舌を通して理解ができました。
もう1つは『ガトー・バスク ショコラ』。『ガトー・バスク』というと、中にカスタードクリームなどを入れて焼き上げた、ソフトクッキーのような生地のバスク地方の素朴な焼き立て菓子です。
今回の講習会で披露して下さったのはショコラの方でしたので、デザートでもこちらをご用意いただきました。生地と中のカスタードクリームにもチョコレートが練り込まれていて、全体はチョコレート色です。
食べてみると、生地がほろ苦く、チョコレートの練り込まれたカスタードクリームが濃厚で、チョコレートをそのまま味わっているような錯覚に陥るほどでした。普段、濃厚なお菓子ほどなかなかパクパクとリズム良く食べられませんが、このガトー・バスク・ショコラは濃厚でありながら、表面のさっくり感と、カスタードでしっとりした食感も楽しく、どんどんフォークが進みます。
食事会の終盤、オテイザさんの所にいらっしゃいます、ローザさんというスゴく楽しくてサービス精神の塊のような女性スタッフの方が、エスコヤマのスタッフや小山シェフに向かって「歌を歌いましょう」とおっしゃいました。僕たちエスコヤマのスタッフも、歌が上手い浅田さんがアカペラで「チューリップ」を披露しました。それが大好評!!食事の会場は、楽しい雰囲気に包まれ、ローザさんも大満足の様子でした!
先ほどご紹介したローザさんは、行動を見ていると自分の事よりも人の事を常に考えていらっしゃるのがすごく伝わってきて、サービス精神がハンパなかったです。カメラを携え、写真を撮られたと思ったら、すぐに印刷して小山シェフとバマスさんにプレゼントしたり、その瞬間瞬間に全力でサービスをされている姿に感動しっぱなしでした。
その姿を見て、日々お客様にサービスを提供している私たちも、もっと主体的に相手のことを考えたサービス、仕事に取り組んでいかなければいけないと心を新たにしました。
オテイザさんの素敵なおもてなしを堪能させていただき、最後まで楽しくお食事が出来て、先輩として改めて勉強しなければいけないことや、味覚の面、サービスの面でも、全てが良い経験になりました。
MOF のバマスさんとの食事会はこれにて終了です。
お次はいよいよ生ハムの工場見学です!