vol.4レポーター岸本 幸大Yukihiro Kishimoto
引き続き、岸本幸大が5月15日のお昼、小山シェフとのお食事で連れて行っていただいたAsador Etxebarri (エチェバリ)のレポートを書かせていただきます。
私にとっては初めてのシェフとのお食事でしたので、実は少し緊張していましたが、「材料の鮮度が良い」という事と、シェフも何度も来られたことのあるお店だということを聞いていたので、「すごい場所なのだな!」とワクワクし、待ち遠しい気持ちでいっぱいでした。メンバーはシェフ、マネージャー、ブーランジュリーのダミアンさん、ショコラの白坂さん、販売の原さん、私の6人です。
エチェバリは、ビアリッツを出て、次に訪ねるビルバオへ向かう途中の山の中の村、Atxondo(アチョンド)にあり、周りには羊や山羊がのんびりあるいているようなのどかなところです。
ここは薪を使った炭火焼き(熾火)で調理される、「火加減が命」のレストランです。
例えば8品の料理を作るとしたら、その調理時間に合わせた火力や温度を常に保たなければいけません。それに応じて使用する薪の量・料理を出す時間配分を計算しながら、新鮮な食材を、その素材本来の美味しさが生きるような調理をしてくださいます(シェフのビクトル・アルギンソニスさんは「炭焼きの魔術師」とも呼ばれているそうです!)。
さて、実際にいただいた料理を紹介します。
まず、前菜はお店のすぐ近くで採れた野生のマッシュルームを使った一品です。
薄くスライスしたマッシュルームがクラッカーの上にたっぷりと載っていました。もちろん、これまでにマッシュルームは食べたことはありますが、ここまで香りが強いものは食べたことがないというくらい、インパクトが強かったです。調べてみると、セントジョージマッシュルームという種類で、4月~6月頃が旬だそうです。
続いて牡蠣の登場です。炭焼きでグリルされたほうれん草が敷かれています。
半生くらいに火が通った牡蠣は磯の香りが強く、口に入れるとその香りがいっぱいに広がってきました。ほのかに香る薪の香りが心地良かったです。何より驚いたのがほうれん草の味がグリルされたことによって、より一層甘く感じたことです。これには本当にびっくりしました。
続いては海老です。
味付けはおそらく塩のみですが、とても新鮮なのだなと分かるくらい、身に弾力があり海老本来の旨味と塩が混ざったバランスがとても良かったです。また海老の味噌もとても濃厚でした。テレビなどでも「甘い」というコメントを聞くことがありますが、今回「こういうもののことを言うのか!」と味噌にも感動しました。
続いてグリーンピースです。「ギザンテ・ラグリマ」という種類で、スペイン語で「涙の形のグリーンピース」という意味の、この時期にしか味わえないとても貴重なものだそうです。こちらは、シェフも一番楽しみにされていたとのこと。
日本でよく見かけるものと比べると、とても小さく、まだ子どものグリーンピースです。食感がとてもプチプチしていて甘かったです。新鮮なコーンを食べているような感じだと想像していただくと分かりやすいかもしれません。そこにグリルされた後に出てきたグリーンピースの水分が、少し苦味を持っていて、まるで抹茶を合わせたような味で、甘みと苦みの対比が面白かったです。
そして、メインの「チュレタ」というドライエージング(特殊な条件の元、酵素の力を使っての肉の旨味を最大限に引き出す熟成法)の熟成肉の骨付きステーキです。
焼き加減は自分の好みに合わせて焼いていただけるので、今回はミディアムレアでお願いしました。表面はとてもしっかりと焼かれているのがはっきりと分かります。中はレアかと思うほど鮮やかな赤色でありながら、しっかりと火が通っていました。そして、ナッティーな香りとともに食感は残しつつ程よく柔らかく、脂も良い感じで落ちていて、肉本来の味をしっかりと味わうことが出来ました。こんな火の通し方ができるなんて、とびっくりしました。食べ終わった後の満足感が心地よかったです。
デザートはスモークのアイスです。こちらにも燻煙の香りがほのかに付けられていて、水分が多いのか普通のアイスクリームよりもあっさりといただくことができました。
エスコヤマでも、昨年、「NINJA」という、桜のチップの燻製の香りのアイスがありましたがそれを思い出しました。ソースはベリーをコンサントレ(凝縮)したものです。
今回、いただいたメニューは全部で16品あったのですが、その全てがその素材のおいしさを味わえる、「素材が主役」ということをとても強く感じられるメニューで、食事の後はとても幸せな気持ちでした。
「Simple is Best」とよく聞きますが、まさにこれらの料理がそうなのではないかと感じた瞬間でもありましたし、また、他の食材に関しても「色んな味を合わせておいしくする」というだけではなく、そのものの持ち味を引き出すというおいしさを体験することが出来ました。
今回のお食事中に聞いた小山シェフのお話の中で、特に印象に残ったお話があります。
小山シェフ曰く、「フランス人は、伝統をとても大切にしていて、各地方の郷土料理にはじまった伝統料理と呼ばれるジャンルの時代から、ポール・ボキューズをはじめとするヌーベル・キュイジーヌなど、『フランス料理』は昔から周辺の国々に大きな影響を与えてきた。それに刺激を受けた国々の中でも特にスペインは独自の発展を遂げてきた」そうです。
こうして、伝統的に「影響を与える側」だったフランスですが、最近は自分たちが全く知らなかったことに対し、興味を持ち始めている流れがあるそうです。
「日本のものに関しては、鰹や昆布の出汁から感じる味覚の「旨み」や、柚子やわざび、抹茶などがそう。また、ガストロノミー(日本では、美食術・美食学とも訳される)の考え方が広まり始め、『分子化学調理』といった調理法まで、それぞれの分野における最先端の国々から学ぶ姿勢が強くなってきている」
その後小山シェフから大変興味深いお話を伺いました。
「じゃあ、『日本で働くフランス人』はと言うと、これまであらゆる料理を幅広く受け入れてきた日本だけあって、材料も豊富に揃うし、さまざまな調理法も実践されてきている。そんな国に長年住み、根っこにはフランス人シェフとしての感覚が染みついているから強い(オリジナリティーの面で勝てる人は少ない)に決まっている。2つの国の素材や調理法においてどちらの良い面も知っているから、そんな人が生み出す料理は新しい魅力があり、とても面白い」。
また、エスコヤマで働くフランス人のブーランジェのダミアンさんのことを「発想が面白くてパンチのあるものを創る」。さらに、「こんな話ができるのも、サンセバスチャンという、美食の街を創り上げてきた土地に立っているからこそだ」ともおっしゃっていました。
このお話を聞き、私も狭い考え方で留まるのではなく、常に新しいアイデアを取り入れられる柔軟な発想・姿勢を持ち、それを日々の作業においても意識することで、自身のレベルアップに繋がっていくはずだと思い、身が引き締まりました。
小山シェフ、この度は貴重な体験をさせていただきまして本当にありがとうございました。