vol.16 レポーター 中川 豊 Yutaka Nakagawa
こんにちは、ショコラ担当の中川 豊です。
5月18日、研修旅行最終日、サン・セバスチャンでの自由行動と、小山シェフに連れていっていただいたレストラン「Mugaritz(ムガリッツ)」でのランチをレポートさせていただきます。
旅行も終盤戦!
この日は連日の胃もたれを解消させるべく、早朝から小山シェフとのランニングに参加し、海岸沿いで一時間弱、いい汗を流しました。
そして午前中はフリータイム!
昨夜のバール巡りで疲れてホテルでゆっくり過ごす人、街に出る人、各自自由に過ごしました。
私はバールが建ち並ぶ旧市街を散策しました。ゆっくり歩いていると
なにやら騒がしい人の声と、POPな音楽・・・
そう!マラソン大会!この日は日曜日で、たまたまマラソン大会が開催されていました♪子供の頃はマラソン嫌いでしたが、こちらはすごく楽しそう!!
ずっと見ていたかったですが、あまり時間がありません。
後ろ髪を引かれる思いで旧市街に入ると、昨夜の賑わいとは打って変わって、日曜日なのでお休みのお店がほとんど。とても静かです。
路地を進んでいくと、とてもいい香りがしてきました。
こちらのパン屋さんが開いていました!
マラソンルートの通りに出ると、近くで蚤の市も開かれていました。
全てハンドメイドの子供服があったり、色とりどりの革ベルト、ガラス雑貨などとてもかわいいものばかりで、新婚の広報の伊藤さんは奥さんにプレゼントを買われていました。上の写真のベルトのディスプレイの仕方もオシャレですよねっ!
集合時間が近づいてきたので、海岸沿いを歩いてホテルに戻りました。
コンチャ海岸には沢山の人達がいました。午前中は潮が引き、遠浅な砂浜があらわになるのです!
12時にはホテルのチェックアウトの時間だったので、もう少し時間があったらなぁ、とも思いましたが、先輩方とご一緒させていただいたお陰で、自分では思ってもみない路地に入ったらパン屋さんがあったり、旧市街を抜けたところで蚤の市を見られたりと、色んなモノに出会えました。
さて!!
フリータイムも終わり、僕の中では今回の旅行のメインイベント、「シェフとのランチタイム」の時間がやってきました!
この日連れて行っていただいたのは、昨夜、里井さん達が訪れた
サン・セバスチャンのエレンテリアにある『Mugaritz(ムガリッツ)』です。
“Restaurant”誌「世界のベストレストラン50」で3位に選ばれたり、人気ウェブサイト ”デイリーミール”の「世界で最も美しいレストランTOP10」に選ばれたこともある、ミシュラン二つ星レストランです。
メンバーは小山シェフ、マネージャー、デザイン室の鏡味さん、広報の千葉さん、ショコラの中島さんと私、中川です。
私は星付きのレストランと聞いて、すごく楽しみな一方で、そういう格式のあるお店に対して厳かなイメージがあり、自分自身がマナー良くお食事が出来るか心配な部分もありました。
海岸沿いのホテルからタクシーで20分程のところに『Mugaritz』はありました。敷地内は生垣で囲まれ、とても自然に溢れていてリラックス出来る空間です。
到着すると、スタッフの方が迎えに出てきてくださいました。
建物に入るのかと思いきや、お庭のテラス席へ案内され、ランチタイムスタート!!
昨夜のオプショナルツアーで里井さん達が訪れた時のメニューと重複する部分がございますが、出てきたお料理全て紹介させていただきます。
先ずはシャンパンで乾杯!
