vol.14 レポーター 岸田 仁寿 Masanori Kishida
オテイザさんの生ハム工場見学
さぁ!昼食もお腹いっぱいいただき、続いてはオテイザさんの生ハム工場見学です。
私達エスコヤマのスタッフは50名もいるので、10名5組に分かれて見学させていただきました。昼食をいただいたところから5分くらい歩くと、工場に到着します。
まず、入口に用意してくださっているネット帽をかぶります。
靴にもカバーをし、簡易の白衣を身にまとって、いよいよ見学開始です。
最初に入った部屋にはバイヨンヌ産の塩が山のように積んであります!!
これを工程の中でお肉にまぶして冷蔵庫で塩漬けにします。唯一の保存料は塩だとおっしゃっていました。そして、次の場所へには“もも肉”のかたまりで納品された豚の脚を生ハムの形に切る機械がありました。
次の部屋に入ると少し肌寒かったです。気温が常に12度に保たれているこの部屋の中で、各地方から納品されたお肉を冷蔵庫へ移します。
次の部屋に入るとまた機械が!!
このローラーにかけ、お肉をまんべんなく柔らかくほぐします。もみほぐされたら塩をまぶして、冷蔵庫へ。
冷蔵庫を見るとほんのり赤く色がついていました。これは、エスペレットピーマンとニンニクが合わせられた塩の色だそうです。
エスペレットピーマンとは、「エスペレット村でできたピーマン」という意味で、エスペレット村産が特に有名ですが、近隣の村でも生産されているようです(旅行最終日に訪れたサン・ジャン・ド・リュズの市場でも見かけました)。それを乾かして粉砕すると、一味唐辛子のような調味料ができあがるのだそうです。
見た目はピーマンと唐辛子の中間のような形状。唐辛子ほどではありませんが、少し辛みがあります。肉1㎏につき1日、15㎏あれば2週間ほど浸けておくとのことでした。
塩漬けが終わると次の冷蔵庫へ移します。時間が経つと水分が出て、約3%軽くなります。
塩を染み込ませていくことを"焼く"と言うそうです。面白いですね。
次の部屋に移し、室温12度・湿度70%の部屋で、表面を豚の油で表面を覆ってさらに寝かせ、4ヶ月後に状態をチェックします。
次の部屋では、自然の風を取り入れています。湿度が80%と高い時、晴れの日は、シャッターを開け、雨の日は閉め、 湿度や室温の調節をしています。
そして次の部屋で20ヶ月経つまで保存します。ここでも自然の空気を利用し、乾燥を進めていきます。全体を均一に乾燥させるために、全体が真っ白になるくらいまで脂で覆います。これをしなければ肉が固くなり、切りにくくなってしまうそうです。
そして次の部屋では特別な機械にかけて、表面に塗っていた脂を溶かし、隣の部屋に貯蔵します。 やはりここでも自然の空気を利用し、保存しています。
オテイザさんによると自然の空気を利用して乾燥させることは、他の工場ではやっておらず、ここだけとのことでした。これには地理的な要因が影響しているようです。
スペインはフランスより暖かく、海風が適度な湿気を運んでくれるので、自然の環境で保存ができ、美味しい生ハムを作るのに最適な環境なのです。ここから海まではバスで1時間半くらいだそうです。
そして最後が仕上げをする部屋です!
まず最初の機械で、太い骨を抜き取り、次にスライスしていきます。そして、隣の部屋で真空パックをしてレストランに出したり、出荷したりしています。
そしてこの後お店の裏山で飼育されているバスク豚を見に連れて行っていただきました。全体で、400頭を越える豚たちが山の斜面を駆け回っています。1ヘクタールあたり、30頭ほどの密度で飼育され、1頭あたりのスペースがとても広いそうです。
これは、いわゆる「神戸ビーフ」などとは逆の考え方で、なるべく脂肪を蓄えない、脂肪の少ない赤身に育てるため、山の上まで自由に走り回れるようにして運動量を多くしているのだそうです。
車で5分ぐらい山を登り、徒歩5分くらいで牧場に到着。歩いていると、途中の斜面にも昼寝をしている豚たちをみることができました。
到着すると、20頭くらいのバスク豚の子供が囲いの中で元気に動き回っていました。バスク豚は、生まれて2ヶ月程は、母豚の母乳を飲んで過ごします。4ヶ月頃まで仲間と共に成長させた後に、12-14ヶ月になるまで野山を駆け回って過ごします。この間は大自然の中で、栗やどんぐり、ブナの実などの季節ごとの恵みがを食べて大きくなります。
12-14ヶ月で体長1.4メートル、重量120-160kgにもなります。15カ月後、だいたい150-160kgまで増えると、脂身もそれ程厚くなく、肉質も風味豊かになり、有名な生ハムをはじめ、美味しいバスクのシャルキュトリ(ハム・ソーセージ・パテなど)加工品に処理されます(年間2000頭)。
こちらで育てられた豚たちは、AOC(「原産地統制呼称」)に則り、「キントア豚」と呼ばれます。「キントア」とは、アルデュー村一帯の地域を、バスク語でこう呼ぶところからきていて、「昔へのオマージュを込めている」とおっしゃっていました。
もし立寄られた料理屋さんのメニューで「バスク豚」「キントア豚」という単語を見られたら、レポートさせていただいた風景を思い浮かべていただけたらうれしいです。オテイザさんもきっと喜んでくださると思います。
これにて工場見学が終了です!
今まで全く考えたことのなかった生ハムの製造工程と、自然の中で育つバスク豚の姿を見せていただき、オテイザさんがつくる生ハムの美味しさのワケの一端を知ることができました。
単に「生ハム」といってもいろいろある中で、オテイザさんというその業界でもトップである生産者の方が取り組まれていることを目の当たりにし、自分の仕事においてもまだまだ自分は目の前のことを掘り下げられていないことばかりだし、知らないことばかりだと痛感しました。日々勉強です。これしかありません。
このような貴重な体験をさせていただき、小山シェフには本当に感謝しています。
こうして素晴らしい方々と再びお会いした時に、いつでも堂々とした姿でいられるよう、日々努力します。ありがとうございました!!
まだまだ旅は続きます。次のレポートもお楽しみに!