「A dozen smeared radishes」
小さくてかわいいラディッシュながらも、シャキシャキとした食感と、
二十日大根の心地よい苦味と甘味が感じられました。芝のようなものに
載せられて出てきました。
二皿目・三皿目
「Marshmallow sponge with onion and pine nuts」(左)
マシュマロ自体は甘くなかったです。
中には松の実が入っていて、シュワ、カリっと
不思議な食感。
「Sweet white asparagus strings.Black olive gloss」(右)
ホワイトアスパラガスは
私の好きな野菜の一つですが、先が細かく裂かれているのは初めてで、いつもと違ったシャリシャリとした食感。オリーヴと合わさることで、アスパラの甘味が引き立っています。
「Glutinous pesto with chicken concentrate」
こちらはバジルのペーストをもち米の生地でくるんだもの。
手前にあるのはガーリックの花だそうです。香りを嗅ぐと本当に、にんにくの香りがしました!
「Lacquered duck neck with herbs and dry grains」
次に専用の容器に入ってきたのは「ダックネック」と呼ばれるメニュー。
木の器には鴨の絵が彫ってあり、その首の部分にすっぽりと入っています。
鶏の薄皮でハーブを包んでいて、皮の表面には甘辛いタレが塗られ、香ばしい香りと相まって美味でした。
「Vegetable tiles. A handful of Highland grass」
前菜最後はこちらの白いソース(?)
付けるものはというと、一品目のラディッシュの下にいた食用の「芝生」。
ソースを付けると下から土が現れました!!
土付きの芝生を食べているような感覚に陥りました。
小山シェフも「なんじゃこりゃ!」と驚かれていました。
土の正体はカカオを粉末状にしたものでした。
ここで店内に入り、窓際の円卓に着席。するとスタッフの方がいらっしゃり、テーブルの上に無造作に石ころを並べ、キッチンへと戻る。
??????(一同ざわつく)
ディスプレイかな?
「…decadentia..」
こちらはイルと呼ばれるあなごをスモークさせたものと、鮮やかな食用花が散りばめられている一品でした。
また、専用のケースで入ってきたフォークも飴細工で作られたもので、一緒に食べられます!
シェフは、「この料理を、飴のフォークで食べてもらおうという発想力と本物とそっくりの形色合いを出せる技術は素晴らしい。それに、普通の飴だと、手に持つと、溶けてベタベタするけれども、これはわざと砂糖を結晶化させて溶けにくくしているのが面白いな。技術と、そのサービス精神・気配りがすごい!」とおっしゃっていました。
(隣にいる鏡味さんも感動され、スタッフの方にお願いして日本に持ち帰れるように包んでいただいていました。)
「Lukewarm scallop with sour lentil consome」
次に出てきたのは、「レンズ豆と貝柱」
甲殻類ベースのソースが貝柱に良く染み込んでいてすごく美味しかったです。
シェフ曰く、ガストロバックで調理されたものでは?とおっしゃっていました。
この手法は、エスコヤマでもシェフが実験されていた、と先輩から伺ったことがあります。
ガストロバックとは・・・
減圧加熱調理法のこと。容器内を低圧状態にすることで、調味液が食材に浸透しやすくなります。また低圧の状態なので、沸点が下がるため、低い温度の加熱でも調理が可能になります。つまり、食材の色合いや栄養分、旨みを損ないにくく、食材自体の味や香りをストレートに表現する事ができ、また味調味液やお出汁の風味を効果的に浸透させることが出来るため、今までにない組み合わせの味や香りの料理に挑戦できる調理法。
これを食べ終えると、厨房へと案内してくださいました。
この日はアンドニシェフが不在だったため、Dani Lasaさんがお話をしてくださいました。厨房は新しく白を基調とした、清潔感のあるキッチンでした。
写真のメインキッチンには20名程が働かれています。
この他、地下には2ndキッチンがあり、そちらには10名、
2階では5名程で新商品開発を行なうキッチンもあるそうです。エスコヤマも常に、商品開発を行う厨房があるので、一緒だなあと思ってお話をうかがっていました。
小山シェフも、「常に新しいものを生み出し、先頭を走る続けるためには、
商品開発をする部署が必要なんや。」と納得されていました。
さて、席に戻ると…
Tor to lo xakというゲームが用意されていました。
ルールは簡単、袋の中には羊の膝の骨を模したものが2つずつ入っています。
左手・右手の中に好きな個数を隠し、左右、好きな一方を出します。
順番に合計数を予想していき、最後に手を開いて石を置きます。
ピタリと当てた人、または、数が一番近かった人に、ベジタブルキャビアをプレゼント!
…ということで、みんなお互いの顔色を伺いながら思い思いの数字を言っていきます。
結果、勝者はなんと・・・小山シェフ!
さすが、もってる人は違いますね!
フランスパンを乾燥焼きしたようなラスクの上にミルキーで、優しい甘さのクリームが載っています。
シェフは、上のクリームはクロテットクリームに近いとおっしゃっていました。
甘塩っぱさと、軽い食感の生地で美味しくいただきました。
次は自分で作って完成させる料理でした。
「Linking..dip of fried bacon and saffron,combread」
器の中にはポークフィレ、コーン、ガーリック、香辛料が入っていて、すり潰していきます。
細かくなったら、小さな花がぎっしりと詰めて固められた、甲殻類でとられたダシ入りのゼリーを入れます。
器が温かいので、ゼリーが溶け出し、ペースト状になりました。
みんな立ち上がり、一生懸命すりつぶします。
ゼリーを投入。
最後は↑こんな感じになり、パンに付けて食べました。
コーンの香ばしさと豚肉の旨み、にんにくの香り。
自分で作るからか、さらに美味しく感じました。
最初の食材をすり潰すところを丁寧しないと味が薄かったり、香ばしさが弱かったり、作る人によって味がそれぞれ違うものに仕上がるのが面白かったです。
改めて基礎作り、土台作りの重要性を実感したお料理でした。
まだまだ続きます!
「Set peanut praline with crab and squash cream」 カニの身とピーナッツのプディングクリームにパンプキンソースが掛かっていました。
「Hake in white. Milk pearls and asparagus 」
淡い白の一皿。見た目通り、とても優しい味でした。
「ヘイク」というタラに似た魚(メルルーサ)です。
白い粒々はミルクパールと呼ばれるもので、シェフはアルギン酸で固めているんじゃないか?とおっしゃっていました。
ぷにゅぷにゅした食感が絶妙でした。
「Coastal fish and frosted caramel coat」
沿岸でとれる白身魚と上にメレンゲを乾燥させキャラメルコーティングしたもの。口の中で合わさると、甘辛い煮付けのような味わいになりました。
お次はこちら
「Chicken and lobster Catalan cream」
「これは、我々流のクレームカタラーナです。」とスタッフの方が一言。
クレームカタラーナと聞いて、デザート?と思いきや、茶碗蒸しのような優しい味わい。クレームブリュレのように、表面の硬い層をスプーンで割って食べました。
鶏肉とぷりぷりのロブスターが入っていてとても美味しかったです。
「Combining salt-cured flavors: caviar and lard」
こちらは本物のフレッシュキャビアが贅沢に盛られています。ラードのまったりとした旨みと食感キャビアの塩味とプチプチした食感が面白かったです。
先ほど、「ベジタブルキャビア」が出た後に、今度は本物のキャビアが出てくる、というところに遊び心が感じられます。また、スタッフの方は最初「ラード」とだけおっしゃっていたのですが、小山シェフが「これは、バスク豚かイベリコ豚のラードやろ?」と尋ねたところ、その通り、イベリコ豚のラードを使っているとのこと。脂だけで、豚の種類までもシェフは区別をつけられるんだなあ、と本当に驚きました。
「Eucalyptus smoked loin of lamb with its cultivated wool」
ユーカリの葉で燻した子羊のお肉。上には、本当に食べられるの?と心配してしまうような、直訳すると「栽培されたウール」が掛かっています。
燻製されることでラム肉独特の臭みもなくとても食べやすかったです。
しかし、この「ウール」は何だったのでしょうか?
これでメインは終了。デザートの前にスタッフの方から「お天気がいいので、デザートは外のテラスで召し上がるのはどうですか?」という提案が。
満場一致で賛成!!
最初は温かいデザートなので、一品目だけ室内でいただくことになりました。
何かを削る器具でしょうか、二人で共有して使ってくださいとのことでした。
最初にテーブルに置かれた、この石ころを削って…
こちらにふりかけていただきます。
石が置かれたときに、何かあるのかも、とは思っていましたが、まさかの演出は小山シェフでも見破れなかったようです。石の正体はお砂糖でした、中にはシナモンや、アニスといったスパイスが一緒に固めてあり、削ると砂糖と一緒に粉末状になります。
サクサクの衣の中には、カスタードクリームが入っています。
甘党の僕にはたまらない一品でした。
さて、場所を外に移動してデザートで締めくくります。
いったいどんなデザートが出てくるのか楽しみでなりません!
その前に、スタッフの方がお店の名前「Mugaritz」の語源を説明してくださいました。
お庭の中心には、大きな大きな樫の木があります。
葉を広く広げて、心地よい木陰をつくってくれています。
「Mugaritz」の
MUGA…ボーダーライン
RITZ…樫の木
日常から非日常世界へ誘う境界線(ボーダーライン)でありたいという思いで付けられたそうです。その名の通り、本当に楽しく、ゆったりと贅沢な時間を過ごさせていただきました。
デザートは全部で5種類です。
「Chocolate and caramel Cronut」
「Cold milk-white salad.Reduced and coagulated whey.」
「Lemon Succade with our herbs from yesterday and today.」
「Starched handkerchief of fruit and flowers.」
デザートは全部で5種類です。
1品目は、ココアのピストレが掛かったドーナッツ型のチョコレート菓子。
2品目は、ホエイパウダーが掛かったチーズケーキのサラダ。
3品目は、レモンの皮まで食べられるアイス。上にはお庭で採れたハーブ。
4品目は、京都の八ツ橋のような優しい味の求肥菓子。という名前の通り、中には色とりどりの押し花やハーブが入っていました。
また、このデザートは、小山シェフも掲載されたスペインのペイストリー雑誌『so good』12号で、Andoniシェフと共に紹介されていました!
「An almost impossible bite:sugary porra.」
最後はコーヒーと一緒にボンボンショコラが運ばれてきました。
7つの言葉をイメージされたボンボンショコラが一段毎に入っています。
上から、pride(プライド)、envy(嫉妬)、wrath(激怒)、gluttony(大食い)、
greed(強欲)、lust(熱情)、sloth(怠惰)です。
私は、最後のキャラメルクリームの入ったショコラ「なまけもの」が好きでした。「強欲」を開けると中が空っぽだったりと最後まで驚く仕掛けがいっぱいでした。
以上、約20品程度の料理を4時間掛けていただきました。
お腹も胸もいっぱいになりました。
「Mugaritz」の料理はおいしいのはもちろんのこと、本当に人を楽しませてくれます。お砂糖で作られた、フォークや石ころなど本物に似過ぎていて驚きましたし、途中厨房見学に連れて行ってくださったり、ゲームが始まったりと、二つ星レストランでありながら、カジュアルな服装で気さくに楽しめる体験型レストランでした。エスコヤマの社訓も「Sweet Trick」(お菓子でいたずら)です。楽しいいたずらで、皆さんに喜んでいただきたい、その気持ちはMugaritzと共通していると思い、嬉しくなりました。
連れて行ってくださった小山シェフ、貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございます!!
ショコラ製造部に所属して、もうすぐ半年になります。
覚えなければいけないことが山ほどありますが、しっかりと優先順位を考えて、
瞬間瞬間で必要なことに一生懸命取り組んで参ります!!
これで、2014年のエスコヤマ研修旅行記を締めさせていただきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!